今さら恋愛小説!? と決めつけるのはまだ早い。実は50代だからと男女関係に目を背けているだけかも。eclat3月号では、井上荒野さんと角田光代さんの作品からと、「迷」「溺」「決」「個」をキーワードに書評家・藤原香織さんと編集部が選んだ“男と女“の物語をご紹介。
男女関係を描く、井上作品&角田作品
「恋愛の描き方が少しずつ変わってきた」というおふたりの作品も、この機会にぜひ!
『綴られる愛人』
井上荒野
集英社 ¥1,500
大学生の青年がエリートサラリーマンに扮し、夫の暴力に耐える20代の専業主婦と文通を開始。しかし実は彼女の正体は、夫に支配されている35歳の小説家だった。
『あなたならどうする』
井上荒野
文藝春秋 ¥1,400
「時の過ぎゆくままに」「小指の思い出」「ジョニィへの伝言」……各短編タイトルは昭和のころに流行した歌謡曲の題名。名曲を題材に、男と女の風景を浮かび上がらせる短編集。
『彼の女たち』
井上荒野、角田光代ほか
講談社文庫 ¥552
「J(ジェイ)」というミュージシャンと出会い、人生が変わった女性たちそれぞれの姿を、5人の作家が描き出す連作小説集。参加者はほかに江國香織、嶽本野ばら、唯野未歩子。
『紙の月』
角田光代
ハルキ文庫 ¥590
銀行支店の1億円横領事件の容疑者は、パート勤務していた41歳の主婦。まじめな人柄に定評のあった彼女を犯罪に走らせたのは、ひとりの男子大学生との出会いだった。
『日本文学全集 源氏物語 上』
角田光代
河出書房新社 ¥3,500
これまでのさまざまな作家が挑んできた古典名作の現代語訳に角田さんも挑戦。読みやすさを念頭に、人々の感情をいきいきと表現。上巻は二十一帖「少女」までを収録。
紹介してくれたのは…
角田光代
’67年、神奈川県生まれ。’90年『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’05年『対岸の彼女』で直木賞、’12年『紙の月』で柴田錬三郎賞など多数受賞。片想い小説『愛がなんだ』、失恋短編集『くまちゃん』、モラハラ夫が登場する『私のなかの彼女』(河合隼雄物語賞)など男女関係を描く作品も多数。現代語訳に挑戦中の『源氏物語』の中巻が今年前半、下巻が年末に刊行予定。
井上荒野
’61年、東京生まれ。’89年『わたしのヌレエフ』でフェミナ賞を受賞してデビュー。
’04年、ひとりの男性をめぐる女性たちの刹那的な愛を描く『潤一』で島清恋愛文学賞、’08年、夫以外の男性に惹かれる女性を描いた『切羽へ』で直木賞ほか、多数受賞。新聞に連載した『その話は今日はやめておきましょう』が5月ごろに刊行予定。こちらはオレオレ詐欺を題材にした長編。
『迷』
この人、と選んで決めたはずだけど、歳月がたてば気持ちも揺れる。どうする、どうなる私の人生!?
【読み進めていくうちに、自分を見つめ直すきっかけが!】
「不惑」と呼ばれる40歳を過ぎても、現実には迷いも悩みもつきない毎日。なのに年齢を重ねると、10代や20代のころのように、気安く誰かに相談するのもむずかしくなってくる。既婚、未婚、バツイチに事実婚。子供や仕事の有無などエクラ世代の立場はさまざま。立ち位置の違う友人に、込み入った話をするのは、どうにも気が重いもの。
そんなとき頼りになるのが、いつでも、どこでも、ひとりでも没頭できる小説。年齢も性別もさまざまな人々の視点から描かれる『はだかんぼうたち』は、物事への新たな「見方」が現状打破のヒントに。あるある満載、和み度抜群のザ・バブル世代!な主人公の生き方を追った『ミチルさん、今日も上機嫌』は、明日の元気をチャージしてくれるはず。
読書ならではのカウンセリング効果を、ぜひこの機会にお試しあれ!
『ミチルさん、今日も上機嫌』
原田ひ香
集英社 ¥1,500
バブル時代を謳歌し、その余力で生きてきたものの、ふと気がつけば職なし男なしの45歳という現実に直面したミチルの人生奮闘記。同世代ならではの、痛痒さも愛おしい!
『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』
島本理生
幻冬舎 ¥1,500
心優しい年上の男性・椎名さんがエイズキャリアだと知りながら、交際を始めた知世。日々に迷う4人の女子心を照らし出す連作短編集。知世の椎名さん評は、痛いほどしみる!
『それ自体が奇跡』
小野寺史宜
講談社 ¥1,450
結婚3年目を迎え、決定的な「価値観の違い」に直面した夫婦の葛藤を双方の視点から描く。30歳も過ぎた夫が、本気で夢を追いかけたいといい出したら――あなたならどうする!?
『はだかんぼうたち』
江國香織
角川文庫 ¥680
35歳の歯科医・桃と中学時代からの親友で4人の子をもつ響子を中心に、ふたりの家族、桃の9つ年下の恋人・鯖崎など多視点で綴られる群像小説。さまざまな恋愛・結婚観が読み解ける。
『政略結婚』
高殿 円
KADOKAWA ¥1,500
幕末から明治、大正、昭和と激動の時代を背景に、女性3人の生き様を綴る大河ロマン。「家」のため、恋愛など許されなかった彼女たちが、自由を求めて立ち上がる姿に感動感服。
『溺』
誰かを傷つけるとわかっていても、始まってしまう恋もある。理性では抑えきれない本能の恋
【甘いだけじゃない、苦味もまた大人の恋の醍醐味】
恋とはするものではなく、落ちるもの。そんなフレーズを知ってはいても、年齢を重ねていくうちに、どこか臆病にも、億劫(おっくう)にもなってしまうのが恋愛。守りたい生活もある、傷つけたくない人だっている。エクラ世代ともなれば、「理性」という2文字を、どうしたって意識してしまうし、正直「今さら恋愛なんて」という気持ちもあるのでは?
ここで紹介した4冊の主人公は、すべて40歳オーバー。『眠れぬ真珠』の咲世子も、『情事の終わり』の奈津子も、『望みは何と訊かれたら』の沙織も、仕事や家庭をもち、決して恋愛至上主義というわけではなく、『純愛小説』に収められている「鞍馬」の静子は、65歳まで恋と無縁に生きてきた女性。それでも、彼女たちは恋に「落ちた」。
たとえ人から愚かだと嘲笑されても、後悔などしない恋。その覚悟に、しびれるような憧れを抱かされる。
『純愛小説』
篠田節子
角川文庫 ¥514
中年と呼ばれる時期を過ぎた男女が、立場も年齢も超えて落ちた恋。狂おしくも愚直な想いに胸を突かれる短編集。この物語に「純愛」とつけること自体が、大人だ!と痛感。
『眠れぬ真珠』
石田衣良
新潮文庫 ¥590
更年期障害に苦しむ45歳の咲世子は、ある日行きつけのカフェで17歳年下のウェイター・素樹に魅せられる。終わりの予感とともに始まった恋の奇跡を描く、島清恋愛文学賞受賞作。
『情事の終わり』
碧野 圭
実業之日本社文庫 ¥600
およそ「不倫」などという言葉とは縁遠かった42歳の奈津子が恋に落ちたのは、勤務先の専務の娘を妻にもつ7歳年下の関口だった。不道徳、と呼ばれる一途な恋の結末はいかに!?
『望みは何と訊かれたら』
小池真理子
新潮文庫 ¥790
夫と娘のある54歳の沙織が、パリの美術館で偶然再会した吾朗は、過去に置いてきたはずの、けれど決して忘れられない男だった。モラルを超えた愛の深淵をのぞかせる長編作。
『決』
時の流れに逆らわず生きていけば楽だとわかっていても、動き出さなくちゃいけないときもある!
【人生の分岐点に立ったとき、踏み出す決意を促す物語】
年齢を重ねるとともに、処世術として身につけてきた、自分をごまかす方法。確かに瑣末な物事なら、見ないふり、聞かないふり、気づかないふりをしていれば、なんとなく時間が解決してくれることも少なくはないけれど、生きていくうちには、どうしても自分をだましきれなくなることも。
実の母より慕っていた義母の干渉に、しだいに耐えられなくなっていく『嫁をやめる日』の夏葉子。離婚、という決定的なできごとを先のばしにしつづけている『みちづれはいても、ひとり』の弓子。『こんな大人になるなんて』の一編「だれかの奥さん」の千鶴は、子供のころから夢見ていた「お嫁さん」の現実を持て余し、『永い言い訳』の幸夫は、妻を喪うしなったことで、自分を見失いかけてしまう。
その場所から一歩踏み出した彼女たちの勇気を味方に、明日へ進もう!
『こんな大人になるなんて』
吉川トリコ
徳間文庫 ¥630
子供のころ、ぼんやり夢見ていた将来は、こんなはずじゃなかったのに! ぼやきながらもしたたかに生きる大人女子の日々を収めた短編集。手の中にある大事なものに気づくはず。
『永い言い訳』
西川美和
文藝春秋 ¥1,600
ぞんざいな関係が続いていた妻をバス事故で喪った人気作家の幸夫。同じ境遇にある家族との交流を通じ、過ぎ去りし日々に想いをめぐらせ、再生していく姿に心が強くなること確約。
『嫁をやめる日』
垣谷美雨
中央公論新社 ¥1,600
44歳のある日、突然夫を亡くした夏葉子。仕事も家もある、友だちもいる。じわじわと解放感を抱く中「嫁」としての立場は残り続け――。「もしも」の予習としても既婚者は必読!
『みちづれはいても、ひとり』
寺地はるな
光文社 ¥1,500
アパートの隣人・楓を誘い、別居中の夫を追って離島へ旅立った弓子。〈お金も残された人生の時間もあんまりない〉ふたりのからまる事情&友情が、うらやましくもなる不思議。うまい!
『個』
幸せは、誰かと比べるものじゃない。不幸かどうかも、決めるのは自分。千差万別、十人十色の愛の形
【理解されたいわけじゃない。私の幸せは私が決める!】
恋愛・結婚についてまわる「普通の幸せ」という言葉は、実はかなりの厄介もの。恋人や夫の性格、収入、職業、学歴などなど、他人と比べてもしかたがないと頭ではわかっていても、隣の芝生が青く見えることはある。
そんなときは、幸せの尺度を見直してみるのも一考。男と女の愛の形には、他人から見ればいびつで受け入れがたくても、自分にとってはそれが最上の幸せ、ということも。例えば7つ年下のバンドマンを、恋愛感情を隠したまま、金銭的にも精神的にもひたすら支え続ける『伶也と』の直子は、物語の冒頭で、はたから見ればみじめで不幸な遺体となって発見される。それでも、読み終えたあとには誰もが彼女は幸せだった、と痛感するはず。
「私の幸せ」は、この手の中にあるのだと、揺るがぬ強さを身につけるきっかけをつかんでください。
『それを愛とは呼ばず』
桜木紫乃
幻冬舎 ¥1,400
それぞれの事情で、職を追われ、寄る辺をなくした54歳の亮介と29歳の紗希。やがてたどりついた場所でふたりが見た、そして経験する壮絶な愛に震撼。深いため息が漏れる。
『伶也と』
椰月美智子
文藝春秋 ¥1,300
ライブハウスで衝撃的に出会ったバンドのボーカル・伶也を、40年もの長きにわたり献身的に陰から支え続けた直子。これは究極の愛なのか、報われぬ恋なのか。しびれるような傷みが胸に。
『エストロゲン』
甘糟りり子
小学館文庫 ¥690
不妊治療をあきらめた千乃、バツイチ子持ちの泉、専業主婦の真子。かつて同じ大学に通っていた、今は立場の異なる47歳の女たち。まだまだ女でいたいという叫びが突き刺さる!
『婚外恋愛に似たもの』
宮木あや子
光文社文庫 ¥540
デビュー前の男性アイドルグループ「スノーホワイツ」の熱狂的なファンである5人の人妻。暴走的妄想に彩られた日常のリアリティに拍手喝采。これほどの愛は、そうそう注げない!
『黒い結婚 白い結婚』
中島京子、窪 美澄ほか
講談社 ¥1,500
人生の墓場とも、幸福の絶頂ともたとえられる結婚について、7人の作家がダークサイド、ホワイトサイドの両面から筆を競う。忘れかけていた結婚のよい面も思い出せるはず!