【50代が読むべきおすすめ本】小野小町の人生模様をつづった長編小説『小説小野小町 百夜(ももよ)』など3冊

アラフィー女性に読んでほしいおすすめ本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんがピックアップ。今回は、小野小町の人生模様をつづった長編小説『小説小野小町 百夜(ももよ)』ほか計3冊を紹介。
斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』ほか著書多数。最新刊は『出世と恋愛近代文学で読む男と女』(講談社現代新書)。
『小説小野小町  百夜(ももよ)』

『小説小野小町  百夜(ももよ)』

髙樹のぶ子

日本経済新聞出版 ¥2,420

在原業平を描いた前著『小説伊勢物語 業平』に次ぐ、平安時代を舞台にした長編小説。前篇の「花の色は」では小町の10歳から31歳までの日々を、後篇の「我が身世にふる」では年月がたったあとの、小町の後半生を描く。小町が抱えるもうひとつの屈託は、かつて母の大町を思い続けていた叔父の良よしざね)との関係で、このへんは「あんまり」な展開。それでも耐えしのびながら、自らの我を捨てず男にも媚(こ)びずに生きた小町の姿は爽快だ。

小野小町の謎多き人生模様をつづった異色の長編小説

平安女性のトップランナーといえば、やはり紫式部と清少納言。かたや『源氏物語』、かたや『枕草子』。このふたりは女性文筆家の2大スターだ。

がしかし、小倉百人一首に親しんだ人ならもうひとり思い出す女性がいるはずだ。そう、「花の色は移りにけりないたづらに 我が身世にふるながめせしまに」と詠んだ、あの小野小町である。

絶世の美女と謳われ、六歌仙のひとりに数えられる歌人ながら、生没年すら不明。残っているのは『古今和歌集』の18首の歌とわずかな伝承のみという謎の女性だ。しかも後世の謡曲『卒都ち)』などで描かれた小町は老いて物乞いに身を落としたみじめな姿だし。

髙樹のぶ子『小説小野小町 百夜』は残された歌を手がかりに想像力を駆使して小町の人生模様をつづった異色の長編小説だ。

物語は出羽の雄勝わのかち・現秋田県湯沢市)に生まれた小町が都に向けて旅立つところから始まる。小町は10歳。小野一族は陸つ)国、出羽国を治める役割を担っており、母の大町(おおち)の娘であることから彼女は小町と呼ばれていた。

ところが旅の途中の多賀のき・現宮城県多賀城市)で、小町は残酷な事実を知らされる。母はそこから雄勝に戻り、都に向かうのは小町とお伴の者だけという。

〈吾子(こ)の真のお父君は、都にて吾子を待ちおられます〉〈いやです、いやです。なにゆえ母上との別れなど〉。小町は必死に抵抗したがムダだった。父の名前は小野篁(たかむら)。若いころ、陸奥国に来た際、大町との一夜の契りで生まれたのが小町だったのだ。父は娘の存在すら知らずにいたが、雄勝に賢く美しい娘がいると聞き知って都に呼び寄せることにしたという。こうして小町は、都の父の邸で暮らしはじめたのだったが……。


冒頭から不穏な展開。母恋しさに打ちひしがれていた小町は、やがて歌の才能を買われ、仁明天皇の女にょうご)・縄子(つなこ)に仕えるまでに出世する。自身の才覚で道を開いたキャリアウーマンの人生だ。


だがその一方で、小町の恋模様はつらいものだった。時の帝に見初められたのが運命の分かれ道。そんなおそれ多い思いになど、応えられるわけがない。帝の手がついたところで彼女が妃になれるわけではなく、しかも小町は帝に仕える内舎ねり)の宗貞(むねだ)を思っていたからだ。こうなると小町と宗貞の恋もかなうはずはなく、有名な「花の色は……」という歌は、後年、出家した宗貞との間で交わされた手紙の中に登場する。

どろどろした展開を含みながらも優雅さを失わないのは平安文学の現代語訳かと見紛うような「〜でございます」調の文体に由来するところ大。得体の知れない人だった小野小町にみるみる血が通う、もうひとつの王朝文学だ。

あわせて読みたい!

『 小町はどんな女 「小説小野小町 百夜」の世界 』

『小町はどんな女(ひと) 「小説小野小町 百夜」の世界』

髙樹のぶ子

日本経済新聞出版 ¥1,760

『小説小野小町 百夜』のサブテキストとして刊行されたガイドブック。小町の出生地だったとの伝承が残る秋田県の雄勝(「あきたこまち」という米の銘柄名もここに由来する)をはじめ、小町がたどった道を美しいカラー写真で追いながら、作品誕生の背景を紹介する。

『桃尻語訳 枕草子 』

『桃尻語訳 枕草子』

橋本 治

河出文庫 上¥924・中¥880・下¥968

エクラ世代には懐かしい本では。当時の女子高生言葉を駆使し、〈春って曙よ!〉という衝撃的な書き出しで読者を驚かせ

た’87年のベストセラー。〈昼になってさ、あったかくダレてけばさ、火鉢の火だって白い灰ばっかりになって、ダサイのッ!〉。古典への接近法は多彩なのだ。

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