【私が“右近推し”する理由】神田伯山が激白! 尾上右近の魅力とは?

実力、人気ともに、今最も熱くそして期待される歌舞伎俳優・尾上右近。ファンを公言している講談師・神田伯山が語る尾上右近の魅力とは。あふれる愛と無限の期待。彼の芸がみんなの妄想をかきたてる!?

彼の舞台を観ると「生きてるな」って思うんですーー講談師 神田伯山

尾上右近
撮影 伊藤彰紀(aosora)

6年ほど前に伝統芸能の会で一緒になったときが右近さんとの初対面です。最初の印象は少しやんちゃな感じで、でも同時に品があって、彼が生きている伝統の世界と現代とを、スーッと行き来しているような不思議な魅力がありました。以来、右近さんのラジオに呼んでいただいたり、僕が主宰する会にも出ていただいたりと交流が続いています。

彼がほかの役者と明確に違うのは、「欲」が突出していることです。歌舞伎役者の家に生まれた御曹司のかたがたは鷹揚なかたが多くて、それが良くも悪くも芸にも出るのですが、そんな中で清元の家に生まれた右近さんは、役者としては良質な欲を隠さず舞台に立っていて、少年漫画のようなきらきらした輝きがあるんですね。それが見ていてすごく楽しいです。

自主公演内の踊りひとつでもAパターンで踊って、次はBパターンで踊らなくてもいいのに、違うパターンにまたチャレンジする。歌舞伎への愛と欲が強いから、いろいろ冒険したいんだと思います。

芸の幅も広くて、女方が美しいのはもちろん、二枚目も三枚目もできる。それも型をなぞるだけでなく、枠からちょっとはみ出すんですね。変に収まっていない。そういう若さが彼の芝居にはいつもあって、それが観ていて気持ちいいなと思うんですね。

今年3月に京都の南座で『河庄』を観たときも、ご通家のかたから見れば、「現代がすぎる」と思うのかもしれないですが、お客さまに喜んでいただきたい、「歌舞伎って、おもしろいでしょ」とわかってもらいたいというサービス精神を感じました。型にはまって演じることである程度収まりながらできるのに、それだけに決してとどまらない。そういう彼のエネルギーあふれる舞台を観ると、僕もすごく力が出るんですね。「ああ、生きてるな」って思います。寄席の芸人でもいるんですよ。ネタは三席くらいでずっと回している人。うまいんですよ。噛みもしないし、よどみもしない。でも芸が生きていないんですね。同じことをずっとやっているから流暢だけど心が入ってない。でも、右近さんの芸は全部生きている。血が通っている芸だと思います。それがすごくうれしいです。

だから今の時代に尾上右近という若獅子みたいな役者がいるのは、すごく幸せなことじゃないかと思います。彼は、由緒正しい家柄の生まれだけれど、はい上がろうとする野心がたくましいところがあって、「なんでもやって、俺たち世代で歌舞伎を盛り上げていこう!」という気概に満ちている。そういう良いとこ取りの精神こそ現代に求められる要素のひとつだと思います。

これから先、尾上右近をさらに売っていくには、歌舞伎以外のジャンルで、「ここがすごい!」みたいなものがあると突破口が開けるのかなと思います。清元は家の芸で歌舞伎の内側になってしまうので、外に開かれた二刀流がいいですね。例えばボディビルダーになるとか(笑)。楽屋でささ身ばっかり食ってるとか、女方なのに腹筋バッキバキとか。ちょっと人からいじられるような「隙」ができると突破口が開けるんじゃないかと思います。右近さんは共感してくれなそうですが(笑)。

講談師 神田伯山
かんだ はくざん●’83年、東京都生まれ。’07年、三代目神田松鯉に入門。松之丞を名乗る。’20年2月、真打昇進と同時に六代目神田伯山を襲名。ラジオパーソナリティとしても活躍。
 

今の尾上右近を見逃すな!最新出演情報

六月ー開場二十五周年記念『六月博多座大歌舞伎』博多座6/2~17/夜の部『東海道四谷怪談』
七月『七月大歌舞伎』歌舞伎座7/1~24/夜の部『裏表太閤記』
八月
自主公演『研の會』が開催予定。

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    その勢いが止まらないどころか、今年に入ってますます加速している。正月公演という大舞台で『京鹿子娘道成寺』を演じたのを皮切りに、二月松竹座、三月南座の近松作品への主演、そして六月博多座『東海道四谷怪談』と躍進と挑戦の連続だ。実力、人気ともに、今最も熱くそして期待される歌舞伎俳優。テレビやSNSからではわからない俳優・尾上右近の魅力を、超絶の盛り上がりだった1月の歌舞伎座千穐楽を特別に撮影した舞台裏写真と各界のファンの熱い声援とともにお届け! 今回は演劇評論家・渡辺 保が尾上右近を観るべき理由を語る。

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