【雨宮塔子 大人を刺激するパリの今】優しく大人を包むバー

雨宮塔子さんによる連載「大人を刺激するパリの今」。1回目のテーマは「優しく大人を包むバー」。サンジェルマンデプレでパリの最先端を体感。

CRAVAN

’23年夏にオープンしたカクテルバー。フランク・オードゥー氏が作った新時代のバーのコンセプトを「モエ・ヘネシー」グループがサンジェルマンデプレを舞台に大展開し、人気を呼んでいる。

ジンベースのカクテル「イ エロー」。

ジンベースのカクテル「イエロー」。リンドウの根のリキュール、シャルトルーズ、レモンを合わせたほどよい苦味とさわやかさが心地よい。€18

17世紀創建の建物を大改装 した店内。

17世紀創建の建物を大改装した店内。あえてインダストリー風の要素を盛り込むなど、遊び心満載のインテリア

舞台裏を思わせるようなおも しろい店内のディテール。

舞台裏を思わせるようなおもしろい店内のディテール。フランス式の地上階、1階、3階がバーフロアになっている

サンジェルマン大通りに面 した窓からは、サンジェルマ ンデプレ教会の塔と有名な2 つのカフェ『ドゥマゴ』と『フ ロール』のファサードがよく 見える

サンジェルマン大通りに面した窓からは、サンジェルマンデプレ教会の塔と有名な2つのカフェ『ドゥマゴ』と『フロール』のファサードがよく見える

石の壁にさりげなく刻まれ た店名。

石の壁にさりげなく刻まれた店名。

サンジェルマン大 通りとドラゴン通りとの角に位 置する建物一棟が丸ごとバーに なっている

サンジェルマン大通りとドラゴン通りとの角に位置する建物一棟が丸ごとバーになっている

通りから入口を入ってすぐのバーカウンター。『クラヴァン』第 1号店、16区にある同名のバーからインスパイアされた内装

通りから入口を入ってすぐのバーカウンター。『クラヴァン』第1号店、16区にある同名のバーからインスパイアされた内装

1階はドラッグストアをイメージした内装。

1階はドラッグストアをイメージした内装。椅子の背の部分が鏡になっていたり、マチエールがユニーク。この日、深緑の大理石や真紅のソファという店内の雰囲気を意識して雨宮さんが選んだのは、セリーヌのジャケット。サンローランのニット、リーバイスのヴィンテージデニムを合わせて

サンジェルマンデプレでパリの最先端を体感

今から20年くらい前のことを思い出すと、パリのバーというイメージはあまり強くありません。もちろん「リッツ パリ」の『バー ヘミングウェイ』は有名で、日本からのお客さまのご希望があれば案内していましたけれど、私自身が率先して行くという感じではありませんでした。その後、ホテルの新しいバーなどにも行ってみたりしましたが、「あちらの男性からのオファーです」というようなことがあると、(ちょっと面倒くさい)と感じて足が遠のいていました。

ところが、ここ10年ほど。カウンターで軽い食事をしながらカクテルを楽しめる気のきいたお店ができてきて、バーで飲むというのが好きになってきました。

女性同士で会うとき、日本では「お茶しよう」というのが一般的かもしれませんが、パリでは「アペロしよう」ということも多いです。夕飯の前の時間、昔ながらのカフェで、ハッピーアワーに一杯ということもありますが、最近の気分はむしろおいしいカクテルを出すバー。女性同士、あるいはひとりでもふらりと気軽に入れる店があるのがうれしいところです。

この変化には子供たちの成長という理由も大きいです。以前、友だちと会うなら家事の合間にお茶をする感じでしたけれど、家族の夕食時間にそれほど神経質にならなくてよい今、バーを楽しめる余裕がもてるようになってきました。そこでなら、カフェで話すよりもより深い話ができる。友だちの悩みを聞くのに、優しく包み込んでくれるような雰囲気がバーにはあるような気がします。

『クラヴァン』のコンセプトを 作ったフランクさんと。

『クラヴァン』のコンセプトを作ったフランクさんと。2階は、ニューヨークの「リゾーリ」書店のパリ版。セレクションされたアートブックがおしゃれに並んでいる

ボトル入りカクテルも『ク ラヴァン』ならではのコンセ プト。

ボトル入りカクテルも『クラヴァン』ならではのコンセプト。テイクアウトできる。添えたひと皿はフォカッチャ。おろしたカラスミを添えて。€14。

スツールが書見台 にもなるオリジナルデザイン の家具も

スツールが書見台にもなるオリジナルデザインの家具も

ぐっと大人っぽいムードの3階。

ぐっと大人っぽいムードの3階。建物本来の梁天井と、新しく制作したフレスコ画の壁とが調和している

人生を振り返る年齢になった私を 優しく包み込んでくれるようなバー空間が 今とても心地よいと感じます。

Accoudée à ce bar qui m’embrasse doucement je repense à ma vie.

―人生を振り返る年齢になった私を優しく包み込んでくれるようなバー空間が今とても心地よいと感じます。

子供たちも気楽に入れるようなレストランに行っていたような時代を過ぎて、人生を振り返る……。ここでもう一度、自分自身の時間を充実させる次の段階にきているのを感じます。

バー『クラヴァン』は、オープンしたてのころからとても気になっていました。歴史的建造物丸ごと一棟がバー。しかもフロアごとに印象が違う遊び心のあるコンセプトで私たちを迎えてくれます。「モエ・ヘネシー」グループがかかわっているというだけに、さすがの内装なのですが、実際に体験してみると、「映え」や話題性だけのお店ではなく、カクテルも食事もとてもしっかりとしていておいしいのです。

『クラヴァン』のコンセプトを作ったフランクさんに今回初めてお会いしましたが、いい意味で人格の丸いかただと感じました。パリで成功しているコンセプターというと、スノッブだったり上から目線だったりというイメージがありますが、フランクさんには懐の深さを感じます。どこかダークなイメージがつきまとっていたかつての天才とは違い、日本人では藤井聡太さんや大谷翔平さんのような人格者が成功しているように、パリの成功者のタイプも変わってきているのかもしれません。また、とても気持ちのいいサービスをしてくれるスタッフの皆さんにしても、性別、年齢、人種の多様性が顕著で、お客さまも国際性豊か。(パリはこういう傾向なのか)と、今現在のパリの空気感が、ここ『クラヴァン』に満ちています。

DATA

165, boulevard Saint-Germain 75006

Paris France 17:00〜25:00

㊡日・月曜

https://www.cravanparis.com/fr

Toko Amemiya

Toko Amemiya

フリーアナウンサー・エッセイスト。6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。’16年から3年間『NEWS23』のキャスターを務める。その後拠点をパリに戻し、執筆活動のほか、美術番組への出演や現地の情報をメディアに発信している。YouTubeチャンネル『A l’aube by Toko and Maho』も更新中。
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