「かつてジャーナリストやメディアの最先端にいる人たちには、子供や女性にむずかしい話をわかりやすく説いてあげなければ、という意識があったと思います。けれども本来、暮らしは社会の土台ですよね。いつのまにか生活の視点で世の中を見ることはあたりまえになり、女性誌でも政治や経済といったテーマを取り上げることも多くなりました。男性向け、女性向けとフィールドにラベリングをしてテリトリーを設けていた時代があったけれど、今は境界領域がくずれている。そういう中での11年間の連載でした」
連載では東日本大震災以降の道すじやジェンダーについての攻防など、幅広いテーマを取り上げた。姜さんは一貫して、不安の正体を粘り強く見つめている。
「夏目漱石も自伝的小説『道草』に“世の中に片付くなんてものは殆(ほとん)どありゃしない”と書いています。必ず因果はめぐりますから、物事が起こってしまったときにリセットしたり上書きしたりして何もなかったことにはできないんですね。くよくよしても始まらないと積極的に前向きになって根性論でがんばろうと押し通すのではなく、みんなでくよくよして立ち止まり、総括して詮索しようじゃないか、と僕は思っています」
弱さを嫌悪するウィークネスフォビアについても語り、社会から見捨てられそうな人たちに、常に心を寄り添わせる。
「シングルマザーや子供たちの貧困をはじめとする格差、ハラスメントなどの問題は世界的なテーマですが、日本の場合は顕在化するまでに時間がかかりますよね。よくいえば我慢強いのですが、逆にいうと結局は自分が悪いのではないかと自己責任を感じてしまう人が多いのだと思います。そこに生きづらさがあるのではないかと考えると、誰もが自分の弱さを認めて、お互いをカバーしあう社会になってほしい。自分の弱さを認めることが本当の強さにつながりますし、甘えられるコミュニティの必要性を感じています」
コロナ禍で、日本が抱える問題が可視化されてきた今。情報をいかに取捨選択して、社会の問題と向き合えばいいのだろうか。
「何を信じればいいのかわからない時代に、視野狭窄になって陰謀論に染まったり、フェイクニュースを信じてしまう人もいるかもしれません。必要なのは、それをたたくことではなく、賢い考え方や生き方とは?と考え続けること。この本がそのためのヒントになったらいいなと思っています」