【50代女性がものにつまづきやすい原因・対策】アキレス腱の柔軟性が鍵。今からできるつまづきを改善する方法とは?

50歳を超えたころからちょっとした段差や石ころにつまづいたり、転んだり…。なぜ50歳になると足にまつわる悩みが増えるのか、50代女性がつまづきやすい原因や対策を足の専門クリニックに伺いました。
お話を伺ったのは…
久道勝也先生

久道勝也先生

下北沢病院 理事長・医師。獨協医科大学を卒業後、順天堂大学皮膚科に入局。ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授などを務めたのち、2016年にアジアで唯一の足の総合病院として、下北沢病院を設立。日本足病フットケア学会評議員。著書に『新しい「足」のトリセツ』(日経BP)がある。
取材したのは…
小田ユイコ

小田ユイコ

美容ジャーナリスト。出版社に勤務後、独立。『eclat』『MAQUIA』『LEE』『BAILA』などの女性誌や、WEB媒体で美容記事を執筆。「美しさは健康から」をモットーに、女性のカラダに関する取材を長年にわたり行う。1965年生まれ。

 
①50代女性がつまづきやすい原因はアキレス腱の硬さにあった

今シーズン購入したフワもこのサンダル。ちょっとした段差にも「おっとっと」とつまづいてしまう。アラフィー世代はおしゃれな靴への苦手意識がどんどん大きくなりがち。
今シーズン購入したフワもこのサンダル。ちょっとした段差にも「おっとっと」とつまづいてしまう。アラフィー世代はおしゃれな靴への苦手意識がどんどん大きくなりがち。
うっかりものにつまづきやすくなり、ひどいときには転んでしまうこともあるアラフィーの女性たち。もしかして歩く能力が落ちている? その原因として真っ先に思い浮かぶのは、足腰の筋力の低下。在宅ワークも増えましたし、「歩くスピードが以前より遅くなった」「厚底の靴が重く感じられ履くのが辛くなった」といった自覚があるかた、きっといらっしゃいますよね。

一方で、「ちゃんと運動をしているのに!」という人も少なくないはず。実は小田も定期的にジョギングしたり、最近ではテニスに打ち込んだりと、足腰の筋力はそこそこあるつもり。それなのに、どうしてちょっとの段差にもつまづいてしまうのでしょう?

「人が二足歩行するうえで大切なのは、脚の筋力とともにアキレス腱の柔軟性です。ちゃんと運動しているはずなのにつまづくことが増えたというかたは、アキレス腱が硬くなっていて、足首の関節の可動域が狭まっていることをまず疑うべきです」(久道先生)。そういえば小田は若いときから何か運動をするたびに足首の硬さを指摘されてきました。足首自体が硬いのかなと思っていたのですが、なんと原因はアキレス腱にあったんですね!
  • アキレス腱が柔軟だと、足底のアーチがくずれない。

    アキレス腱が柔軟だと、足底のアーチがくずれない。

  • アキレス腱が硬いと、足底を押しつぶし、偏平足に。

    アキレス腱が硬いと、足底を押しつぶし、偏平足に。

それにしても、歩くときの足の動きにアキレス腱がどのように関係するのでしょうか。

「正しい歩き方の流れを説明しますと、まずかかとから着地して、次に足裏全体が接地します。そこから重心が前方に移動する過程で、すねが前に倒れます。アキレス腱が柔軟でしっかり前に倒れる人は、足底のアーチが沈み込み衝撃を吸収。さらに重心が前方に移動するにつれてアーチが回復し硬い状態になり、足指で地面をしっかりとけり出すことができます。このけり出しがしっかりできれば、次に足を前に出すときの地面と足のあいだにクリアランスが確保されるので、そうつまづくことはありません」(久道先生) 

反対に、アキレス腱が縮こまっていて硬い状態では? 

「アキレス腱が硬くてすねがスムーズに前に倒せないと、かかとから足裏への体重移動が急激におこなわれるため、足底のアーチの沈み込みと回復に十分な時間的な余裕がなく、足指で地面をしっかりとけり出すことができません。いわゆるベタ足、すり足の状態になり、つまづきやすくなってしまうのです」(久道先生)

なるほど、結果的につま先が高く上がらない歩き方になってしまって、小さな段差にもつまづいてしまうということか。それに私の偏平足は遺伝のせいと思っていたのですが、アキレス腱の硬さが原因かもしれないのですね。
足のすねを10°以上前傾できれば、アキレス腱は柔軟。
足のすねを10°以上前傾できれば、アキレス腱は柔軟。

アキレス腱が実際に硬さをチェックする方法

「まっすぐに立ち、アキレス腱伸ばしの要領で、片足を一歩うしろに下げ、前の脚のひざをゆっくりと曲げてみてください。うしろの脚のすねを10°以上前倒できれば、アキレス腱は柔軟です」(久道先生)。アタタッ、実際やってみると思った以上に倒れない(笑)。かかとからふくらはぎにつながるアキレス腱がカチコチで、ストッパーになっている感じがします。

「足のトラブルは、50年の足の使い方の積み重ねの結果。足を専門に診察していると、50歳を境に足の機能は下り坂になっていくのは明らか。アキレス腱はもとより、足まわりの皮膚、筋肉、血管、神経、骨すべてが変化を始めます。 50歳は『足の曲がり角』と心得て、もっと足をいたわってあげてください」(久道先生)。そういえば、顔の肌や髪、ボディラインのエイジングは気にしても、足のエイジングはあまり気にしていませんでした。

「小田さんがものにつまづきやすくなったのは、将来の歩行困難への予兆。硬いアキレス腱は、ほかの足のトラブル、ひいては全身の不調も招きます。毎日元気に歩き続けることがこの先の健康長寿のカギを握っていますから、まずはアキレス腱を柔軟にする意識を持つことから始めてみましょう」(久道先生)。そういえば、アキレス腱は“致命的な弱点”の意味でも使われますもんね。それだけ重要な部分と心得ました。

 
②アキレス腱の硬さはヒールの高い靴を履き続けた影響も大きい

先生、私これでもストレッチや運動はしているほうだと思うんです。もしかして、アキレス腱が硬いのは遺伝?

「もちろん腱の柔軟性は、遺伝によるところもあります。しかし日々の診察で私たちが感じているのは、50歳を超えると半数以上の人はアキレス腱が硬くなっているということ。これは遺伝だけでは説明がつきません」(久道先生)。

「年齢を重ねるごとに、男女ともにアキレス腱は硬くなっていきますが、特に、50歳以降の女性にアキレス腱が硬い人が多いのは事実です。それは、ヒールの高い靴を履き続けた影響も大きいと考えています。ヒールの高い靴を履くと、つま先立ちのような状態になり、アキレス腱は縮んだ状態に。歩いてもつま先立ちの状態は変わらず、アキレス腱は縮んだままです。ヒールの靴ばかりを履き続けることで、アキレス腱は縮んだ状態があたりまえに。ヒールの靴を履いていないときですら、アキレス腱をのばさずに歩くクセがついてしまうのです」。

今でこそ、スニーカーなどペタンコ靴を履くのがあたりまえになっていますが、50歳前後の女性は、20代のころからパンプスに慣れ親しみ、おしゃれな女性ほどヒールの靴を履いてきたという事実が。かくいう小田も、40代まで7~10cmヒールの靴を履くのが日常でした。

「アキレス腱を伸縮させ、しっかり指先で蹴り出す歩き方ができるのは、4cmヒールまで。4cmを超えるとアキレス腱の伸縮がなくなるだけでなく、足の位置がつま先のほうにズレて、足指が靴先に押し付けられてしまい、足指や爪の変形にもつながります。もちろん、靴のデザインや素材などによっても差はあるのですが」(久道先生)。
小田のつまづき靴はパンプス。すぐに靴のつま先が擦れて、傷んでしまう。ヒールの高さが4cmを超える靴を履き続けていると、アキレス腱の伸縮が悪くなり足にとって負担に。
小田のつまづき靴はパンプス。すぐに靴のつま先が擦れて、傷んでしまう。ヒールの高さが4cmを超える靴を履き続けていると、アキレス腱の伸縮が悪くなり足にとって負担に。
「ヒールは低くても、バックストラップのないサンダルや、アウトソールの素材が硬すぎて足指でけり出せない靴は、歩行時に足が靴の中で動くためにスムースな歩行を妨げます」(久道先生)。ペタンコなサンダルはじっとしていれば楽だけれど、確かによくつまづくかも。

「デザイン性の優れた靴を履かないでくださいとは申しませんが、ぜひハレの日に。ひじ、肩の故障を避けるためにプロ野球の投手に100球制限があるように、女性の足も『消耗品』。ヒールの高い靴を履いたらしっかり休ませて、メンテナンスをする必要があるのです」(久道先生)。
ヒールの高い靴やサンダルのおしゃれをあきらめる必要はないが、シチュエーションによってスニーカーと履き分けたり、足に負担をかけたあとのメンテナンスは必須。
ヒールの高い靴やサンダルのおしゃれをあきらめる必要はないが、シチュエーションによってスニーカーと履き分けたり、足に負担をかけたあとのメンテナンスは必須。
アキレス腱が縮こまったままにならず、しっかり伸縮させる歩き方をするには、どのような靴を選べばいいのでしょうか。「まずは自分のつま先の形に合ったものを選ぶこと。つま先の形はエジプト型、ギリシャ型、スクエア型の3つに分類されますが、日本人に多いのは親指がいちばん長いエジプト型。次に多いのが人差し指がいちばん長いのがギリシャ型で、指の長さがおよそ均等なスクエア型は非常に珍しいです。また、指の長さだけでなく足の幅にも合っていることも重要です。各ブランドによって靴の木型は異なるため、さまざまなブランドの靴を試着してください。一度このブランドの靴は自分の足に合っているとわかれば、靴探しがラクになります」(久道先生)。

「さらにはかかとの骨が安定するよう、かかとがしっかりホールドされる靴を。またアウトソール(靴底)は硬くてしっかりしたものを。足指のつけ根の部分でのみ曲がる靴が理想です。靴ひもを結ぶ靴は足の甲を固定し、足の動きを機能的にするので望ましいです」。

「理想的な靴を自分で見つけるのは難しいので、シューフィッターのいる店で購入することをおすすめします」。コロナ禍でネットで靴を購入することが増え、デザインとだいたいのサイズで取り寄せ、とても歩きにくかったという失敗を最近繰り返している小田。やはり、靴はしっかり試着することが大事ですね!

 
③アキレス腱の柔軟性を取り戻す簡単ストレッチ法

これから先も、ものにつまづかず、いつまでも快適に歩ける足でいるためにアキレス腱を柔軟に保つ方法、教えてください!

「アキレス腱伸ばしを毎日の日課にすること。これに尽きます! いろいろな足のお手入れ法はありますが、アキレス腱伸ばしが基本中の基本です」(久道先生)。

長年のヒール生活で縮こまってクセがついてしまったアキレス腱の柔軟性を取り戻すのですね! でも私、ストレッチも運動も折に触れてやっているのですが……。「そういうかたでもアキレス腱が硬いケースは、けっこう多いのです。ストレッチをしていてもアキレス腱にきちんと響いていなかったり、運動もアキレス腱が縮こまった状態で行っていたりするからです」

どうすればアキレス腱をしっかり伸ばせますか?
「壁を使って行うと、安心して上体を前に倒せ、しっかりとアキレス腱を伸ばすことができます」

毎日実践!アキレス腱伸ばし簡単ストレッチ法

【1】壁の前に立ち、両手を肩の高さで壁に当てる

【2】アキレス腱を伸ばしたいほうの足を一歩うしろに下げる。このときつま先はまっすぐ前に向け、かかとが浮かないように

【3】壁に体重を預け、前の足の膝をゆっくりと曲げる。アキレス腱が伸びるのを感じながら、そのまま30~60秒キープ。その際、昔、学校の準備体操で行っていたような反動をつけた動きはNG。足を入れ替えて同様に。これを5セット繰り返す。

小田もさっそく実践! 足の向きは開いたり内側に向けたりせず、「まっすぐ前方」に。上半身は腰が反ったり背中が丸まったりしないよう、まっすぐをキープ。
小田もさっそく実践! 足の向きは開いたり内側に向けたりせず、「まっすぐ前方」に。上半身は腰が反ったり背中が丸まったりしないよう、まっすぐをキープ。
「無理をせず、イタ気持ちいいくらいの伸ばし加減で。最初はあまり伸びなくても、だんだんに伸ばせるようになってきます」(久道先生)。最初はアキレス腱がピキピキ硬いのを感じていたのですが、数日繰り返すうちに、だんだん伸びがよくなり、1週間たつ頃にはかつてないほどすねが前傾するように。なんと、足裏をベタッとつけたままでしゃがむこともできるようになり(今まではかかとを上げないとしゃがめませんでした)、床をちょっと拭いたりと、日常動作がラクに。

何より、今は2週間たったのですが、歩行もかなり変わった気が。まず、つまづくことがなくなったし、足指の蹴り出しもしやすくなって、スッスッと足の運びがスムーズに。キビキビ歩けるので、ウォーキングが楽しくなったのには、われながらびっくり! 久道先生によると、続けることでこむら返りがなくなったかたも多いといいます。
ほかに、足のためにできる簡単なこと、ありますか?

「自分の素足をよく見ること。みなさん、顔の肌はよく見るのに、自分の素足はあまりご覧にならない。ぜひお風呂にはいったときやお風呂上がりに、左右の足を比較して。甲の具合、足指の形や間隔が左右対称かどうか、皮膚の色で赤くなるなど変色しているところはないか、チェックしましょう。また足の裏を見てタコやマメの位置を確認。どの靴でできたのか考えてみましょう」。毎日足をチェックすることで足への意識が自然と高まり、足に負担をかけない靴のローテーションを考えるようになりますね。
  • 毎日、甲や指、指のあいだが左右均等かチェック。

    毎日、甲や指、指のあいだが左右均等かチェック。

  • タコやマメができている位置を確認。

    タコやマメができている位置を確認。

「小田さんのように長年アキレス腱が硬かったことから、偏平足に陥ってしまった人におすすめなのは『タオルギャザー』。椅子に座った状態で、床に敷いたタオルを足指でたぐり寄せるだけなので、ぜひトライしてください。また足指でグーチョキパーをする『足指ジャンケン』もおすすめです」(久道先生)

タオルギャザーは下の要領で。『足指ジャンケン』はグーは5本の指の付け根の関節からしっかり曲げるように意識。チョキは親指と人差し指を引き離すようにして広げて。パーはすべての指が離れて扇状に広がるよう意識して広げます。
タオルギャザーは椅子とタオルを用意すればOK。床にタオルを敷いて、その上に足をのせる。かかとを浮かせないようにして、足の甲が丸くなるようにしながら足指でタオルをたぐり寄せる。
タオルギャザーは椅子とタオルを用意すればOK。床にタオルを敷いて、その上に足をのせる。かかとを浮かせないようにして、足の甲が丸くなるようにしながら足指でタオルをたぐり寄せる。
55年使い込んだ結果の偏平足に、すぐにアーチが戻ってくることはないかもしれませんが、アキレス腱の伸縮を使い、足指をしっかり返す歩き方とともに続けていけば、足の健康は上向いていきそう! これまで使うだけ使ってろくなお手入れもしてこなかった足に、急に愛着が湧いてきた小田。これからも長いお付き合いになるのですから、もっと大事にしてあげなければと思います。

 
④自分の足を良く知るための「足ドック」とは?

50歳が「足の曲がり角」であることを知ってガクゼンとしつつも、今気づけて本当に良かったと、今回の取材で感じている小田。最近始めた趣味のテニスも、細々続けているランニングも、元気な足があってはじめて楽しめること。

コロナ禍が明けて旅行に出るなど行動半径が広がれば、ますます足の健康は必須。何より人生100年と言われる時代に、まだまだ足のお世話にならなければならないのに、ここでエイジングやトラブルをだまって見ているわけにはいきません。

「気づいていただいてうれしいです。これまで、足のトラブルは軽視されてきましたが、今回のアキレス腱の硬さだけでなく巻き爪などの爪のトラブル、タコ、ウオノメ、足のむくみ、痛みなど、足のトラブルは実にさまざま。また、『足の心筋梗塞』と呼ばれる血行障害は、進行が早く、最悪の場合切断に至ることもあり、足の色調不良、冷えには早めの対処が必要なのです」(久道先生)
どこに相談したらよいのかわからない足のトラブル。足の専門病院で診察を受けるという選択肢も。
どこに相談したらよいのかわからない足のトラブル。足の専門病院で診察を受けるという選択肢も。
足の総合病院、下北沢病院では『足ドック』を実施していると聞きました。「はい、『足のみえるか検診』と呼んでいます。この検診でわかるのは、水虫や乾燥などの皮膚や爪のトラブル、動脈硬化や静脈の異常、足底圧の測定や靴のサイズ・歩き方の指導、足の変形はアーチの状態の確認、可動域や筋力、骨密度です」(久道先生)

『足のみえるか検診』、ほかでは行っていないのでとても興味深いです。どんな人におすすめですか?「いつまでも元気に歩きたいかた、『エクラ』の読者のように足元のおしゃれを楽しみたいかた、立ち仕事や運動量の多いかた、むくみやしびれなど何らかのトラブルがあるかた、糖尿病のかたにおすすめです」
「足のみえるか検診」の検診・検査項目は血流検査、骨格検査、身体機能検査、歩行検査、フットケア。レギュラープラン ¥88,000(第1・第3土曜日に実施)、プレミアムプラン¥148,000(第3木曜日に実施)
「足のみえるか検診」の検診・検査項目は血流検査、骨格検査、身体機能検査、歩行検査、フットケア。レギュラープラン ¥88,000(第1・第3土曜日に実施)、プレミアムプラン¥148,000(第3木曜日に実施)
「足のみえるか検診」で行われる、足の運動機能測定。理学療法士が正しい歩き方の指導も行う。
「足のみえるか検診」で行われる、足の運動機能測定。理学療法士が正しい歩き方の指導も行う。
「プレミアムプランでは、靴を履いた状態でのレントゲン検査も行っています。ふだんよく履く靴や、お気に入りだけれど痛い靴などをお持ちいただいて検査します。着用したとき、足元の骨格がいったいどのようになっているのかが一目瞭然です。必要に応じて提携している義肢装具士からの靴のアドバイスを受けたり、適した靴やインソールをオーダーメイドすることも可能です」(久道先生)

1年に一度、健康診断や人間ドックを受けるように、足の健康状態もチェックしたいもの。近々受けに行こうと心に決めた小田でした!

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