【佐々木蔵之介さんインタビュー】何が起こっても笑って過ごそう。最初からそう決めていました

佐々木蔵之介さんが異国の地で挑んだひとり芝居『ヨナ -Jonah』が、この秋日本で上演される。日本での公演を前に、本作に挑んだ思いについて聞いた。
佐々木蔵之介

遠い国に渡る。言葉も習慣も異なる国で稽古を重ね、ひとりきりで舞台に立って観客と向き合い、その国の物語を体現する――。今年4月から6月にかけて佐々木蔵之介さんが東欧で取り組んでいたのは、そんな挑戦だった。東京芸術劇場とルーマニアのラドゥ・スタンカ国立劇場との国際共同製作によるひとり芝居『ヨナ- Jonah』は、旧約聖書に登場する預言者ヨナの逸話をもとにした物語。ルーマニアの国民的詩人マリン・ソレスクの作品をルーマニア人が演出し、日本人俳優が日本語で上演したのである。

「演出家のシルヴィウ・プルカレーテさんのチームとは、過去に『リチャード三世』『守銭奴』でご一緒したこともあり、そのたびにルーマニアでも上演してほしいといわれてきました。で、次にやるなら、僕ひとりがルーマニアに行ったほうが安くつくんじゃないかということで(笑)。大学のサークルで演劇を始めた自分が外国の人たちと舞台を創り、海外公演をするなんて考えてもみなかった。でも、この年齢になった今だからこそいただけるチャンスなのかな、と。まわりからは大変そうだといわれましたが、めちゃめちゃ楽しんでやろうと思っていました」

ある日、海に出て大きな魚の腹の中に飲み込まれたヨナは、見えない誰かと狂気混じりとも思える対話を重ねながら、ひたむきに脱出の道を探っていく。

「旧約聖書の世界、作品にこめられたルーマニアの精神や哲学のすべてを理解することはできないけれど、僕はこの物語をひとりの漁師の物語として読んで、演出家も『それでいい』といってくれました。そうして、最初は戯曲の中のヨナを演じようとしていたのが、だんだんヨナを自分のように感じはじめて……。魚の腹の中で孤独に生き、必死で光を見出そうとする彼に励まされながら、役をつくっていった感じ。破滅的ではなく、常に前に向かっていく人物だったからつくり上げられたのだと思っています」

数カ国語が飛び交い、仕事の進め方もスタッフの動きも日本とは異なる稽古場。前触れなくポスター撮影が始まったり、突然のテレビ生出演をオファーされたりと、日々、ハプニングが続出する。しかし、「実は、そんなに苦労したとは思っていないんです」と佐々木さん。

「すべてをオープンにして、何が起こっても笑って過ごそうと最初から決めていました。海外旅行をしていても、自分たちが常識だと思っていたことがそうではなかったと思い知らされたりするじゃないですか。でも、それで気持ちが解放されて自由になる部分も、必ずあるので」

4カ国6都市をめぐっての公演で歓迎と熱狂的な賞賛を受け、まもなく上がる日本公演の幕。大人だからこそ獲得できた「自由」を、私たちは目撃する。

佐々木蔵之介

佐々木蔵之介

ささき くらのすけ●’68年、京都府生まれ。劇団「惑星ピスタチオ」を経て’00年代より数々の舞台、映像作品に出演。紀伊國屋演劇賞個人賞、日本アカデミー賞優秀主演男優賞など受賞多数。東欧での日々を収めたフォトブック『光へと向かう道〜「ヨナ」が教えてくれたルーマニア〜』が9/14にANCHOR SHOP(https://shop.anchormg.com/

)より発売予定。ファンサイト「TRANSIT」

https://sasaki-kuranosuke.com/

『 ヨナ-Jonah 』

『 ヨナ-Jonah 』
Photo TNRS:ALEXANDRU CONDURACHE

〈どうにかして俺の奥に、光へと向かう道を探すんだ〉。不屈の男による圧倒的なモノローグに体温を与えた翻訳・修辞は、詩人のドリアン助川が担当。10/2〜13(10/1はプレビュー公演)、東京芸術劇場シアターウエストで上演。

問☎0570・010・296(東京芸術劇場)

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