【シネマに乾杯!~シャンパーニュ編~】“祝福のお酒”はシーンを彩る名脇役

ワインを知ると映画はもっとおもしろくなる。ワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が、映画に登場するワインの背景を解説。今回はシャンパーニュ編。誰もが知る名画とシャンパーニュの関係を紐解きます。

『007/スペクター』×「ボランジェ」

『007/スペクター』
Ⓒ 2015 Danjaq, LLC, Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Columbia Pictures Industries, Inc.

英国王室御用達メゾンの伝説の女主人は、愛する人を守りぬく“元祖ボンドガール”!?
“007”ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)のお気に入りが「ボランジェ」。エリザベス女王のロイヤルワラントを持ち、まさしく“女王陛下のシャンパーニュ”でもある。実は、「ボランジェ」が常に007のかたわらにあることが自然に思える史実がある。それが、メゾンの伝説の女主人で4代目ジャック・ボランジェの妻、マダム・リリーの武勇伝だ。彼女は第2次世界大戦下、遠くに爆音を聞きながらシャンパーニュを造り続けた人物で、シャンパーニュを供出させるために突然訪れたナチスの将校を追い返したという。メゾンや従業員など、愛するものたちを命がけで守りぬくその姿が、どこかジュディ・デンチ演ずる「M」や007とともに戦うボンドガールと重なる。ちなみに、新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』公開を記念してリリースされたのが「ボランジェ007 リミテッド・エディション ミレジメ 2011」だ。前作『007/スペクター』には「ボランジェRD 2002」が登場。

●U-NEXTにて配信中

ボランジェ 007 リミテッド・エディション ミレジメ 2011

ボランジェ 007 リミテッド・エディション ミレジメ 2011

ピノ・ノワール100%。美しい果実味と酸味で、力強く芳醇な味。「ボランジェ」登場は『007/死ぬのは奴らだ』から。750㎖ ¥26,000/アルカン

 

『シンドラーのリスト』×「ドン ペリニヨン」

『シンドラーのリスト』
Ⓒ 1993 Universal City Studios, Inc. and Amblin Entertainment, nc. All Rights Reserved.

当時、知っている人は少なかった? シンドラーはスタイリッシュな情報通!

第2次世界大戦下、ナチス党員でありながら1000人以上のユダヤ人を救ったオスカー・シンドラーの“命の物語”。出世のため、ナチス高官に贈り物を選ぶシーンで、部下に指示した銘柄が「ドン ペリニヨン」なのだが、初リリースは1936年で、終戦までに発売されたのはわずか4ヴィンテージ(1921、28、29、34年)のみ。当時は知る人ぞ知る逸品だった。危険な英断に踏みきった彼の進歩的な側面が「ドン ペリニヨン」を通じて見えてくる。

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ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2008

ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2008

優良年のブドウのみを用い、さわやかな果実香とスモーキーな味わいが絶妙。750㎖ ¥25,900/MHD モエ ヘネシー ディアジオ

 

『タイタニック』×「モエ・エ・シャンドン」

ディカプリオが飲んでいたのは、実際のタイタニック号で出されたものとは別銘柄⁉

1912年に起きたタイタニック号の悲劇のもと、ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の純愛が描かれている。ジャックが1等船室のダイニングで「人生は贈り物」と語りつつ、「モエ・エ・シャンドン」を飲むシーンがあるのだが、実際に船内で出されていたのはプライベートブランドの「ホワイトスター」で、中身が「モエ・エ・シャンドン」だった。上流階級に長く愛されてきた名門らしい秘話。

モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル

モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル
ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネをほぼ同等にブレンド。果実味と酸味のバランス抜群! 750㎖ ¥6,500/MHD モエ ヘネシー ディアジオ

 

映画の中のワインは、いわゆる小道具のひとつ。食事やパーティのシーンにちらりと登場するだけのことが多い。だが、“ワインの奥にある物語”を知ると、映画がより深い意味合いを帯びてくるから不思議。そのワインがあることで、登場人物の趣味・趣向や社会的背景を含めた人物像が浮かび上がり、物語が幾重にも折り重なって見えてくるのだ。

 

今回は、“祝福のお酒”シャンパーニュにフォーカス。007が女性を口説くときをはじめ、主人公たちの成功を祝うシーンなど、要所に登場する“名脇役”だ。淡いゴールドの泡が彼らの人生を鮮やかに彩り、“リアル”を感じさせてくれる。はじける泡とともに映画を見れば、きっと彼らが生きる世界の中に入り込めるはず!

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