自分らしく「がん」と向き合うために知っておきたいこと

突然の宣告は、当事者はもちろんのこと、受け止める周囲の心も揺らすもの。自分らしく「がん」と向き合い、心穏やかに今を生きるために知っておきたいこと。
教えてくれた人
精神腫瘍医 清水 研先生

精神腫瘍医 清水 研先生

精神科医、医学博士。金沢大学医学部卒。国立がん研究センター勤務を経て’20年より公益財団法人がん研究会有明病院腫瘍精神科部長。著書に『がん患者のこころをささえる言葉』(KADOKAWA)、『絶望をどう生きるか』(幻冬舎)などがある。

不安や悲しみは自然な感情。無理に打ち消さなくていい

精神腫瘍医は、がん患者とその家族の心理的な苦痛を軽減し、療養生活を円滑に行うためのサポートを行う精神科医。清水研先生は、これまで4000人以上のがんに悩む人々と向き合い、対話を重ねてきた。

「がんの患者さんにとって罹患は、ひとつには大きな喪失体験だと思います。健康で過ごすはずだった未来を失い、壮健だった体を失う。そしてもうひとつには、『自分はこれからどうなるんだろう』という危機、つまり不安との付き合いの始まり。でも、不安や喪失の悲しみは決して悪いものじゃない。将来に備えるための、ごく自然な感情なんです」

無理に打ち消したり乗り越えたりしなくていい、と清水先生。ただ、付き合い方にはコツがあるという。

「真っ暗闇にいると不安が増幅しますから、まずは治療法や経過について正しい情報を得て治療を受ける。そして、自分にできることをやったら、あとは不安は心に居続けるものだと割り切って、仕事をしたり家事をしたりと淡々と日常を送ること。未来を考えると不安になるし、過去を思うと後悔する。だったら、家族とごはんを食べる時間や友だちと会う機会など、今、この瞬間を楽しく過ごすことではないでしょうか」

がんになってよかったとは思えないけれど、気づいたことはたくさんある。これは、清水先生がこれまで多くの患者たちから聞いた言葉。

「最初は『まじめに生きてきた自分がなぜがんになるんだ』と怒りを感じ、悲しむ。それでも、きちんと落ち込んだあとは、あたりまえだと思っていたものをいつ失うかわからないのなら今日一日を大事に生き、大切な人との関係を大切にしよう、逆にいらないものは手放そう、と。不安に怯(おび)える自分を認め、自分にとって何が大切かを改めて知る機会を得たということなのだと思います」

いつでも「これが自分」と受け入れられる人生を

そしてエクラ世代であれば、身近な人、親しい人のがん罹患に接する機会も増えたはず。例えば、家族や友人からのLINEで「がんになっちゃった」と告白され、対処せねばならなくなることも起こりうる。「えっ」「そうなんだ」のあと、あなた

なら何と続けるだろうか?

「驚くだろうし、きっと動揺しますよね。例えば『とてもびっくりしているし、あなたが今、どういう気持ちでいるのかなと考えています』というふうに……。『がんばれ』とやみくもに励ますのではなく、『落ち込んでるよね』と決めつけるのでもなく、相手を思っているという気持ちは素直に伝えていいと思うのです」

相手の性格や関係性にもよるが、基本は相手が話したいときにまずはじっくり話を聞き、気持ちを慮る。そして、泣きたいのなら泣いてもらい、背中を押してほしそうならそっと押すなど、それぞれに合った対処をしていけばいいと清水先生。ある先輩医師はがんに罹患した際、望ましい接し方についてこう語ったという。

「空車のタクシーのように、『いつでも乗せるから、必要だったら声をかけて』と。これはなかなかいい態度なんじゃないでしょうか」


がんに罹患しなくても、誰にもいつかは必ず命を終えるときがくる。その未来を少しだけ早く実感させるのが「がん」だとしたら、接したことをきっかけに、自分らしい生き方、最期の迎え方を、改めて自分に問い、考えてみる時期なのだろう。

「理想論かもしれませんが、私なら『これが自分だよね』と……。何が起こったとしても、これが自分の人生だと納得して終えられたらいいだろうな、と思っています」

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