4人組の60年以上にわたる長い時間の物語『わたしたち』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】

アラフィー女性に読んでほしいおすすめ本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんがピックアップ。今回は仲よし4人組の半世紀を描いた『わたしたち』とほか2冊をご紹介。
斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』ほか著書多数。
『 わたしたち 』

仲よし4人組の半世紀を描く、シスターフッド小説

年を重ねると、昔からの友だちが本当に大切に思えてくる。中学、高校、大学時代の仲よしグループと今も交流のある人は意外と多いのではなかろうか。ここまできたら一生の友ですからね。大事にしないとね。

落合恵子『わたしたち』も、そんな仲よし4人組の物語である。

美由紀・容子・晶子・佐智子の4人は’58年、中高一貫の女子校・希美学園で出会った。13歳、中学1年生のときである。

希美学園は進取の気風にあふれた学校で、とりわけ彼女たちに大きな影響を与えたのは副校長の鈴木美智子先生だった。先生は生徒を「あなたがた若き女性」と呼び、少女よ大志を抱けと教えた。

〈ようございますか、覚えておいてください。あなたがた若き女性たちは何にでもなれるのです〉

〈誰かの妻になろうと努力する人生よりも、大事なことは、そうと望めば、女性でも大統領や首相を目指せる社会であることだとわたくしは考えます〉

外房での臨海学校で意気投合した4人は一緒に高校を卒業し、美智子先生の教えを胸にそれぞれの人生を歩みはじめるが……。

4人は出自も個性もいろいろである。日米ハーフの美由紀は「わたしは美人だから嫉妬される」という論理で逆境をのりきってきた。容子と晶子は父親のいない婚外子。佐智子は男の子が欲しかった家の次女に生まれ、姉にコンプレックスを抱いて育ってきた。

終戦の年に生まれたこの世代は、男は外で働き女は家を守るという性別役割分業思想が急激に広まった高度成長期に10代〜20代の青春期を送った世代だ。女子の就職も厳しかった時代である。それでも彼女たちが自分で自分の道を切り開いたのは、美智子先生の薫陶が効いたせいかもしれない。

美由紀はジャズシンガーを夢見て渡米。容子は大学を出てラジオ局に就職、20年後にフリーになった。晶子は大学院に進み、母校の女子大で女性学を講じる講師となり、若くして結婚した佐智子は結婚で初めて自由を得た。

なんというか、一見キラキラとした人生である。しかしながら時はたち、’80年代後半、40代になった彼女たちを待ち受けていたのは、それぞれの人生の壁だった。ことに美由紀は渡米後すぐに結婚し、中国系アメリカ人の夫の夢に賭けるも夫のDVに悩み、失意の中で帰国を決意する。残る3人は連絡をとりあった。〈なんとしても三人で美由紀を迎えてやろう〉。

’58年から’21年まで、60年以上にわたる長い時間の物語である。70歳を過ぎた彼女たちは病や死を意識せざるをえない年齢となり、4人の中の誰かが欠けるという事態にも直面する。友情はおひとりさまの老後のためにも必要なのかもしれないとしみじみ思った。

『わたしたち』

落合恵子 河出書房新社 ¥1,870

中高一貫の女子校でともに学んだ4人組の13歳から76歳までの物語。彼女たちの人生に加え、美智子先生を介して語られるリベラルな価値観や、女性の生き方に影響を与えた先駆的なジェンダー論も読みどころのひとつ。また当時の社会情勢も含めながら進む物語は、ちょっとした戦後史の印象も。70代になっても4人が集まれば気分はすっかり少女小説。ことに作者自身がモデルとおぼしき容子の人生観が印象的だ。

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『 泣きかたをわすれていた 』

『泣きかたをわすれていた』

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『 ガールズ・ブルー 』

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