【松本幸四郎さんインタビュー】祖父と叔父が演じた魅力あふれる長谷川平蔵。自分流ではなく正統に演じたい

池波正太郎原作の人気時代劇『鬼平犯科帳』が8年ぶりに復活。主人公の鬼平こと長谷川平蔵を演じるのは松本幸四郎さん。新たな鬼平の魅力とは? 幸四郎さんにドラマの見どころを聞いた。
松本幸四郎さん

松本幸四郎さんはシャイな人だ。だから、インタビューの最初は視線がなかなか合うことがない。その彼が、いたずらを思いついた子供のように表情をくずして視線を合わせたのは、長谷川平蔵のどこが好きかと聞いたとき。

「見廻りのわりには、けっこうおいしいものを食べていますよね。見廻りなのに酒を飲んでいますからね」と、含み笑いのごとく目を細める。「だからこそあやしまれない、というのがあるんでしょうけど、決して何かを聞き出すために、これうまいなあといっているのではない気がするんです。本当においしいからおいしいといっている。そうしながら、結局そこで事件解決のヒントを得ているんでしょうね」

なるほど。これは奥が深そうだ。池波正太郎原作の人気時代劇『鬼平犯科帳』が8年ぶりに復活。幸四郎さんは、その主人公、鬼平こと長谷川平蔵を演じている。江戸時代後期、実際に火付盗賊改方を務めた実在の人物。大盗賊たちをバッタバッタと一網打尽にしたばかりでなく、人足寄場を創設し、無宿者たちの更生に尽力したことでも歴史に記されている。

「悪を鬼として見ることもあると思いますが、平蔵の場合は、悪であろうが人として必ず向き合うんです。だから、その人の表面的な部分でないものも見抜いてしまうのかなと。そんな懐の深さと、どんなことがあっても立ち止まらず進む決断力と行動力。一方で、自分を信じているのと同じくらい不安をもっているのも感じられる。男も女も惚れるといいますが、そんな色気のような魅力が平蔵にはあるのかなと」

祖父である初代松本白鸚、叔父である二代目中村吉右衛門もこの平蔵を演じてきた。

「歌舞伎の舞台では、僕の中に祖父たちも感じていただきたいと思いますが、平蔵の場合は、鬼平自体を知らないかたもご覧になるだろうし、そのときにおもしろいと思っていただけるのが勝負だと。かといって、祖父とも叔父とも違う鬼平をつくろうという思いはなく、あえてふたりの作品を見て、自分を縛りつけるといいますか。自分流というよりは正統に。血というものもあるでしょうから、それを信じて、すごい作品にするつもりです」

シリーズ1作目『本所・桜屋敷』では、吉右衛門さんが実際にシリーズで使っていた煙草入れも登場する。そういう部分も長年の鬼平ファンには垂涎だけど、幸四郎さん自身が推す一番の見どころは? 「僕がかかわってなければ、もう絶賛するんですけど(一同爆笑)。自画自賛になってしまいますが、本当に登場人物が素敵な人ばかりで、きちんと描かれたキャラクターのおもしろさをぜひ見てほしいです」

松本幸四郎さんは、やっぱりシャイな人なのだ。

テレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』

テレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』

長谷川平蔵は親友、岸井左馬之助と再会する。左馬之助から、ふたりのかつての想い人・おふさが悪御家人に嫁いだと聞き、御家人の身辺を探るが……。若き日の鬼平こと、長谷川銕三郎役に八代目市川染五郎が扮しているのも話題。’24年1月8日に時代劇専門チャンネルにて放送。’24年5月10日公開予定の映画、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』もお見逃しなく。

松本幸四郎

松本幸四郎

まつもと こうしろう●’73年、東京生まれ。’79年の初舞台『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名。’81年『仮名手本忠臣蔵』の大星力弥役で七代目市川染五郎を襲名し、’18年、歌舞伎座の高麗屋三代襲名公演『壽 初春大歌舞伎』で、大名跡である十代目松本幸四郎を襲名。立ち役の二枚目はもちろん、三枚目、実悪、色悪、女方となんでもこなす。
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