コラムニスト ジェーン・スー《中編》50歳を迎えた今思うこと【エクラな美学 第6回】

古くは与謝野晶子、現代ならさしずめユーミン、そしてこの人、ジェーン・スー。50歳を迎えた今、年齢についてどう感じているのか。前中後編の中編では、年齢についての考え方について聞いてみた。

新しい価値観を積極的に獲得すべき年代に

5月に50歳の誕生日を迎えたばかりのスーさん。この年齢をどう感じているだろうか。


「もう、いいかげん、好きにやりたいことやっていいんじゃないですかね。もはや世間からあれこれチェックされることも少ないし、子育てしていたかたも一段落しているだろうし。なんなら体感35歳くらいでもいいんじゃないかと。ただ世間で35歳として振る舞うとさすがに図々しいので(笑)、“50歳ですよ”のバッジをつけて、ですけどね。気持ちの面では自分から抑えにいかなくていいんじゃないかな。ただ、基本は人それぞれだということです。自分たちの世代はこうだからということに頼りすぎず、自分自身をコアにして立つ。それにチャレンジする時だと思うんです」

「50歳のバッジをつけていれば、気持ちは35歳でも全然OKだと思うんです」

その一方で、無意識のうちに巧妙に埋め込まれていた「女だから」とか「母親ならば」とかの旧ふるいプログラムが、突如発動することがある。削除しつくしたと思っていても、ふとした瞬間に頭をもたげて、自分で動揺することも。

「私たちは、旧い価値観のスタンダードについて知らないふりはさせてもらえない世代なんです。と同時に変化の目まぐるしい時代に生きているのも間違いない。ここはぜひ新しいテクノロジーにどんどんついていって、自分をアップデートすることをおすすめします。新しい価値観って新しいテクノロジーに宿るんですよ。そこに食らいついていくのが私たちの課題かなと。いつまでも旧いテクノロジーにすがっていると旧い考え方しか理解できなくなるので」

ひと息おいて、スーさんはこう続ける。

「あるバージョンのiPhoneから、“家族”と打ち込んで表示される絵文字のバリエーションが格段に増えたんですよ。家族=お母さんとお父さんと子供ふたりという絵文字しかない世代と、男男・女女・女と子供ひとりとかいろいろバリエーションがあるのがデフォルトの世代とでは、見ている世界がまるで違うんです。絵文字の種類が1通りなのか10通りあるかで多様性の認識なんてすぐ変わっちゃう。それと同じ理屈で、テレビ番組も地上波よりはNetflixやHuluのほうが新しい価値観のコンテンツが多いはず。旧いテクノロジーのままでは、自分が旧いのだということにさえ気づきにくいんです。逆に、もし新しい価値観にどこか抵抗を感じるようなら、それがなぜなのかを言葉で説明できるようにしておかなければならないでしょうね。なんだかいやだな、ではなくて。自分を見つめ直す年齢なのだと思います」

ジェーン・スー

「新しいテクノロジーに新しい価値観は宿る。必死についていきましょう」

さらにスーさんは、50代こそ「イルカ」型の集団づくりを目ざそう、とも。

「オオカミやサルのようにボスがいて上意下達のヒエラルキーに属するのではなく、リーダーはいるけれど上から命令する立場ではない、そんな居心地のいい群れに属し、そこを出たり入ったりするイメージです。いやな人とは付き合わなければいいし、好きな人ともずっと一緒にいなくてもいい。気にしなくていいことを気にやまないですむようにしましょう。自分が誰かに受け入れられているんだろうかとか、イケてるグループに属せているだろうかとか、それって16歳のころに考えていたことと変わらないじゃないですか。そこにからめとられていると、不定愁訴とか体調にも影響しそう」

ジェーン・スー

ラジオのパーソナリティとしても活躍中だ。毎日20代から80代までさまざまなリスナーから寄せられる相談のコーナーでは、持ち前の瞬発力を発揮。とことん親身になって向かい合い、鮮やかに問題の本質を腑(ふ)分けしてみせる。

「裏を返すと、私はこつこつ準備することが必須の仕事は得意じゃないんですよ。準備しちゃうと、きっとつまらなくて四角四面な答えになってしまうだろうな。ただ、反射神経や瞬発力が求められるものが向いているなんてことも、ラジオの仕事をやってみるまでは自分でもわからなかったんですけどね。それと、相談番組って回答者の手かげんひとつでどうにでもなるんです。これをいったら嫌われるとか好かれるとか。でも人の相談を利用して自分の立ち位置を上げたり下げたりするのはゲスいこと。それはしないように戒めています。

(後編へつづく)

ジェーン・スー

ジェーン・スー

じぇーん すー●’73年、東京生まれ。東京育ちの日本人。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。著書に『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)、『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)など。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』やポッドキャスト番組のパーソナリティ、作詞家としても活躍。

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