キッチンジャーナリストに聞いた!50代が知っておきたい最新キッチン事情

キッチンジャーナリスト・本間美紀さんに教えてもらうショールームに行く前に知っておきたい予備知識。
本間美紀さん(キッチン&インテリアジャーナリスト)

本間美紀さん(キッチン&インテリアジャーナリスト)

著書に『リアルキッチン&インテリア』『人生を変えるインテリアキッチン』『リアルリビング&インテリア』(小学館)など。早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌『室内』を経て、独立後はインテリアから考えるキッチン、国内外の家具、インテリア、デザイン、ライフスタイルなどを取材。インテリアキッチンのある住宅300件以上を取材。リアルなユーザーインタビューが多くの女性のキッチン観を変えてきた。世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。多方面からの取材で発見する「リアルな言葉」でキッチンとインテリアの世界をわかりやすく解説している。

好きなものを自分で選べるカスタムオーダー時代に

 長い間、日本では、キッチンといえば住宅設備機器メーカーのショールームに出向き、パッケージ化された、いわゆるシステムキッチンという製品を購入するのが主流でした。選べるといってもカタログに載った数種類の中から色を決めたり、収納を増やすくらい。一方、ヨーロッパでは、キッチンは家具としてとらえられ、家具メーカーで購入します。ワークトップも扉も、自分たちの好きな素材を選んで組み合わせ、そこにコンロや食洗機など必要な設備機器をプラスしていく。いわゆるカスタムオーダーといわれる買い方が主流です。日本のように水栓やコンロまで一式となったパッケージは存在しません。洋服をパッケージ化して買わないのと同じことです。日本がキッチンを設備としてとらえた消極的な買い方だったのに比べ、ヨーロッパでは自分の好み、個性を存分に発揮した積極的な買い方。そもそもの認識が全然違いました。

 ライフスタイルの変化とともに、日本でもヨーロッパのような買い方が徐々に一般的になってきました。キッチンが家の中心に躍り出て、リビングダイニングと同一空間になり、手持ちの家具、愛用の鍋や食器などとコーディネートしたいと、デザイン、色や素材を細かくカスタムオーダーする人が増えてきています。

料理を作るだけではない、暮らしに寄り添う多様なプラン

今やオープンキッチンはあたりまえ。アイランド型が主流です。最近はキッチン横にヌックと呼ばれる、子供が勉強をしたり大人が仕事をしたり、親子で話ができるスペースを、ダイニングとは別に作るケースも見られます。デスクのあるファミリースペースのようなイメージです。ヌックで電子機器類を使うこともあり、キッチンの引き出しや扉の中に、子供の学習用タブレットや携帯電話などの収納兼充電スペースを設ける例も増えているよう。もともとキッチンにはコンセントが必須なため、メーカーも問題なく対応できます。

 ほかにも、アイランド部分とダイニングテーブルが一体となったストレートテーブルと呼ばれるプラン、リビングの収納家具とキッチンが一体となったプランなど、ライフスタイルに寄り添った多様なプランが見られます。キッチンは単に料理をするだけの場ではなくなってきています。

とにかく収納を!は過去の話。使うものだけを美しく収納

キッチンに収納量を求めないのも最近の大きな特徴です。かつては、とにかくスペースさえあれば収納にし、床下収納まで作っていましたが、今はほぼ見かけません。手の届きにくい吊り戸棚は作らず、目線くらいの高さに窓やオープン棚を作り、お気に入りの美しい鍋や器を並べるといった傾向です。パントリーを作る家も多いですね。食品ストックや見せたくない置き型の家電などはパントリーへ。親世代とは違い、ムダなものは持たず、いいものを長く使うという意識が高く、厳選したもののみを持つようになったこと。それらを適材適所に収納し、収納量を超えたらリサイクルするという意識が浸透しているのを感じます。死蔵品のための収納を作るくらいならそこを窓にして自然光を取り入れたい、というマインドです。

色のトレンドはダーク系。素材の機能は格段にアップ

インテリア性の高いキッチンが求められるようになり、扉やワークトップの色や素材が重要になってきています。日本でのトレンドは色でいうとグレージュやグレー、そして黒。かつて黒は傷が目立ちやすい、デザイン的にも重すぎるなどの理由で業界ではタブーだった色。でも最近では扉だけでなくカウンタートップも真っ黒なキッチンが人気で、SNSのハッシュタグで「#ブラックキッチン」なんていうのがあるほどです。黒やグレーって食材や食器の色が映えるんですよね。それもSNS時代に人気の理由のひとつでは? 加えて比較的手の届きやすい国産メーカーが黒やグレーのキッチンを出していることも追い風になっていると思います。どんな色でも自由に選べる、いい時代になったということです。

 ワークトップは選択肢がとても増えています。ステンレス、人造大理石、メラミン、天然石などに加え、昨今人気なのが、エンジニアドストーンとセラミック。いずれの素材も10年前に比べて驚くほど機能やクオリティが向上し、日進月歩でアップデートされています。どの素材にもメリットとデメリットがあるので、自分の好きという気持ちを大切に選ぶことをおすすめします。後述する家電もそうですが、たとえデメリットや多少の使いにくさがあったとしても、自分が好きで選んだものなら仕方なしという「買う覚悟」をもつことも大切。キッチンは日々使い、目にする場所。だからこそぜひ直感で好きと思えるものを選んでください。

本間美紀さん

オープンキッチンが浸透しビルトイン家電が人気に

インテリアになじむ、スタイリッシュなキッチンが求められるようになり、ここ数年で一気に浸透してきたなと感じるのがビルトインのキッチン家電です。

まずは食器洗い機(以下食洗機)。おすすめは幅60㎝の海外メーカーのフロントオープンタイプです。海外メーカーにとって食洗機は世界中に市場のある主力製品。開発に注力するため機能もどんどんよくなり、安定します。幅60㎝をすすめる理由は準備に使った道具も、食べ終わった食器も、汚れた五徳、換気扇のパーツなども一度に洗えるから。もちろん一日3食分の食器をまとめて洗うことも可能。フロントオープンなら大きな鍋やボウルも出し入れしやすいです。手洗いより水の使用量が少なくてすみ、55〜70℃で高温洗浄するため、洗い上がりもすっきり、衛生的。もはやなかったころには戻れない、マストアイテムです。

熱源はガスコンロかIHかと悩みますが、今はハイブリッドで使用できる時代。国産メーカーの上位機種に、組み合わせて設置できるスタイリッシュなものがあります。私自身も昨年、IH2口と高火力のガスコンロ1口という組み合わせに変えてみました。中華などは高火力のガスで、煮込み料理などはIHの低火力モードでじっくり、と使い分け、より効率よくおいしく調理できるように。魚焼きグリルは減少傾向で、遠赤外線効果で食材をおいしく焼けるバーベキューグリルなどを設置する例も見られます。

海外メーカーのビルトインオーブンの設置もここ数年でとても増えています。電子レンジ機能つきもありますが、おすすめはスチームオーブン。モイスチャー機能で肉でも野菜でも、食材をしっとりと仕上げてくれます。1台で焼く、蒸す、煮るなど何役もこなしてくれ、使いこなせば完成度の高い料理がとても手軽にできます。大型オーブンなら、具材を入れた鍋をそのまま入れて、360度方向から均一に加熱する、という料理もできます。肉じゃがやおでんが煮くずれないという意外な長所もあります。最新のオーブンの機能はすばらしいですよ。

水栓はコロナ禍を経てタッチ水栓やタッチレス水栓の需要が増えています。タッチ水栓は触れるだけで、タッチレス水栓は手をかざすだけで吐水、止水ができます。衛生面はもちろん、手がふさがっていても吐水でき、ハンバーグをこねた手で水栓を触らなくていいなど、大変便利です。デザイン、機能に優れた海外メーカーの水栓は変わらず人気。ほぼどんな水栓にも対応できる浄水器もできて、選択肢がぐっと広がっています。色は黒や真鍮色が人気。黒いキッチンに真鍮色の水栓を合わせるのもトレンドです。シンクはシステムシンクが一般的に。例えばトーヨーキッチンの、洗うだけでなく調理の下準備まですべてできる、さらに進化したスライドシンクが話題です。

換気扇は吸気量もデザイン性もアリアフィーナがおすすめです。洗うのが面倒でにおいも気になる魚焼きグリルも、強力な換気扇と大きな食洗機があれば問題なし。家電や設備は組み合わせも重要ということです。なんでも手に入る時代だからこそ、まずは自分たちのライフスタイルを見直し、何が大切で何が必要かを取捨選択すること。そして手に入れたら徹底的に使いこなしてください。

本間美紀さん著書

キッチンジャーナリストに聞いた!50代が知っておきたい最新キッチン事情_1_3

『リアルキッチン&インテリア』(小学館)

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