人の名前を思い出せない、約束を忘れる。50代のもの忘れは認知症の始まり?【小田ユイコ×アルツクリニック東京 院長 新井平伊先生対談#1】

予約していたネイルサロンに行くのをうっかり忘れる、歩きながら受けた仕事の電話で言われた内容をあとから思い出せない。もの忘れが増えてきたなと思う昨今、これは単なる老化現象なのか、認知症の前段階なのかがとても気になるようになった小田。もの忘れの治し方を、認知症の権威、新井平伊先生にうかがってきました。
新井平伊先生

新井平伊先生

アルツクリニック東京 院長。医学博士。順天堂医学部卒業。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年よりアルツクリニック東京 院長に。順天堂大学医学部名誉教授。日本老年精神医学会専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。著書に『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文藝春秋)ほか。
小田ユイコ

小田ユイコ

美容ジャーナリスト。出版社に勤務後、独立。『eclat』『MAQUIA』『LEE』『BAILA』などの女性誌や、WEB媒体で美容記事を執筆。「美しさは健康から」をモットーに、女性のカラダに関する取材を長年にわたり行う。1965年生まれ。
50代のもの忘れは認知症の始まりか悩む女性

小田:もともと記憶力がいいほうではないけれど、最近では昨日何を食べたかを思い出せなかったり、雑談の中でタレントの名前が出て来なかったり、今進行中の仕事の状況をメモを見ないと思い出せなかったり。夫の予定を何度も聞いてしまい「それ、ゆうべ伝えたよ」と言われることが増えました。

新井先生:もの忘れは、その方の性格や思考の傾向にも影響されます。私も顔は覚えられても、名前を思い出すのは苦手なほう。軽いもの忘れは老化のひとつで、40代から遠視(老眼)が始まったり、白髪が増えるのと同じこと。特に40後半から50代にかけては子育て、夫との関係、親の高齢化、お仕事をなさっている方なら責任も増えたりしてタスクが大きくなる。すると疲労がたまって注意力が散漫になり、記憶が上書きされ、忘れてしまうようになるのです。

小田:確かに、仕事が重なったり、家族のことなど心配事があるともの忘れがひどくなる気がします。こうしたことが引き金になって、認知症になっていくのでしょうか。

新井先生:老化や忙しさゆえのもの忘れと、認知症とのあいだに直接的な因果関係はありません。ただ間接的には関係あり。たとえば寝不足だったり、鬱っぽかったり、太ってきたりといった、老化によるもの忘れと同時に起こっている心身の変化は、認知症のリスクファクターだからです。

もの忘れが「病的」かどうかの判断ポイント

小田:老化や忙しさによるもの忘れなのか、病的なもの忘れなのかを判断する方法はありますか?

新井先生:認知症のチェックリストというのがあるのですが、あれだと正確には判断できない可能性が。なぜなら性別や暮らしぶりで人それぞれ違いがあるからです。それより、気にしてほしいのが「変化」。下のような変化があったら、認知症を疑ってみてほしいですね。

1. もの忘れの頻度が増える

人の名前を忘れる、別な部屋に来たけれど何をしに来たかわからない、などの回数が目立ってくる。

2. もの忘れの程度が重い

手帳に書いてあっても重要な会議をすっぽかすなど、他人に迷惑をかけるようなもの忘れをするようになる。

3. もの忘れ以外の変化がある

言葉に詰まる、計算が苦手になる、趣味に対しやる気がなくなる、家電の操作がおっくうになる。

胃痛で内科に行くように、脳も「変化」を感じたら外来の受診を

小田:私かなり思い当たるんですが、認知症かもしれません! どうしたらいいですか?

新井先生:焦ったり、恐れる必要はありません。まずは認知症外来などを受診するか、脳ドックを受けることをおすすめします。胃が痛くて心配なら内科を受診するでしょうし、年に1回人間ドックで胃カメラの検査を受けたりしますよね? それと一緒です。

小田:認知症外来は、少しハードルが高く感じますし、脳ドックも受けたことがありませんでした。

新井先生:脳ドックは、人間ドックの中でもオプションであることが多く、受ける人の割合が少ないことは事実です。ただ、最近では認知症外来を自ら受診する人は増えているのですよ。調べてみて認知症でなければ、それでいいわけですし。まずは正しい情報を得ることが大事なのです。

小田:胃がんや乳がん、子宮がんなどの検診は怖くないのに、脳を調べるとなるとなぜか消極的に。認知症が見つかったらイヤだなという気持ちが先行していたのかも。

新井先生:悪い結果を聞きたくないというお気持ちはわかります。ただ、上記の3項目のような「変化」に最初に気づくのは自分。他人が気づくようになってからでは、少し遅い可能性があります。もの忘れの原因が、たとえばアルツハイマー型認知症の前段階、軽度認知障害(MCI)だった場合、脳の萎縮が始まってしまう可能性があります。

小田:認知症外来を受診すると、どのような診察をするのですか?

新井先生:当クリニックの場合、まずは認知症以外の病歴をうかがいます。なぜなら、生活習慣病などがある場合、それが認知症の引き金になっていることが多いからです。そして、もの忘れなど、今困っている問題がいつ頃から起こっているかを振り返ります。さらに認知機能検査(もの忘れ検査)、血液検査、脳のCT画像検査またはMRI検査を行い、単なる主観的な認知機能低下(SCD)なのか、認知症の前段階の軽度認知障害(MCI)なのか、アルツハイマー型を含む認知症の中で、どのタイプの認知症なのかを診断します。

小田:脳ドックを受けるのと何が違うのですか?

新井先生:脳ドックの場合、一般的には頭部MRI検査をメインで行い、検査結果から診断が下され、医師による診察はないのが通常です。「変化」が気にならなければ、脳ドックで現状を確認するのがよいでしょう。

認知症に進む前に、脳の異常が見つかる最新の検査とは!?

小田:軽度認知障害(MCI)になる前に異常を見つける方法はありますか?

新井先生:アミロイドPET検査があります。この検査では、アルツハイマー型認知症の原因タンパク質、アミロイドβがどのくらい脳にたまっているかがわかります。アミロイドβは健康な脳にも存在しますが、通常は寝ているあいだに代謝、分解されて脳の外へと排出されます。年齢とともに脳内で増えていくものですが、蓄積すると異常なタンパク質となり、神経細胞を壊し、脳を萎縮させてしまうのです。アミロイドPET検査では主観的認知機能低下の段階で危険を察知できるので、早期に予防対策を打てるのです。

小田:受けてみたいですが、料金がなかなかに高額ですね。

新井先生:検査薬が高額なので、どうしても高くなってしまいます。本当は多くの方に受けていただきたいのですが。

小田:教えていただいた検査でアルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)などが判明したら、どのように治療を行うのでしょうか。また、今すぐできるもの忘れ予防、認知症予防がありましたら教えてください。

新井先生:実は治療も予防も、共通していることが多いんですよ。次回ご説明しましょう。

新井先生に「自分の変化にいちばん始めに気づくのは自分」と言われ、ドキッ。もの忘れが悪化しているのはわかっているのに、まあ大したことないだろう、なんとかなるだろうと思っていたのは「逃げ」だったと深く反省。まだまだ仕事もしたいし、人生を楽しみたいし! となると、脳をほったらかしにはできないとようやく気づきました。次回#2ではもの忘れ対策、認知症予防の実践編をお届けします。何をするのが脳にとって快適で、認知症予防になるのかを教えていただきましたので、どうぞお楽しみに!

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