アラフィー世代の婚活事情のリアルが見えてくる本【斎藤美奈子のオトナの文藝部】

人生100年時代を迎え、シニア婚活も珍しいものではなくなった昨今。中高年の婚活から見えてくる悲喜こもごもの人生模様をリアルに描いた小説をご紹介。大人同士の結婚は一筋縄ではいかない。現代の家族のあり方について考えさせられます。シニア婚活や未婚中年がテーマのノンフィクションも併せて読みたい。
斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『文章読本さん江』『趣味は読書。』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』『日本の同時代小説』ほか著書多数。
『結婚させる家』

『結婚させる家

桂 望実

光文社 ¥1,600

40歳以上限定の結婚情報サービス会社「ブルーパール」を舞台にした中高年の結婚事情。カリスマ相談員の桐生恭子(52歳)もわけありの人物で、「結婚相談所の相談員が独身では説得力がない」と上司にいわれ、仕事中こそ結婚指輪をしているものの、実は独身。「交際」は気軽にできても結婚を前提にした「真剣交際」にはなかなか進めず、まして結婚を決断するのは至難の業という、現代のカップル事情がかいま見える。

『ルポ シニア婚活』

ルポ シニア婚活

篠藤ゆり

幻冬舎新書 ¥840

65歳以上で結婚する人は、2000年には7800人だったのが’15年には1万4500人にまで増えた。シニアに特化した婚活情報サービス会社では80代の会員も珍しくない。シニア婚活パーティから、実際にそれで結婚した人まで取材した本書には、なまなましい実例が多数登場する。

『未婚中年ひとりぼっち社会』

未婚中年ひとりぼっち社会

能勢桂介 小倉敏彦

イースト新書 ¥860

現代の45〜54歳の男性の生涯未婚率は23.4%(’15年。女性は14.1%)。この年代の男性へのインタビューを交えた社会学の本。性別役割分業を前提に男性が女性を養う「昭和婚」が過去のものになっても、その価値観から抜け出せない男女がまだ多いなど、うなずける分析多し。
 

アラフィー世代の婚活事情がリアルに見えてくる

結婚なんてしたい人がすればいいのよ。と私は思っているのだが、今はそんな呑気な時代じゃないみたいね。結婚したいのにできない人の多さは少子化の進行ともあいまってすでに社会問題といえるほどだし、その一方では、人生100年時代を迎え、新たなパートナーが欲しいと考えるシニア層も増えている。

 
桂望実『結婚させる家』は今般のそんな結婚事情を背景にした小説だ。舞台は40歳以上限定の結婚情報サービス会社。ここの敏腕相談員・桐生恭子が新しいプランを提案したところから物語は始まる。交際中の会員カップルに付き添いの家族同伴で1週間一緒に暮らしてもらう宿泊体験。都心の一等地に立つ大邸宅(通称M屋敷)でプレ夫婦生活を体験してもらおうというのである。
 

〈部屋は十室あります。全部インテリアが違っていまして広さも違います。どの部屋を誰が使うのかといったことは、ご両家の皆さんで決めてください〉

 
こうして始まった5組のカップルのプレ夫婦生活は、想像どおり波乱含み。交際中とはいっても、まず皆さん、都合の悪い過去のことは相手にいってませんよね。おまけに桐生恭子は、プロフィールの趣味の欄には嘘でも料理と書いておけとか、好かれるための演技をしろとか指導する。
 

ともにバツイチの吉村梨佳(51歳・病院受付)と細田泰彦(53歳・塾講師)の場合はそれぞれの過去を隠していた。初日の夕食時、梨佳が〈泰彦さんは学校の先生になろうとは思わなかったんですか?〉と質問した途端、空気が変わった。泰彦は28年前、生徒の事故が原因で中学校の教師をやめさせられていたのである。
 

それはまだよかった。食事後、キッチンのゴミ箱を開けた梨佳は大声を上げた。〈煙草の吸い殻が捨ててあるわ。どうしてこんなことが出来るの? 水に漬けて完全に火を消してからじゃなきゃ、危ないじゃない〉。梨佳が出した結婚相手の条件は「煙草を吸わない人」。吸い殻を捨てたのは泰彦の息子だったが、梨佳の怒りは収まらない。誰にもいっていなかったが、彼女は元夫の煙草の火の不始末で自宅を焼失し、2人の子供まで失っていたのだ。

 

そんな重大なことを相手に隠すか?と思うけれども、重大だからこそいえないのかもね。

 

子供が欲しいから30代の女性じゃないとイヤだとゴネる男性会員(53歳・製薬会社勤務・バツイチ)。年収2000万円以上という条件を曲げない美貌自慢の女性会員(54歳・読者モデル・バツ2)。恋愛結婚とはまた違った悲喜こもごもの人生模様はかなりリアル。大人同士の結婚は一筋縄ではいかない。現代の家族のあり方について考えさせられます。

 
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