【ロンドン・おしゃれマダムの心地良い家】自然とモダニティが共存する ぬくもりに包まれた家。マリア・レモス宅<前編>
Maria Lemos(マリア・レモス)
自然とモダニティが共存するぬくもりに包まれた家
常に美しいものを追い求め、素材や作り方、クオリティまで徹底的に調べるマリア。そんなリサーチ力とパッションから、この家にはアンティークや異国からのオブジェ、クラフツを極めた家具や照明器具まで、逸話のある優れものが集まった。それらをひとつの世界観としてまとめているのは、ひとえに彼女のモダンなアプローチ。
グラウンドフロア(日本の1階)のオープンキッチン&ダイニングには、友人であるトリシアとのつながりが見られる。壁のペイントは「デザイナーズギルド」のコレクションから。クッションの生地はトリシアからのプレゼントだ。このスペースの主役はピート・へイン・イークによる長いテーブルと、壁を覆うタブロー。森田直による古代布をはぎ合わせた作品はその名も『ボロ』。スツールはマーガレット・ハウエルもひいきにしているという、アーコール
各フロアには、それぞれのテーマで異なる雰囲気を
ファッションブランドのセールスと小売りの両方に携わるマリアは、常にあらゆる方面にアンテナを張っている。美術館やギャラリーで見かけたもの、本や雑誌から得た情報、好みをシェアする友人からのおすすめ、そしてSNSで目にとまったものまで、すべて。さらに、書きとめたアーティストやブランドについては徹底的にリサーチし、整理する。こんな彼女の好奇心と行動力の賜物(たまもの)といえる家はロンドン北部、カムデンタウンにある庭つきの一軒家。夫と愛犬、そして3人の子供たちとのスイートホームだ。ちなみに夫は医師の仕事を引退後、夫妻で経営するゲストハウスがあるギリシャ・パトモス島とロンドンを行き来している。
’19年に購入したジョージアン様式(18世紀前半〜19世紀前半)の物件の大改装を依頼した建築家は、ウィリアム・ラッセル。友人であるマーガレット・ハウエルのブティックや家を手がけていることで知り、「ムキムー」1号店の設計ですでに仕事をともにしたことがあった彼に、マリアは絶大な信頼を寄せていた。極力地元の素材を使うというエコフレンドリーなアプローチにも彼女は共感している。
「カムデンを選んだのは、ミュージシャンや建築家が多く住んでいたアーティスティックな背景に加え、緑が豊かで静かだから。ここは1960年代から空き家になっていたので、いちからすべてを見直す必要があり、逆に自由な改装が可能でした。意図したのは、プロポーションがよく、自然光がたくさん入ってモダンな家。家の構想にあたってはまず、インスピレーションを求めて大好きな建築家、ジョン・ポーソンの家を訪ねたんです」と、マリアは家づくりの出発点について語ってくれた。
3階までの各フロアには、それぞれのテーマを設けた。まず地上階で大切にしたのは、室内に緑の景観を取り入れること。庭に面した側一面に大きなガラス窓を配したのは、そのためだ。また収納にもこだわり、オープンキッチン&ダイニングとつながる廊下も含め、壁一面にはニレの木で造り付けの棚をめぐらせた。ニレは年季が入ると味わいが出る素材だ。「隠れた贅沢は、フロア・ヒーティング。私たちは冬でも室内では裸足でいたいから。でも目に見える豪華さは削ぎ落としたんです。だからレンガやセメントといったインダストリアルな素材を取り入れ、スイッチにはゴールドではなくニッケルを選びました」と、マリア。
そして上の階は家族や友人たちとテレビを見たり音楽を聞いたりする空間なので、落ち着きのある雰囲気に。この部屋の家具や写真、照明器具までのひとつひとつについて、マリアは作者や購入までの経緯を克明に語れるから、驚きだ。そして最上階、寝室とウォークインクロゼットは、夫妻のルーツであるギリシャのテイストで仕上げられ、よりパーソナルな空間になっている。
左手のレンガ部分は、もともと外壁。玄関から庭に抜ける廊下は、もとの家を拡張し、天窓から光が射し込むように設計した。はぎれで作ったラグはギリシャの典型的な工芸品。壁にはマフラーや犬の首輪をかけて“見せる収納”を。ベンチの下は靴箱に
キッチンでは、モダンさと素朴さの共存が顕著。テーブルクロスは伯母のトルコみやげ、急須は日本で、ボウルはルーマニアから、と愛用品の出どころはさまざま。またオーブンのガラスのドアに庭の緑が映り込むのも、計算してのこと。花瓶には庭で摘んだ花を。これはクロッテッド・クリームと呼ばれる、香りが強いジャスミンの一種
木と花と、生い茂る緑。庭の景観が室内でも生きる、キッチン&ダイニングルーム
トリシア同様、花は小分けにして生ける。左の2つの花瓶は友人のブランド、パフューマーHの香水ボトルの空き瓶
庭にはインダストリアルなスタイルのテーブルを。
庭を手がけたのは「十勝千年の森」で知られるランドスケープ・デザイナー、ダン・ピアソン。大木は、実はアーティストによるスカルプチャーだ
廊下には旅先で拾った思い出の小石を並べて。
ダイニングの壁一面は、ニレの木であつらえてもらった棚
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