ブームの仕掛け人に聞いた!韓国文学の現在地とは?【大人にこそ響く、韓国文学】

韓国発のエンタメは私たちの生活に浸透してきたが、文学も今、注目の的。東京・神保町の韓国書籍専門書店『チェッコリ』店主に、韓国文学の現在地を聞いた。
韓国書籍専門書店『チェッコリ』店主 キム・スンボクさん

韓国書籍専門書店『チェッコリ』店主 キム・スンボクさん

キム スンボク●ソウル芸術大学卒業後、日本に留学。’07年に出版社クオンを設立、エージェントとして韓国書籍を日本に多数紹介。東京・神保町の韓国書籍専門書店『チェッコリ』店主でもある。

「日本の小説に影響を受けた、アラフィーの作家たちが元気です」

キム・スンボクさん

韓国の本が日本で増加した理由

ハン・ガンの小説を日本に紹介したことで知られるキム・スンボクさん。ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞した際は、うれしさだけでなく驚きもあったという。「私たちの書店にお客さまが“よかったですね!”と花束を持っていらしたんです。その多さに驚くと同時に、“韓国文学が日本に浸透しはじめている”と感じました。その後ハン・ガンのすばらしさ――過去のトラウマを考えぬく姿勢や説明しすぎない文章の魅力がたくさんの人に伝わっていくのを実感して、“ノーベル賞の効果はやはりすごい”と思いましたね」

この15年で約20倍増加したといわれる日本語訳の韓国の本。その背景にはいくつかの画期的なできごとがあったという。「ひとつは韓国ドラマ人気。コロナ禍には『愛の不時着』が盛り上がりましたが、あの時期に配信で見てハマり、“そこから小説に興味をもちました”というかたが多いんです。Kポップの影響も大きい。BTSなど韓国のアーティストはインタビューで愛読書について語ることが多いのですが、ファンが彼の心理を知りたくてその本を購入するので、爆発的に売れる。インフルエンサーとしてはトップです」

社会への影響も大きかったのが『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)の大ヒット。韓国では’16年に、日本では’18年に刊行された小説だが、“普通の女性”の生きづらさを描いて共感を呼び、ほかの多くの国でも読まれた。

「作者のメッセージがわかりやすく伝わる小説。それまで韓国には“純文学が王道”という雰囲気がありましたが、この本が売れてフェミニズムの機運が高まったことで、純文学と大衆文学の境界がくずれた気がします。最近はエンタメ性の強い小説がどんどん出てきていますね」

日本のカルチャーが好きな作家たち

ハン・ガン世代に実力派がひしめく一方で、若手の台頭も目覚ましい韓国の文学界。キムさんによると“日本文化や日本人作家の影響を受けた”と公言している作家がとても多いという。

「ハン・ガンは’70年生まれですが、彼女の世代は日本のアニメや漫画を見て育ち、Jポップを歌った人たち。日本文化に触れられなくなった時期もありましたが、ゆるやかに解禁された’90年代以降は村上春樹や江國香織、吉本ばなななど多くの日本人作家の作品が読まれ、文学好きに大きな影響を与えています。例えば『ノルウェイの森』を読んで“歴史や社会の問題ではなく自分のことを書いていいんだと思った”といっている作家もいます。とはいえ韓国の作家が“自分のこと”を書くと、背景にある骨太な問題も表れるのですが。最近私は“韓国文学に影響を受けている”という日本の作家や詩人の声をよく耳にします。日韓が影響しあってそれぞれの文学がある今は、とてもいい時期なのではないでしょうか」

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