【金原ひとみさんインタビュー】美人キャバ嬢と腐女子の関係を描いた最新作「ミーツ・ザ・ワールド」

『蛇にピアス』で鮮烈にデビューして以来、女性の胸のうちに迫る小説を書き続けてきた金原ひとみさん。最新作『ミーツ・ザ・ワールド』は、腐女子の銀行員・由嘉里がひょんなことから死にたがりの美人キャバ嬢・ライと同居を始め、今までとは違う価値観に気づいていく物語。ポップな展開だが心に刺さる言葉がいっぱいで、改めて“人生で大事なこととは?”と考えさせられる。

生きづらさは人それぞれ。少しずつ自分を肯定できればいい

金原ひとみ

「周囲に腐女子が何人かいますが、情熱的で奥が深そうで、一本筋が通っている感じ。彼女たちの人生を考えたとき、自分に自信がない女性がいろいろな出会いを通して化学変化を起こす話が頭に浮かびました。由嘉里は焼肉の部位をイケメンに擬人化した漫画にハマっている一方で、“27歳だし婚活しなきゃ”とぼんやり考えていますが、デビュー当時の私だったらそんな常識に縛られた人は書けなかったと思う。自分の美意識に反していたから(笑)。由嘉里を主人公にできたのは、年齢や経験を重ねて“普通は恥ずかしくない、すごく尊い”という気持ちになれたからかな」

恋愛経験がなく卑屈になりがちな由嘉里に<無駄に自分を貶めるような言い方はしない方がいい>というライ。<この人ちょっと気持ち悪くないかも……って思える人と出会うまで、別に恋愛なんてしなくていいんだよ>というホストのアサヒ。よくわからなくても抱きしめてくれる飲み屋の主・オシン。どんなときも突き放す破滅型の作家・ユキ。由嘉里が出会った歌舞伎町の面々は、人をカテゴリーで判断していた彼女にとって新鮮で刺激的で……。

「だから由嘉里は個々と向きあって、自分で考えることを始めたのだと思う。特にライは、エネルギッシュな由嘉里とは対照的に、生きることに違和感をもっている人。わかりあえないけれどライに魅力を感じて感情を突き動かされたから、由嘉里は彼女の“死にたみ”を減らそうと必死になるんです」


そんな由嘉里の気持ちは、母との再会をきっかけに変化を見せる。“自分の価値観を押しつけてくる母がずっとイヤだったけれど、私がライにやっていることも同じ?”と考えるようになるのだ。

「私自身も母とそりが合わなくて、“こう生きてほしい、そうじゃない生き方は不安”という押しつけは不健康だとずっと思っていました。ただ今は決裂でも和解でもない“認める”というやり方があることを知っています。人って価値観を変えることはむずかしいけれど、アップデートは可能。その結果社会に多様性が生まれれば、自分に肯定感をもてる人が増えるのでは」

それを感じさせるのが、由嘉里がたどりついた境地。そのすがすがしさに胸を打たれ、エクラ世代も生きるヒントにしたくなるに違いない。

『ミーツ・ザ・ワールド』

『ミーツ・ザ・ワールド』

焼肉擬人化漫画にハマっている由嘉里は、合コン帰りに酔いつぶれて美人キャバ嬢・ライに拾われるが……。彼女の友人たちとも知りあった由嘉里の初めての冒険を描いた小説。「女性誌に連載していた小説で、読者が友だち感覚になれる人たちを書きました」と金原さん。集英社 ¥1,650

かねはら ひとみ●’83年、東京都生まれ。’03年『蛇にピアス』ですばる文学賞を、翌年同作で芥川賞を受賞。’12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を、’20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞を、’21年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞を受賞。『TRIP TRAP』『持たざる者』『パリの砂漠、東京の蜃気楼』(エッセー集)など著書多数。
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