常軌を逸した陰気な配色、尋常ならざる裂の配置ということで、「あのねえ、本来はですよ…」と関係各位よりご指導賜り、少し賢くなりました。
本紙は紺紙金字経です。金の輝きは仏の光、紺は「七宝」のうちの瑠璃の色。紙はあらかじめ打って滑らかにし、丁寧に金泥で書写したのち、一字一字、イノシシの牙で磨く――。そうやって金字がよりきらぎらしく、艶やかになるように工夫が凝らされています。
このド地味な表具は、蝋燭の明かりで見るときに、文字だけが浮かぶようなステルス性を追求してみたもの。色味からすると、『エクラ』でいう「ワントーンコーデ」にゴールドジュエリーという感じでしょうか。本来、表装は額装よりもパーツが多いので、変化のつけどころがたくさんあります。コーディネート力に自信のある方にはおすすめの分野です。
いろいろ軸物を見ていると、粋な絵や美人画ほど表装に凝っていて、仕立てた人の作品への入れ込みぶりや作品理解をたどれることもあります。その一方で、図録に載ることは極めて稀。ネットに画像があふれる時代になっても、その多くは‟一期一会”。日本美術の展覧会では、ぜひ表装の美もチェックしてみてください。
(編集B)