話題の直木賞受賞作『塞王の楯』はお城好き、戦国好き必読!【斎藤美奈子のオトナの文藝部】

アラフィー女性に読んでほしいおすすめ本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんがピックアップ。話題の直木賞受賞作『塞王の楯(さいおうのたて)』は、石垣職人が主人公。職人の目から描かれた戦国時代が新鮮だ。
斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』『中古典のすすめ』『忖度しません』ほか著書多数。近著に『挑発する少女小説』(河出新書)。
『塞王の楯』

『塞王の楯(さいおうのたて)』
今村翔吾 集英社 ¥2,200
石垣造りでは他の追随を許さない穴太衆。鉄砲鍛冶の集団で、最先端の砲を造り出して注目を浴び続ける国友衆。それぞれに天才と謳(うた)われた飛田源斎と国友三落はその腕の才能をいかんなく発揮できる乱世の落とし子だった。しかし、次の世代の飛田匡介と国友彦九郎は少年時代に戦でつらい経験をしており、平和を希求する思いが強い。秀吉の天下統一後、戦が減って泰平の世に近づきつつある時代も巧みにとらえた’22年の直木賞受賞作。

お城好き、戦国好き必読! 話題の直木賞受賞作

旅先でお城に行くこと、ありますか? 実はここ十数年、日本は空前の城ブーム。コロナ禍で今はむずかしい状況だけど、登城者も増えている。

今期直木賞に選ばれた2作も城がからんだ作品だった。とりわけ今村翔吾『塞王の楯』はお城ファン垂涎の築城小説で、これを読めば城を見る目が変わること必至。

時は戦国時代の末期。主人公の飛田匡介(きょうすけ)は、近江(滋賀県)の石垣職人集団「飛田屋」の若き副頭(ふくがしら)である。飛田屋は「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ばれる集団に属しており、頭(かしら)の飛田源斎は「塞王」と呼ばれる当代一の技の持ち主だった。

お城と聞いて多くの人が思い浮かべるのは壮麗な天守だろうけれど、天守は城の一部にすぎない。城の基本は土木工事。守りの要は人の手で積んだ石垣なのだ。

匡介は越前(福井県)の生まれだったが、少年時代に朝倉家が織田軍に滅ぼされた一乗谷の合戦で家族をなくし、飛田源斎に拾われたのである。一乗谷城は石垣のない土塁城。頑強な石垣があれば領民の命は守られたはずだった。

こうして妻子のいない源斎の跡取りになった匡介は、8歳から修業を積んで今30歳。石垣を積む「積方(つみかた)」のリーダーだ。飛田屋は分業制で、ほかに山から石を切り出す「山方(やまかた)」と、切り出した石を現地まで運ぶ「荷方(にかた)」がいる(詳細な作業工程を記したくだりは最高)。

穴太衆はあくまでも職能集団。注文がくればどんな大名のもとにも赴き、敵も味方もない。が、彼らにも宿命のライバルがいた。穴太衆と同じ近江に本拠地を置く鉄砲鍛冶の集団「国友衆」だ。

穴太衆の「塞王」に匹敵する随一の名工は「砲仙(ほうせん)」と呼ばれ、国友三落(さんらく)がその地位にあったが、近ごろ引退。養子の国友彦九郎(げんくろう)が跡を継いだばかりだ。彦九郎は31歳。武家の出だが、弓の名手だった父が火縄銃に討たれたのにショックを受け、鉄砲職人を志して国友衆に弟子入りしたのである。

〈片やどんな城でも打ち破る至高の矛。片やどんな攻めも撥ね返す最強の楯。矛楯(むじゅん)という言葉がこれほどしっくり当て嵌まることも少なかろう〉。まさに!

「絶対に破られない石垣」を造れば戦はなくせると考える匡介と、「どんな城も落とす砲」の威力を見せつければ戦をする者はいなくなると考える彦九郎。ともに平和を望むふたりだが、石垣も鉄砲も戦争の道具である以上、注文がくるのは戦が頻発する乱世なればこそ。泰平の世になれば用なし、という矛楯も抱えている。

職人の目から描かれた戦は、戦国武将が主役の時代小説とは一味も二味も異なり、今日の防衛のあり方なんかも考えずにはいられない。京極高次の居城である琵琶湖畔の大津城を舞台に繰り広げられる両者の対決は、はたして!

あわせて読みたい!

『黒牢城』

『黒牢城』
米澤穂信 KADOKAWA ¥1,760
時は本能寺の変の4年前。信長に反旗をひるがえし、毛利連合軍側についた荒木村重は有岡城に立てこもっていたが、そこで奇妙な事件が起きる。村重は地下の土牢に幽閉されていた黒田官兵衛に探偵役を依頼する。「このミス」1位にして、『塞王の楯』と同じ’22年の直木賞受賞作。

『歴史群像シリーズ 日本100名城  公式ガイドブック スタンプ帳つき』

『歴史群像シリーズ 日本100名城 公式ガイドブック スタンプ帳つき』
日本城郭協会 ワン・パブリッシング ¥1,650
日本100名城は日本城郭協会が’06年に定めた名城リスト。’07年からスタンプラリーもスタートし、お城ブームの火付け役となった。豊富な写真資料とともに各城の見どころを紹介し、城の基礎知識も満載。旅のガイドブックとしても、ビギナー向けの入門書としても好適。

  • エッセー集『ぜんぶ 愛。』につづられた思いとは?安藤桃子さんインタビュー

    エッセー集『ぜんぶ 愛。』につづられた思いとは?安藤桃子さんインタビュー

    父・奥田瑛二からは個性的すぎる教育を、母・安藤和津からはたっぷりの愛情を受けて育ち、現在映画監督として活躍する安藤桃子さん。エッセー集『ぜんぶ 愛。』には“著名人の娘”という目で見られて悩んでいた彼女が映画の世界に飛び込んだ経緯、そして結婚・出産・離婚を経験した移住先の高知で暮らしを楽しむ様子がいきいきとつづられていて、読む人の心を離さない。安藤さんのバイタリティに魅了される一冊だ。

Follow Us

What's New

Feature
Ranking
Follow Us