涼を誘う金沢の工芸&使いたくなる器たち【黒田知永子、夏ならではの金沢】

春夏秋冬、毎年のように金沢を訪れている黒田知永子さんが、日頃から自身でも愛用しているというテーブルウエアのショップやアトリエを巡りに夏の金沢へ。涼を演出する金沢の工芸品や、年中使いたくなる器をご紹介します。

涼を誘う金沢の工芸、使いたくなる器たち

艸田(くさだ)正樹さんのアトリエ
ガラス作家・艸田(くさだ)正樹さんのアトリエにて。ふわりと広がるガラス器がいくつも並ぶ様子からは、にぎやかな水音が聞こえるよう
黒田さんが愛用するテーブルウエア、実は金沢率が高い。

「長左(ちょうざ)さんの九谷焼、竹俣さんのフォーク、艸田さんのガラスをはじめ、金沢の作家さんの器はいつも大活躍。夏は特に出番が増えます。芸術や工芸を大事にするこの街の文化が、若い人たちを育て、新たな才能を呼んでいるのもすばらしいことですね」と話す。

今回の旅では、お気に入りのショップをまわるだけでなく、ガラス作家の艸田正樹さんのアトリエも訪ねた。艸田さんの作品は、ピンブローという、水蒸気と遠心力で膨らませる手法で作られる。ガラスなのにどこか柔らかな質感と有機的なフォルムが魅力だ。

「きれいな風景と気持ちのよい空気、優しいお人柄から、この繊細な器が生まれるんですね」と、ますます愛着がわいた。

柔らかな質感と詩的なフォルム、ピンブローが生み出すかたち

艸田正樹さんのガラス

アトリエ1
アトリエに並ぶ作品の中から黒田さんが選んだのは、「自在の鍵」と名づけられた鉢。独特な揺らぎがきれいで、オブジェとしても見飽きない。
アトリエ2
会社員時代にふと出会ったというガラスの世界。「ひとりでやれる方法」が性に合い、ピンブローでガラス器を作りはじめた。「簡単な原理だし自然現象の組み合わせなので、作為を減らせるんです」と。30歳で作家になり今年で22年、金沢を拠点にして15年ほどがたつ。「僕のガラスはピンブローの個性」というけれど、そこにはガラスとセッションしているかのような、艸田さんにしか生み出せないポエティックで温かみのある造形が。食べ物をおいしく見せるだけでなく、そこに置いてあるだけで美しい。

器を形づくる工程は、金沢市が運営する貸工房で行い、自宅アトリエでは研磨などのフィニッシュ作業を行う。
アトリエ3
元は草木が生い茂っていたというアトリエの敷地は、緑に包まれて心地よい。「作品から想像していたとおり、優しくて素敵なかたでした」と黒田さん(※アトリエは一般公開していません)

【DATA】

金沢市内の常設取り扱い店は、『KiKU』(金沢市新堅町3の37)、『福光屋』(金沢市石引2の8の3)、『玉匣(たまくしげ)』(金沢市東山1の14の7)など。その他の取り扱い店、個展情報はHPを参照。www.kusada.net

 
 

貴重な骨董から現代の作家まで、センスのよい器が勢ぞろい

古い器や山本長左さんの九谷焼

宝祥芙蓉手小鉢
現代九谷焼を代表する山本長左作「宝祥芙蓉手小鉢」。
ショップ
現代作を扱うショップでは20〜30人の作家の作品がそろう。

「通りがかりにウインドーに大好きな山本長左さんの器を見つけてお店に入ったのがきっかけ。1点から買えるのがうれしく、親切にしてもらいました」と黒田さん。九谷焼の中堅からベテランまでの趣味のよい器がそろう。「絵付けはもちろんのこと、縁の下の力持ち、素地の質感も重視したセレクトをしています」と、涼やかな磁肌の美しさは店主の川本満さんの折り紙付き。隣には加賀ゆかりの骨董を集めた“骨董部”も。「金沢人のひとりとして、価値のあるもの、心を豊かにするものを知っていただきたくて」と。こちらは事前予約にて公開。
骨董部
しつらえも素敵な骨董部にて。幕末の再興九谷・松山窯の大皿や明治の加賀蒔絵など、すばらしいコレクションを拝見。壁には友禅の百合図が。
角皿
店内で見つけた河島洋さんの角皿は、幕末の九谷の名窯「吉田屋窯」の様式に創意を加えたもの。鮮やかなブルーを効かせた色絵が実につややか。

【DATA】

美術九谷焼 黒龍堂

金沢市本町1の5の3リファーレ1F ☎076・221・2039 9:00〜18:00 ㊡火曜 www.kokuryudo.com

 

 

端整な竹かごや漆塗りの花入は、極上素材と熟練の技巧の賜物

榎本千冬さんの竹工品

竹工品1
右は麻の葉に編み朱合漆(しゅあいうるし)を施した手付籠、左は六つ目に編み黒漆をかけた花入。お茶どころ金沢の審美眼に応えるでき映え。

こまやかなレースのような透け感、なめらかな触り心地……、研ぎすまされた竹工も、金沢の誇る工芸のひとつ。真竹をメインに、虎斑(とらふ)竹や黒竹を網代(あじろ)、麻の葉、亀甲、六つ目などに編んでいく榎本さんの作品は、竹の薄さと細さ、編み目が美しく整い、緻密で丈夫。「竹の表面を剝いだり、細く削ったりするミリ単位の作業は体の感覚」だという。漆の塗りにも長(た)け、シックな味わいの黒や朱の器も。和洋を問わず夏のインテリアになじんでくれる。
竹工品2
奥から緻密に編まれた網代のパンかご、多目的に使える四つ目のペントレー、麻の葉のコースター。コースターのような小さくて丸いものは特に高度な技術が必要だという。裏面もきれいでゆがみがない。

【DATA】

金沢市内の取り扱い店は、『金沢・クラフト広坂』(金沢市広坂1の2の25 金沢能楽美術館内)。その他、ギャラリーでの個展情報などはHPを参照。www.enomoto-chifuyu.net
 

 

真鍮、金銀、ステンレス…。作るものに合わせて素材を吟味

竹俣勇壱さんの金工品

アトリエ兼ショップ
ひがし茶屋街にある町家を改装したアトリエ兼ショップ。奥には炉を切った茶室が。竹俣さんのジュエリーやカトラリーのほか、石川県にゆかりのある作家たちの漆器や陶器なども。
金工品
真鍮に銀メッキを施したリムプレート¥28,400。昔の金型を生かして古色仕上げを施した「ryo」シリーズのカトラリー。ナイフ¥4,800、フォークとフィッシュスプーン 各¥3,800。蒼然と落ち着いた表情が魅力的。

黒田さんは、すっとしたステンレスの姫フォークを愛用。「細くて美しいフォークは和菓子に合わせてよく使っています」と。竹俣さんは「作るものの用途に合わせて素材を替え、強度、デザインを考えます」と話す。ジュエリーならプラチナやゴールド、お皿は食品をのせるため真鍮に銀メッキをかけ、カトラリーはステンレスを鍛金技法で、など。アンティークのような味わい深い質感を出す仕上げは、竹俣さんの真骨頂だ。

【DATA】

sayuu

金沢市東山1の8の18 ☎076・255・0183 10:00〜16:00(金〜日曜、祝日11:00〜18:00) ㊡水曜 www.kiku-web.com
 
 

むすびの器
銘菓「わり氷」をのせたのは、伝統の水引のグラデーションが目に涼やかなトレー、「むすびの器」¥12,000(加賀水引 津田水引折型 ☎076・214・6363)
ワンピース¥49,000 /ユナヒカ ブレスレット/黒田さん私物 靴/スタイリスト私物

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