美容ジャーナリスト・齋藤薫さん「“成功”などなくても“喜び”があればいい」around 60からの働き方を提言!

ビューティを介して女性の生きる道を明るく照らす、美容ジャーナリスト・齋藤薫さん。心と体の変化に合わせて仕事を整理する50代を経て、60代でたどりついた、齋藤さんにとっての心地よい働き方の結論とは。齋藤さんからエクラ世代へのメッセージ!
齋藤薫さん

齋藤薫さん

さいとう かおる●美容ジャーナリスト。エッセイスト。女性誌編集者を経て独立。時代を切り取るシャープな目線と女性をエンパワメントする温かさをあわせもつエッセーが人気。美容記事の企画・執筆、化粧品会社や百貨店のコンサルティングなど活躍は多岐にわたる。新刊『“一生美人”力 セカンドステージ――63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。

人生をやみくもに歩くのをやめるのが50代

齋藤薫さんといえば、誰もが認める美容ジャーナリストの第一人者。その仕事量はひとりでこなせるレベルを遥かに超え、ワーカホリックに違いない、いつ寝ているんだろうと噂になるほどだった。

「いただいたお仕事はありがたくやりなさい、と母にいわれた影響で、仕事を断らない、という基本的スタンスがありました。でも本当は仕事が好きなタイプではまったくなく、金曜の夜が一番幸せで日曜の夜は一番不幸。それなのに声をかけていただくとうれしくて張り切ってしまう。矛盾していますよね」

私たちと同じサザエさん症候群に、シンパシーを感じてしまう。

「30歳で出版社をやめて31歳で事務所を立ち上げたときは、45歳くらいまでできればいいと思っていたんです。成功願望もこうなりたいという目標も皆無な私ですが、若いころってなんでもやりたいし、調子に乗っているし、やれそうな自信もあるでしょう。雑誌編集や執筆だけでなく、頼まれるままに広告制作、デザイン、テレビの企画まで膨らんでいました」

“齋藤薫”は時代に求められ、忙しさはヒートアップ。多い月は毎日5、6本の締め切りを抱えていたという。

「完全なキャパオーバーで、どこにも出かけられず、休みもゆとりもなく、推敲が足りないひどい原稿や詰めの甘い校正など、後ろめたい仕事をしていた時代もありました。もう少し落ち着いて向き合わないと、と反省しながら、タスクに追われ。私の仕事人生は、決してほめられたものではないんです」

いつのまにか、コスメブームを牽(けいん)する立役者にもなっていた。

「あるとき、化粧品のコメントばかり求められていることに気づいて。私はもともと編集者で美容家ではないし、美容は好きだけどコスメフリークでもありません。これはやるべき仕事なのか、望んだ仕事をやっているのだろうか、と自問自答の繰り返しでした」

60歳直前で“仕事をやめよう”と一大決心。でも、人生100年時代なんて急にいわれて、慌てて撤回(笑)

生きるために働く。でもそれだけじゃない。やりたいこと、私だからできることがあるはず。


体力が衰える50代後半に母の半介護も重なり、仕事が終わらない、このままだと命にかかわる、と感じた。それは60歳を前に、会社員や教員の友人がリタイアの準備を始めるタイミングでもあった。

「ここまでよくがんばった、やりきった、という気持ちになり、私も仕事を卒業しようと一大決心。会社を背負うプレッシャーもつらく、スタッフには独立してもらって。皆、今は大活躍ですが」

学校に入って学び直しも夢見ながら、仕事の整理を考えていた。ところが、である。

「この前まで“人生80年”だったのに、いきなり20年上乗せされて人生100年時代宣言でしょう。それならもっと蓄えが必要だ!とあっさり前言撤回。そのくらいいつもなりゆき任せで、ふわふわした人間なんです(笑)」

とはいえ、自分を追い詰める働き方を見直す必要はあった。

「何をしているときに幸せを感じて、ストレスが少ないか。それはやっぱり書くことでした。いやなこと、苦手なことを手放し、自分のペースでていねいに書くことだけに専念しよう。仕事の種類を減らす作業です。広がってしまったものを収束していく、人生を振り返り、やみくもに歩くのをやめるのが50代なのかもしれません」

around60からの働き方

自己実現、自己表現より誰かの幸せをテーマに

タブレット端末で音声入力や、デザインをできるようになったことが、私の中の、“仕事革命”でした

実は齋藤さん、数年前まで完全なアナログ人間で、手書きの原稿をスタッフが打ち直していた。

「でも今は、原稿はすべてタブレット端末の音声入力。必ずその日がくると確信して待っていました。デザインも、説明書を読むのが嫌いなので、遊び感覚で触りまくって機能をマスター。ページ制作も校正もタブレットひとつで片づけます。書いたり打つより早いし、目も疲れません。プリントもいらないから、旅をしながら仕事ができる。自由になってストレスが激減。タブレットの導入は私にとって大きな仕事革命でしたね」

これまでやってきた美容の仕事とは別の一面も欲しいと思って、50歳を過ぎて、音楽サロンをスタート

ところで、齋藤さんには、本業とは違うもうひとつの顔がある。

「ずっと、美容脳だけの一面的な人になりたくない、と考えていました。本業以外に何か別の一面が欲しい、と、50歳を過ぎたころに、音楽サロンをスタート。ワインを飲みながら演奏を聞いたり合唱をしたり、音大生たちに発表の機会を提供したり。好きなことに熱中したときのひらめきは、新たな生きがいになっています」

求人広告を見る前に、一回、本気で自分の心を見つめてみて。喜びを感じることは、探せば絶対にあるから

最後に60代からの仕事のテーマは“幸せ”と“喜び”とアドバイス。

「若いころの仕事は、流れだったり、義務だったりして、質より量になりがちです。私たちはパワーやスピードで劣るぶん、ていねいさ、心地よさ、クオリティにこだわるべき。だからこそエクラ世代には求人広告を見て、できる、できないと判断する前に、一度本気で心に問いかけてほしいんです。自分はどんなときにうれしくて、何をしていると喜びを感じるかを」

成功を目ざし高い目標を掲げるとがんばりすぎるし挫折も大きい。これからは好きなこと、うれしいこと、幸せなことを選んで心をきれいに保つ。それが新しい可能性につながるのかもしれない。

「私の場合は、オーダーに応え、ていねいに書くこと。ブランドでも商品でも人物でも、ご本人でさえ気づいていない魅力を読者に伝え、心を動かすことができたときに、最も喜びを感じます。人生後半は、自己実現、自己表現より、誰かの役に立ちたい、誰かを幸せにしたい。それをテーマにすると自ずと道が開ける気がするのです」

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