華やかで躍動感があり、誰が見てもわかりやすい「連獅子」は、歌舞伎入門演目の筆頭。今月尾上右近さんと尾上眞秀さんの舞台は、何度もリピートしたくなる深さと濃さがある。
父親が歌舞伎俳優ではない二人の『連獅子』。
現在、「四月大歌舞伎」(歌舞伎座)で上演され連日大盛況の『連獅子』。二人の狂言師が獅子の親子の厳しくも温かい情愛を踊ってみせる前半、さらに親子の獅子の精が勇壮な毛振りを披露する後半と、見どころ満載の人気作。
狂言師右近後に親獅子の精を尾上右近さんが、狂言師左近後に仔獅子の精を尾上眞秀さんが勤め、話題になっている。
「2024年に自主公演『研の會』で眞秀さんと『連獅子』をやったのですが、それを歌舞伎座の本公興できるということで、まずはその喜びをかみしめながら舞台に立っています」と右近さん。
じつは二人には共通点がある。それは親が歌舞伎役者ではないこと。そんな二人が『連獅子』をやることになった。
「以前、眞秀さんが『連獅子』を観たがらないという話をお母さんの寺島しのぶさんに聞いたことがあって、懐かしい気持ちになったんですね。というのも、僕も昔、歌舞伎のファミリーの番組なんかを観ると、羨ましいというか、とても寂しい気持ちになったことがあって。『連獅子』も最近、役者の親子で演じることが多いので、眞秀さんもきっと寂しい気持ちになったんじゃないかなと思ったんですね。
だけど振り返ってみると、僕の場合、俳優の先輩おひとりおひとりが兄となり、親代わりとなって育ててくれて、『血よりも濃い水がある』ということを教えてくれました。だから『歌舞伎をお父さんだと思えばいい』と眞秀さんには伝えたんですね。それが僕の実感してきたことでもあったので。そしてその寂しさと向き合いながら、親子の対話を踊りで表現できたと思っています」。
また「30代前半で親獅子をやれるというのも貴重な経験」と言う。
「親獅子は勇猛さ、豪快さが大事ですが、それは『暴れる』ということではないと思うんですね。獅子の中にある荘厳な雰囲気、霊獣としての気高さみたいなものを大事にして、親獅子を勤められたいと思います」。
踊りの手ほどきをしてくれた尾上墨雪先生。 師匠との『連獅子』では仔獅子に
「四月大歌舞伎」では親獅子を勤める右近さんですが、過去に4回、仔獅子を勤めた経験が。「そのときの親獅子は、八代目尾上菊五郎さん、市川團十郎さん、市川猿之助さん、尾上松也さんの4人。4人もの親獅子のもとで仔獅子を勤めた役者は他にはいないと思うので、その経験は自分にとって宝物」と言うが、今年1月、あらたな仔獅子体験が加わった。
「日本舞踊の尾上流の舞踊家が一堂に集まる『尾上会』という大きな会があって、そこで尾上流のお家元の尾上墨雪先生と『連獅子』を素踊りで踊らせていただいたんですね。墨雪先生は僕に踊りの手ほどきをしてくださった師匠です。師匠と一緒に踊らせていただくことはひとつの夢だったので、尾上菊之丞先生のお計らいで、その機会をいただけたことは、大きな喜びでした。
じつは僕が舞台に立ったのも歌舞伎より、踊りの会が最初でした。4~5歳の頃だったと思います。新橋演舞場で、墨雪先生のお嬢さん、尾上紫さんが『道成寺』を踊ったときに、所化の役で出させていただいたんです。そのときのことは、何となく覚えているんですよ。おしろいの香りとか、舞台の照明がすごく明るかったこととか、楽屋の華やかで騒がしい雰囲気とか。舞台に出られたことがうれしくて、うきうきしながら浴衣で帰った帰り道の感じとか。
尾上流のみなさんは、そういうときから僕のことを『ケンケン、ケンケン』とかわいがってくれて、今に至るまでをずっと見守っていてくれた方々です。僕が歌舞伎俳優として伸び悩んでいた時期には、墨雪先生がすごく心配してくださっているのも感じていて、逆にそれが辛くて距離を置いていた時期もありました。
でも、そのうち少しずつ役をもらうようになって、23歳のとき、『研の會』を初めてやったときに墨雪先生をご招待したんです。それで終演後、感想が聞きたくて電話をしたら、『いやあ、素晴らしかった』と言ってくださって。『踊りのトップランナーになること間違いないよ』とほめてくださったんです。初めて師匠に認めてもらえた気がして、『もう僕、叫んでいいですか! 叫びたいくらいうれしいんで!!』って言ったのを思い出します」。
テーマは仔獅子の気持ちを共有する親獅子
そんな師匠との『連獅子』は、「久しぶりに緊張しました。体が震えてた」そう。
「師匠も80歳なので、体力的にぎりぎりだったと思います。でも、目が合うと笑ってくれるんですよ。踊っているときも、舞台袖に引っ込んだときも笑ってくれる。それがとても優しい目で心強くて。
僕に笑いかけてくれる顔だけじゃなくて、親獅子としての厳しい顔、表現者として情熱がさく裂する顔と、師匠のいろいろな顔が見られたことがすごく良かった。心に残りました。また自分自身もここまで来られたんだなということを実感できて、喜びと感謝をかみしめる夢のような舞台でした」。
『一緒に頑張ろう』そんな親獅子でもいいと思う
そんな経験を経て挑む今月の親獅子は、きっと特別なものに違いない。
「仔獅子の気持ちを僕はまだ持っているので、その状態で親獅子をやるというのも今の僕にしかできないと思うんですね。だから今回の僕のテーマとしては、仔獅子の気持ちを共有する親獅子、というところかなと思います。本来、『連獅子』は獅子が我が子を崖から突き落として、谷底から這い上がってきた子だけを育てるという故事伝説をもとにしていますけれど、そういう絶対的な存在のお父さんじゃなくてもいい。『一緒に頑張ろう』みたいな親獅子でもいいと思うので、そこでまた新しいカラーを出せたらいいなと」。
仔獅子の眞秀さんは伸び盛りの13歳。
「眞秀さんは2年前はまだ体力がなくてたいへんそうでしたけれど、親獅子にくらいつこうとするガッツがあっていいなと思いましたね。今回は身長もだいぶ伸びたので、兄弟獅子に見えないように僕も頑張らないといけない。体力ではまだまだ負けないので、仔獅子のことはこてんぱんにしたいと思います(笑)」。
そう笑いながらも眞秀さんに温かいまなざしを向ける右近さん。情熱と慈愛と喜びにあふれた『連獅子』が今日も歌舞伎座をにぎわせている。
四月大歌舞伎
2026年4月2日(木)~27日(月)
夜の部 午後4時30分~
【休演】20日
特等席20000円
1等席18000円
2等A席15000円B席14000円C席9000円
3等A席6500円 B席5000円
1等桟敷席20000円
取材・文/佐藤裕美