【冷水希三子さんの「シンプルおせち」レシピ7】楽しく、食べ疲れない。お皿、ワインでいただくスタイルで!

家族のかたちやライフスタイルの変化に合わせ、お正月のごちそうやその楽しみ方も変わりつつあります。伝統にならいつつ縛られすぎない、新年の訪れを寿(ことほ)ぐ場にふさわしい華やかなおせちを、冷水希三子さんに習います。
冷水希三子

冷水希三子

ひやみず きみこ●料理家。料理にまつわるコーディネート、スタイリング、レシピ制作を中心に、書籍、雑誌、広告の仕事をしている。

おせちは一年の始まりにいただく、大切な料理。わかっているからこそ、年末の慌ただしい時期に献立を考え、材料をそろえる算段をして……というのが少々難儀に思えてしまうことも。

冷水希三子さんは「伝統は頭に入れつつも、あまり形式にとらわれすぎずに、自分なりのかたちを見つけてみたらどうでしょう」と、提案する。「お重に詰めなくてもいい。品数は絞っていい。シンプルにすることで、自分らしい楽しみ方が見えてくるはずです」。

昔に比べて新鮮な食材も手に入りやすい今、保存食として濃いめに味をつけたおせち料理を何品も支度しておくより、最小限の手間で好みの味がさっと作れたら、お正月のひと時は確かにもっと豊かになりそう。

「簡潔な料理ほど、調味料の違いが味に出るので、年に一度の贅沢と思ってとびきりのものを奮発して」とのことだ。忙しくてふだんはなかなか会えない大切な人たちと囲む食卓の主役だから、「話しながらゆっくりつまめて、長い時間食べても疲れない味を工夫したいですね」とも。


数品でも自分で作れば、ともに食べる人の顔を思い浮かべたり、食材にこめられた意味に思いを馳せたりと、支度の段階から“ととのう”心地に。

友人となら、持ち寄りもアリだそう。「料理は私で、ワインやお花など、それぞれ担当を割り振ることも。友人同士ならば、それも楽しいですよね」

おせち

アレンジメント感覚でお飾りを。写真のヒカゲノカズラは長寿、ヒバは魔除け、稲穂は豊穣や健康を願う意味をもつ。仏の手に似た仏手ぶっしゅかん)も正月飾りによい。末広がりを願って

シンプルおせちレシピ7

れんこんと百合根のあえ物

おせちの定番をモダンに仕立て、余白のある盛り合わせに。海老のうま煮に、里芋のふくめ煮のピュレを合わせて。にんじんの色が透けて見える繊細な大根は、紅白なますのアレンジ。れんこんと百合根は白一色が清らか

れんこんと百合根のあえ物

塩とオリーブオイルだけで、れんこんと百合根の淡い甘味を引き出したひと品。白色が真新しい気持ちに寄り添う。

材料

れんこん …… 10㎝

百合根 …… 1個

塩 …… 適量

EXVオリーブオイル …… 大さじ3

作り方

❶れんこんは縦半分に切り、厚さ1㎜の半月切りにして水にさらす。

❷百合根は1枚ずつはずして汚れを洗い、軟らかくなるまで蒸す(ゆでてもよい)。

❸①の水気をきり、食感が残るようさっと塩ゆでする。

❹ボウルに②と水気をきった③を入れ、EXVオリーブオイルであえ、塩で味をととのえる。

海老と里芋ピュレ

海老はレアな火入れで仕上げ、里芋はピュレに。お刺身用の上等な海老をぜひ使って。

材料

海老 …… 8尾

里芋 …… 3個

カツオ昆布だし、塩、酒 …… 各適量

作り方

❶海老は殻つきのまま底の広い鍋に重ならないように入れ、鍋底5㎜程度の酒を加え強火でレアに火を入れる。

❷里芋は蒸してから皮をむき、カツオ昆布だしを少しずつ加えながらミキサーでなめらかなピュレにし、塩で味をととのえる。

❸①の殻をむいて盛りつけ、②をかける。好みでアマランサス(材料外)などを飾りに盛りつけても。

なます

紅白なますが、優雅にドレスアップ。甘酢漬けにしたごく薄切りの大根と、水とオイルだけで炊いたピュレを合わせて。「せん切りより手軽」と、冷水さん。

材料

大根 …… 100g

塩 …… 1g

甘酢(酢…20㎖、 水…20㎖、 砂糖…5gを

合わせたもの)

にんじん …… 1本

EXVオリーブオイル、水、塩 …… 各適量

作り方

❶大根はごく薄くスライスしてボウルに入れ、大根の重さの1%の塩を加えて混ぜ、約30分置いて水気を絞る。

❷①を甘酢であえ、冷蔵庫でひと晩漬ける。

❸にんじんはスライスして厚手の鍋に入れ、EXVオリーブオイルをひと回しと塩、鍋底1㎝ほどの水を加えて火にかけ、沸騰したら蓋をして弱火で軟らかくなるまで煮る。ミキサーでピュレにする。

❹②に③をのせてはさむ。

いんげんのカラスミがけ

削ったものと、すりおろしたもの。塩気とうま味の感じ方が異なるカラスミがアクセントに。

削ったものと、すりおろしたもの。 塩気とうま味の感じ方が異なる カラスミがアクセントに。

”まめまめしく、過ごせますように。おめでたいカラスミと一緒に“

トスカーナ風白いんげん豆の煮込みが黒豆がわり。「繁栄」の縁起もの、カラスミを数の子のかわり

材料

白いんげん豆(銀てぼうなど) …… 50g

水、塩、カラスミ、

EXVオリーブオイル …… 各適量

作り方

❶白いんげん豆は6倍量の水にひと晩ひたしてもどし、もどした水ごと鍋に入れて火にかける。沸騰したら弱火にし、水の加減を見ながら軟らかくなるまで煮る。塩味を軽くつけ、冷ましておく。

❷皿に水気をきった①を盛る。上からカラスミ(すりおろしたものとピーラーで削ったもの)をかけ、EXVオリーブオイルをかける。

マグロの黄身醤油

長芋をすりおろさず、みじん切りにすれば食感がエレガントに。そのまま口に運べる盛りつけで、紅白も映える。

長芋をすりおろさず、みじん切りに すれば食感がエレガントに。そのまま 口に運べる盛りつけで、紅白も映える。

材料

本マグロ(さく) …… 50g

長芋 …… 適量

卵黄 …… 1個分

濃口醤油 …… 大さじ1/2

作り方

❶マグロを好みの厚さに切る。長芋はみじん切りにする。

❷卵黄と濃口醤油を合わせて黄身醤油を作る。

❸器に②を敷き、マグロで長芋を巻いて盛りつける。

白身のにごり煎り酒

白身魚、にごり酒の煎り酒に、すりおろしたホースラディッシュと白の美しきグラデーション。煎り酒の酸味にリフレッシュ。

白身魚、にごり酒の煎り酒に、すりおろした ホースラディッシュと白の美しきグラデーション。 煎り酒の酸味にリフレッシュ。

材料

白身魚のお刺身(写真はヒラスズキ)…… 適量

ホースラディッシュ …… 適量

*煎り酒

 にごり酒 …… 300㎖

 梅干し …… 2個

 昆布 …… 3g

 かつお節 …… 3g

好みの柑橘果汁、塩 …… 各適量

作り方

❶にごり煎り酒を作る。にごり酒と昆布、種をとってほぐした梅干しを鍋に入れて火にかけ、沸いたら弱火で約20分煮つめる。火を止めてからかつお節を加えて5分置き、ザルで濾こす。

❷①を冷ましてから柑橘果汁を加え、好みの酸味と濃度に仕上げる。

❸8mm厚さに切った白身魚のお刺身を器に盛り、軽く塩をふる。②をかけ、ホースラディッシュを削りかける。

赤は魔除け、白は清浄。お刺身も祝いの味わい

魚の色みを生かすべく、薬味や調味料もひと工夫。豪華な盛り合わせより、シックで華やか。

ローストビーフ

レアよりややしっかりめ、芯まで均一な"大人の火入れ”が上品なローストビーフ。和洋の付け合わせは、鮮やかな黄金色や、縁起ものでもある柚子のかぐわしさが雅。

レアよりややしっかりめ、芯まで均一な"大人の火入れ" が上品なローストビーフ。 和洋の付け合わせは、鮮やかな黄金色や、縁起ものでもある柚子のかぐわしさが雅。

ローストビーフの付け合わせにもお正月エッセンスをしのばせて

きんとんはクチナシで黄金色に。肉に合うモスタルダ(果実のマスタード煮)は柚子で。

材料

牛肉(もも)…… 500g

塩 …… 適量

EXVオリーブオイル …… 少々

*付け合わせ

〈きんとん〉

 さつまいも …… 1本

 クチナシ(実、乾燥) …… 1個

〈柚子のモスタルダ〉

 柚子 …… 2個

 砂糖、ディジョンマスタード、

 和がらし(粉末) …… 各適量

〈蒸しりんご〉

 りんご …… 1個

作り方

❶牛肉は常温にもどしておき、塩をふってもみ込む。フライパンにEXVオリーブオイルをひいて表面を焼く。

❷オーブンの天板に水を入れて網を重ね、120℃(電気オーブンレンジの場合は130℃)に予熱し、①を約40分火を入れる。オーブンから出してアルミホイルに包み、約40分保温し、さらに余熱で火を入れる。

❸きんとんを作る。さつまいもは皮をむいてひと口大に切り、鍋に入れてひたひたの量の水とクチナシを加え火にかける。軟らかくなったらクチナシを取り除き、煮汁で濃度を調節しながらミキサーでピュレにする。

❹柚子は8等分のクシ形切りにし、皮を白いワタごとむいて1cm幅に切る。果汁は別にしぼっておく。

❺④の皮と果汁を合わせて計量し、重量の40%の砂糖と100%の水とともに鍋に入れて火にかける。沸いたら弱火にし、軟らかくとろみが出るまで20~30分煮る。ボウルに移し、重量の20%のディジョンマスタードであえ、好みの辛さになるよう和がらしを加えて味をととのえる。

❻りんごは8~10等分のクシ形切りにして芯を除き、軟らかくなるまで蒸す。❼②を薄切りにして器に盛り、③、⑤、⑥を添える。

日々の食事から、"食材は最上級”で

食べ疲れない料理は、味を重ねすぎないことが重要。引き算の料理を一段上の味にしてくれるのが極上の食材、調味料。「私は素材の味そのものを楽しむ料理が好きなので、食材や調味料はいいものを、惜しみなく使います」と冷水さん。

日々の食事から、 〝食材は最上級〞で

(右)料亭も御用達、大阪「こんぶ土居」の"グラン・クリュ" ともいえる「天然真昆布(黒口浜)」。(中)鹿児島県枕崎市「金七商店」の本枯節で、「削りたてを使うのが鉄則」(冷水さん)。(左)福岡県柳川市「成清海苔店」の有明海苔(焼きのり)「優等」。すべて冷水さんの私物

得意分野を持ち寄る新しい正月のかたち

新年、友人との集まりに「"お正月の持ち寄り"は、気軽で新しい」と冷水さん。家で多めに作った料理を持ち寄るのもアリ。お飾りやお餅、ワインなど、それぞれに得意なジャンルを任せて。ホストの負担も軽くなり、話題もふくらむ。

得意分野を持ち寄る 新しい正月のかたち

立派な鏡餅は、毎年、自宅で餅をつくカメラマン・宮濱さん謹製。お飾りは、スタイリスト岩﨑さんのアレンジ。ネッビオーロの赤とシャンパーニュのワインのセレクトはライター佐々木が担当。「センスが伝わる持ち寄り、新しい」と、冷水さん。今回の撮影スタッフは、冷水さんの"いつも集まる仲間"でもある

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