読んで後悔なし!アラフィーが今読むべき「2022夏の文芸エクラ大賞」

「本との出会いをつくりたい」「読書の喜びを再認識するきっかけになれば」との思いから始まり、今年で5回目を迎えた文芸エクラ大賞。感染症の流行に加えて戦争が勃発し、世界中が先行き不透明な今、考える力を養う本はますます重要。楽しい時間を自分のものにするためにも、ぜひ本の扉を開けてみてほしい。

 

今の時代がまるわかり「売れた本&話題の本」

激動の時代は特に、世の中の傾向と本の関係が浮き彫りになってくるもの。広い視野で見た今とこれからを、本の世界から考えてみたい。文芸評論家・斎藤美奈子さんがこの一年の本の世界を徹底解説します。
斎藤美奈子さん

斎藤美奈子さん

さいとう みなこ●’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。『名作うしろ読み』『文庫解説ワンダーランド』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』『忖度しません』『挑発する少女小説』など著書多数。

この一年を象徴する本はなんといっても『同志少女よ、敵を撃て』ですね。刊行当初から史実に基づいたエンタメと評判でしたが、その後ロシアとウクライナの戦争が勃発。“小説に書かれていたことが本当に起きている!”と読んだかたみんなが感じたと思います。戦争による難民がクローズアップされたことで、入管問題について書かれた本も再注目されました」と斎藤さん。

コロナ関連本もさまざまなかたちで出たが、3年目の今年は医療現場の声を生々しく伝えるノンフィクションが多数登場。「興味深いのは、それらのタイトルに戦争や戦記という言葉が入っている点。コロナ発生以来、いかに現場がギリギリの状態で大変だったかを表していますね」

一方ここ数年の生活を描いた小説やエッセーには作家ならではの鋭い観察力が。「両方から感じられるのは本音をいいにくい社会の雰囲気。これらもコロナ禍の貴重な記録になっていると思います」

1.戦争を描いた話題作を支えたのは“女性の視点”

現実の戦争とリンクしていると話題の本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』。作者の逢坂冬馬さんが参考文献としてあげているのが’15年のノーベル文学賞受賞作家による証言集『戦争は女の顔をしていない』で、これを漫画化した作品もロングセラーになっている。

「これらに共通するのは女性の視点で戦争を描いていること。“戦争中の女性の役割は銃後の守り”と考えがちですが、実際には銃を手に戦闘に参加した女性たちもいた。戦場での性暴力も告発されています。開高健ノンフィクション賞を受賞した平井美帆さんの『ソ連兵へ差し出された娘たち』には満州からの引き揚げ途中に起きた悲劇が書かれていますが、戦時には、生き延びるために、味方でさえも女性を犠牲にする。3冊あわせて読むと、今起きている戦争への考え方が変わってくると思います」

『同志少女よ、 敵を撃て』 逢坂冬馬 早川書房 ¥2,090

『同志少女よ、敵を撃て』

逢坂冬馬

早川書房 ¥2,090

『戦争は女の顔をしていない』 小梅けいと/作画  スヴェトラーナ・ アレクシエーヴィチ/原作 速水螺旋人/監修 KADOKAWA 1~3 巻 各¥1,100

『戦争は女の顔をしていない』

小梅けいと/作画 スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/原作 速水螺旋人/監修

KADOKAWA 1~3巻 各¥1,100

『ソ連兵へ差し出された娘たち』 平井美帆 集英社 ¥1,980

『ソ連兵へ差し出された娘たち』

平井美帆 集英社 ¥1,980

2.疑問だらけの“入管問題”再浮上で関連本に注目が

入国管理局問題の深刻さを明らかにしたのが、’21年3月にスリランカ人女性が入管施設収容中に死亡した事件。一方今年4月から日本でもウクライナ避難民の積極的な受け入れが始まったが、「いいことだけれど疑問の声も」と斎藤さん。

「“ウクライナ避難民に比べてアジアからの難民が受け入れられにくいのはなぜ?”との声が出てきた。中島京子さんの小説『やさしい猫』や平野雄吾さんの『ルポ入管』からは入管への強い危機意識が感じられます。こういうことは本などを通じてちゃんと知っておきたいですね」

入管問題

(右)『やさしい猫』

中島京子 中央公論新社 ¥2,090

(左)『ルポ 入管─ 絶望の外国人収容施設』

平野雄吾 ちくま新書 ¥1,034

3.現場の声を伝えたい!“コロナノンフィクション”が次々に

「コロナ禍で新たに起きたのが、ツイッターなどでたくさんの人が意見や体験を発信する現象。とはいえやはり現場を知る専門家が書いたものは切実で、同じ過ちを繰り返してはいけないという使命感を感じます」と斎藤さんは語る。

「一時期テレビに出ずっぱりだった岡田晴恵さんの本は、医療関係者と厚労省とのやりとりがリアル。突っ込んだ内容で緊張感が伝わってきます。早期診断を訴え続けた医師の倉持仁さんの本も、政府への批判が痛烈ですね。保健所の壮絶な記録を書いた関なおみさんは、公衆衛生の専門医。人手不足など役所の問題点の多さにがく然とします。ノンフィクション作家の山岡淳一郎さんは、コロナ1年目の報道を検証。初期のクラスターの真実に迫っていて驚かされます」

『倉持 仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない 医療で患者を救い続けた 闘う臨床医の記録』 倉持 仁 泉町書房 ¥1,980

『倉持 仁の「コロナ戦記」早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

倉持 仁 泉町書房 ¥1,980

『秘闘  私の「コロナ戦争」 全記録』 岡田晴恵  新潮社 ¥1,760

『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』

岡田晴恵 新潮社 ¥1,760

『保健所の「コロナ戦記」 TOKYO2020 - 2021』 関なおみ 光文社新書 ¥1,210

『保健所の「コロナ戦記」TOKYO2020 - 2021』

関なおみ 光文社新書 ¥1,210

『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』 山岡淳一郎  岩波書店 ¥1,980

『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』

山岡淳一郎 岩波書店 ¥1,980

4.作家のエッセーもコロナ禍の“貴重な記録”

「コロナ初期に作家が書いたエッセーには、本音をいいにくかった当時の雰囲気が表れている。職業や立場によってさまざまな困難があったことがわかる記録ですね」と斎藤さん。

「’20年の1年間のできごとをつづったのが綿矢りささんのエッセー。これからの恋愛小説とソーシャル・ディスタンスの関係など、作家ならではの悩みが率直に書かれています。山崎ナオコーラさんと白岩玄さんのリレーエッセーの主なテーマは子育て。子供を保育園に行かせられなかったふたりの大変さがよくわかるし、この世代の感覚や価値観も伝わってくる。次世代との人間関係を円滑にするためにも、読む意味があると思います」

コロナ禍エッセー

(右)『あのころなにしてた?』

綿矢りさ 新潮社 ¥1,430

(左)『ミルクとコロナ』

白岩 玄 山崎ナオコーラ 河出書房新社 ¥1,562

5.多彩でリアル!“地方の人間関係”を描いた秀作多し

地方にも都市化が進んでいるとはいえ、やはりその土地ならではの雰囲気や人間関係は残っているもの。コロナ禍はそれらをより濃密にしたのか、ここ数年の地方を舞台にした小説に読み応えのあるものが目立った。

「桜庭一樹さんの『少女を埋める』は自伝的小説ですが、桜庭さんが“故郷の因習に抗っていくぞ”と自分を鼓舞しているところが現代的。木村紅美さんの『あなたに安全な人』には、誰もがその地方での感染者第1号を恐れていた雰囲気が色濃く漂っています。絲山秋子さんの『まっとうな人生』は富山が舞台。コロナ前からコロナ禍にかけての地方のムードがよく表れているし、土地柄への興味もわいてきます。自分や夫の実家がある地方には、離れて暮らしていても行かざるをえないことがあるし、生活の場になることもある。そこで生じるさまざまな現実が、執筆意欲をかきたてるのかも」

『少女を埋める』 桜庭一樹 文藝春秋  ¥1,650

『少女を埋める』

桜庭一樹 文藝春秋 ¥1,650

『あなたに安全な人』 木村紅美 河出書房新社  ¥1,837

『あなたに安全な人』

木村紅美 河出書房新社 ¥1,837

『まっとうな人生』 絲山秋子 河出書房新社  ¥1,892

『まっとうな人生』

絲山秋子 河出書房新社 ¥1,892

第5回文芸エクラ大賞発表!

文芸評論家とライター、本の現場を一番よく知る書店員が選考に参加。"今年の本"にふさわしい作品は?アラフィーが今読むべき本26冊が決定!
文芸エクラ大賞とは?
 
私たちは人生のさまざまなことを本から学び、読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある世代。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、’18年にこの賞を創設。
 
選考基準は、’21年6月~’22年5月の1年間に刊行された文芸作品であり、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。エクラ書評班&書店員がイチ押しする作品の中から、エクラ書評班が厳選した絶対に読んでほしい「大賞」、ほかにも注目したいエクラ世代の必読書「特別賞」、さらに「斎藤美奈子賞」「書店員賞」など各賞を選定。きっと、あなたの明日のヒントになる本が見つかるはず!
▼4人の選者
文芸評論家 斎藤美奈子
本や新聞、雑誌など多くの媒体で活躍。文学や社会への切れ味鋭い批評が熱い支持を集めている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。
書評ライター 細貝さやか

eclat書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。
書評担当編集 K野

女性誌で書評欄&作家インタビュー担当歴20年以上。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。

「文芸エクラ大賞」大賞発表!

『ミシンと金魚』

永井みみ 集英社 ¥1,540
認知症を患い、「みっちゃん」たちから介護を受けながら暮らしているカケイ。ある日「みっちゃん」のひとりに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」とたずねられ、脳裏に蘇ってきた光景とは。愛と暴力が入り混じった老女のすさまじい人生をひとり語りで描いて大きな反響を呼んだ、すばる文学賞受賞作。
『ミシンと金魚』 永井みみ 集英社 ¥1,540

新人ながら筆力が圧倒的!そのリアルさは日ごろの観察力のたまもの

━━文芸評論家 斎藤美奈子

一見冷たいがちゃんと母親の面倒を見ている嫁を理解できるのはエクラ世代

━━書評ライター 細貝さやか

認知症ぎみの老女の過去がわかる過程がスリリング!最後には涙があふれました

━━書評ライター 山本圭子

作家・永井みみさんより、受賞コメントをいただきました!
撮影/中野義樹

作家・永井みみさんより、受賞コメントをいただきました!

じつのところ。私の傍らに座って、あれこれお話してくれていたカケイさんがいなくなって、しばらく経ちます。当初はとてもさみしかったのですが、本の感想をうかがうにつけ、(ああ、カケイさんは今この方とお話しているのだなあ)と、うれしくなる今日このごろです。この賞は、私ではなく、カケイさんに贈られたものだと、しみじみ思います。どなたか、カケイさんに遭遇したさい、このことをお伝えいただきますと、幸いです。

今年も盛り上がった選考会。 本音を語ったその内容は?

K野 夏の恒例企画・文芸エクラ大賞も5回目になりましたが、今年はカラーの違う力作がそろいましたね。


山本 私のおすすめは藤野千夜さんの『団地のふたり』。50歳で独身の幼なじみの女性ふたりが、お互いを理解しつつ適度な距離で友情を保っているのがうらやましくて。

斎藤 紆余曲折あった彼女たちが生家のある団地に戻ってみると、単身高齢化がすすんでいて取り壊しの話も。一見のほほんとした雰囲気ですが、そこでしか生きられない人たちの切実さをはらんでいますね。

細貝 不安や寂しさがあっても、自分なりに幸せな場所を探そうとしているふたりに心がなごみました。

山本 介護が他人事ではないエクラ世代に響くのは、永井みみさんの『ミシンと金魚』なのでは。

細貝 老女の壮絶な過去も認知症がすすんできた今も、さらけ出すように描かれている。介護ヘルパー経験のある著者だからできたのかも。


斎藤 老女の独白小説は今までにもあったけれど、これは語りの力がすごい。何もわかっていないように見えて実はそうじゃない老女を書けたのは観察力のたまものでしょう。

K野 最近女性主人公の歴史小説が増えてきましたが、柚木麻子さんの『らんたん』もそのひとつですね。


細貝 シスターフッドで結ばれた明治の女性教育者の話で、当時の有名人たちのつながりが興味深かった。彼女たちの努力があって今の私たちがあるとハッとさせられました。

山本 高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』は題名に騙されるかも。「ていねいな暮らし万歳!」みたいな話ではないので(笑)。


斎藤 主人公は29歳の男性で、料理上手でみんなが守りたくなる同僚女性を鬱陶しいと思いつつ、内緒で付き合っている。仕事観も食事に求めるものも違う人が集まるのが職場ですが、それを批評的に見ていて“あるある感”満載でしたね。


山本 角田光代さんの『タラント』は義足の祖父が戦争を振り返るシーンがよかった。親子で読んで感想を語り合いたい本です。

K野 書店員さんからの支持が多かったのが吉田修一さんの『ミス・サンシャイン』でした。

細貝 大学院生が恋する80代の女性が魅力的。邦画黄金期を強く生きぬいた女優という設定で、彼女が出た映画を見たいと思ったくらい。


斎藤 多分そのころからあったことだと思いますが、今年映画界のセクハラが相次いで告発されましたね。井上荒野さんの『生皮』に出てくるのは小説講座の講師の性暴力ですが、ここでは彼の「芸術は特別」という感覚を断罪している。女性はもちろん男性にも読んでほしい小説です。

山本 去年芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの『くるまの娘』は女子高生から見たこじれた家族の話。主人公だけでなく壊れぎみの両親の苦しさも理解できて胸が痛かった。もう一冊、去年亡くなられた山本文緒さんの『ばにらさま』もぜひ。短編集ですが意表を突く展開が見事です。

細貝 エッセーでは小池真理子さんの『月夜の森の梟(ふくろう)』がすばらしかった。夫を亡くした悲痛な気持ちが軽井沢の自然をからめて描かれていて、心にしみました。外国文学で楽しく読めたのが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。人類存亡を賭けてひとりでミッションに挑む宇宙飛行士の話ですが、次々に問題が発覚してもユーモアを忘れず乗り越える彼に元気をもらえる。一気読み必至です。


斎藤 今年の大賞ですが、「親を思い出さずにはいられない」と熱く語り合った『ミシンと金魚』でしょうか。


K野 満場一致で賛成ですね。振り返ってみると、女性作家の活躍が本当に目立った一年でした!

アラフィー世代が今読んでおきたい「受賞作」を発表

【特別賞】

願わくば自分も年老いたときに和楽京子のように魅力あふれる女性でありたい

━━ ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん

『ミス・サンシャイン』  吉田修一  文藝春秋 ¥1,760

『ミス・サンシャイン』

吉田修一
文藝春秋 ¥1,760
大学院生の一心は伝説の映画女優・和楽京子宅の荷物整理のアルバイトをするうちに、京子こと鈴さんの半生を聞くことに。映像の世界の変遷がわかると同時に鈴さんの優しさや消えない痛みも伝わってくる小説。

働き盛りの挫折、ジャーナリズムの功罪……、主人公と一緒に考えたくなった

━━書評ライター 山本圭子

『タラント』  角田光代 中央公論新社 ¥1,980

『タラント』

角田光代 中央公論新社 ¥1,980
正義感が裏目に出て心に傷を負ったみのり。不登校になった甥。戦争で片足を失った祖父。実家に届く不審な手紙を契機に、3人の人生が再び動きだす。タラント(使命)について考えさせられる長編小説。

昭和のままだけどまるでオアシス。そんな団地の危機も感じ取りたい

━━文芸評論家 斎藤美奈子

『団地のふたり』  藤野千夜 U-NEXT ¥1,760

『団地のふたり』

藤野千夜 U-NEXT ¥1,760
一時期は売れっ子だったイラストレーターの奈津子と人間関係のストレスを抱えている非常勤講師のノエチ。生家の団地に戻ってきたふたりの暑苦しくない友情とマイペースな日々をユーモラスに描く。

明治の有名人がきら星のごとく登場。「そんな人だったの?」と驚くような人も

━━書評ライター 細貝さやか

『らんたん』  柚木麻子  小学館 ¥1,980

『らんたん』

柚木麻子
小学館 ¥1,980
著者の母校・恵泉女学園の創立者と彼女を支えた教え子をモデルに、女子学校教育の黎明期に活躍した女性たちを描いた歴史小説。先駆者たちの志の高さや粘り強さ、先見の明に驚かされる。

波長が合わない同僚がリアル。ざわつく心を楽しみたいお仕事&恋愛小説

━━有隣堂アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん

『おいしいごはんが食べられますように』  高瀬隼子 講談社 ¥1,540

『おいしいごはんが食べられますように』

高瀬隼子 講談社 ¥1,540
二谷は仕事熱心な後輩女性・押尾が、仕事ができない芦川さんにいらついていると知る。ある日芦川さんが手作りマフィンを職場に持ってくると……。価値観の違いを浮き彫りにした異色の会社小説。

【エッセー賞】

つれあいが亡くなるとはこういうことなんだ……、と初めて実感した

――書評担当編集 K野

『月夜の森の梟(ふくろう)』  小池真理子  朝日新聞出版 ¥1,320

『月夜の森の梟(ふくろう)』

小池真理子
朝日新聞出版 ¥1,320
ともに直木賞作家でおしどり夫婦としても知られた小池さんと藤田宜永さん。藤田さんに病が見つかってからの日々や彼のいない今をつづったエッセーには、静かな筆致ながら抑えきれない悲しみが。

【外国文学賞】

宇宙に取り残された主人公と異星人とのコミュニケーションがユニーク!

――書評ライター 細貝さやか

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』  アンディ・ウィアー  小野田和子/訳 早川書房  上・下巻 各¥1,980

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

アンディ・ウィアー
小野田和子/訳 早川書房
上・下巻 各¥1,980
記憶喪失状態で目覚めたグレースは、自分がなぜ宇宙にひとりでいるかを思い出す。次々にトラブルに見舞われるもののなんとかクリアしつづける彼の前に異星人が現れるが……。映画化が予定されているエンタメ大作。

【短編賞】

結末に驚かされる話、人生の不可思議さを感じる話など、読み返したくなる短編ぞろい

――書評ライター 山本圭子

『ばにらさま』  山本文緒  文藝春秋 ¥1,540

『ばにらさま』

山本文緒
文藝春秋 ¥1,540
バニラアイスみたいに白くて冷たい恋人の本心。極端な倹約生活を送る主婦の過去。中学の同級生の遺族から意外な形見を託された女性のその後。さまざまな女性の人生模様を鮮やかに描いた短編集。

【期待の作家賞】

家族という「くるま」から降りられない女子高生。家族っていったい何⁉

――書評担当編集 K野

『くるまの娘』  宇佐見りん  河出書房新社 ¥1,650

『くるまの娘』

宇佐見りん
河出書房新社 ¥1,650
芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』の著者の新作。高校生のかんこ一家は久しぶりに車中泊をしつつ、祖母の葬儀へと向かう。そこで浮き彫りになる家族のままならない関係とは。家族の根源を見つめた意欲作。

【斎藤美奈子賞】

「落ち度はない」と主張する加害者にメスを入れ、性暴力の問題点を鋭く指摘

――文芸評論家 斎藤美奈子

『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』  井上荒野  朝日新聞出版 ¥1,980

『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』

井上荒野
朝日新聞出版 ¥1,980
咲歩には小説講座の講師・月島から肉体関係を迫られた過去が。7年後彼がマスコミで注目されると咲歩は……。加害者と被害者だけでなく周囲やSNSの反応も描いて性暴力の土壌を明らかにした小説。

【書店員賞】

【ブックファースト 阪急西宮ガーデンズ店 久保めぐみさん おすすめの3冊】
『もう別れてもいいですか』  垣谷美雨  中央公論新社 ¥1,760

『もう別れてもいいですか』

垣谷美雨
中央公論新社 ¥1,760
「還暦前の主婦が置かれた状況が重い、暗い、悲しい……。あきらめてしまうのではなく『自分らしく生きていくにはどうしたらいい?』と考えさせられた作品」
『夏の体温』  瀬尾まいこ  双葉社 ¥1,540

『夏の体温』

瀬尾まいこ
双葉社 ¥1,540
「短編集の表題作は長期入院中の主人公が検査入院してきた男の子と出会う話。子供たちが力強く成長する姿に感動!『魅惑の極悪人ファイル』もおすすめ」
『ホワイトカメリア』  MIYAMU  講談社 ¥1,650

『ホワイトカメリア』

MIYAMU
講談社 ¥1,650
「都会の男女の恋愛模様が題材。テンポのいい会話も男女の視点が交差する構成もおしゃれ。“こんな恋愛を一度でもしてみたかったな”という気持ちになった」
【紀伊國屋書店 梅田本店 小泉真規子さん おすすめの3冊】
『はじめての』  島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森 絵都  水鈴社 ¥1,760

『はじめての』

島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森 絵都
水鈴社 ¥1,760
「年齢を重ねると初めてのことが少なくなり、新鮮さを失いがちだが、直木賞作家たちによるアンソロジーには“はじめて”だからこその不安や驚き、感動が」
『ガラスの海を渡る舟』  寺地はるな  PHP 研究所 ¥1,760

『ガラスの海を渡る舟』

寺地はるな
PHP 研究所 ¥1,760
「大人になるにつれ向き合わなければならなくなる家族の問題。家族だから対立するが、家族だから助け合えることも。作中の言葉に救われる人も多いはず」
『星を掬う』  町田そのこ  中央公論新社 ¥1,760

『星を掬う』

町田そのこ
中央公論新社 ¥1,760
「母と娘は同性だからこそ相容れないことも多いもの。家族だから分かり合えなければいけないというのは時に重荷になるということを実感させられた」
【有隣堂 アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん おすすめの3冊】
『あの図書館の彼女たち』  ジャネット・スケスリン・チャールズ  髙山祥子/訳  東京創元社 ¥2,420

『あの図書館の彼女たち』

ジャネット・スケスリン・チャールズ
髙山祥子/訳
東京創元社 ¥2,420
「ナチス占領下のパリを生きた図書館員の話。以前つらいことがあったとき『私には本がある』と心が軽くなったことを思い出した。本を愛する人に特におすすめ」
『孤独を抱きしめて 下重暁子の言葉』  下重暁子  宝島社 ¥1,430

『孤独を抱きしめて 下重暁子の言葉』

下重暁子
宝島社 ¥1,430
「つながりが求められる時代につながらない自由を選択する大人でいたい。ひとりの時間にはそんな自分を理解してあげたい。孤独について考えさせられた本」
『一心同体だった』  山内マリコ  光文社 ¥1,980

『一心同体だった』

山内マリコ
光文社 ¥1,980
「あなたは自分の人生を振り返るとなつかしい? それとも振り返りたくない? この連作短編集を読むと繊細で濃密だった女友だちとの関係を思い出します」
【ジュンク堂書店 池袋本店 西山有紀さん おすすめの本3冊】
『たまごの旅人』  近藤史恵 実業之日本社   ¥1,760

『たまごの旅人』

近藤史恵 実業之日本社 
¥1,760
「コロナ禍で読みたくなるのが旅行もの。これはひよっこ添乗員とちょっとクセのあるお客さまたちの話で、旅の数だけ心に刺さるエピソードがあります」
『自由研究には向かない殺人』  ホリー・ジャクソン 服部京子/訳  創元推理文庫 ¥1,540

『自由研究には向かない殺人』

ホリー・ジャクソン 服部京子/訳
創元推理文庫 ¥1,540
「主人公が夏休みの課題に選んだのは自分が住む町で起きた殺人事件の調査。今どきの高校生らしくスマホやSNSを駆使して真実に迫っていく様がおもしろい」
『月曜日の抹茶カフェ』  青山美智子  宝島社 ¥1,500

『月曜日の抹茶カフェ』

青山美智子
宝島社 ¥1,500
「短編集でありながら、まるでリレーのように次のお話に人と人との縁がつながっていく。特別な人じゃなくどこでもいそうな人たちにほっこりさせられます」
【代官山 蔦屋書店 間室道子さん おすすめの3冊】
『ダーク・ヴァネッサ』  ケイト・エリザベス・ラッセル   中谷友紀子/訳 河出文庫   上・下巻 各¥990

『ダーク・ヴァネッサ』

ケイト・エリザベス・ラッセル 
中谷友紀子/訳 河出文庫 
上・下巻 各¥990
「15歳のヴァネッサと42歳の男性教師との禁断の関係は愛なのか?『何がフェアか』がカギを握る心理サスペンスで、Me Too文学が台頭する今読むべき本」
『ひとりでカラカサさしてゆく』  江國香織  新潮社 ¥1,760

『ひとりでカラカサさしてゆく』

江國香織
新潮社 ¥1,760
「大晦日の夜、老人3人がとんでもないことをしでかす。不思議な解放感に満ちて見える彼ら、そして親族たちのその後が交互に描かれる、江國さん得意の群像劇」
『奇跡』  林真理子  講談社 ¥1,760

『奇跡』

林真理子
講談社 ¥1,760
「梨園の妻と有名写真家の恋を描いた“取材に基づくフィクション”。スキャンダルのはずだが上品な静寂に包まれた物語に。これもまた林さんの挑戦なのかも」

一気読み必至の「絶品ミステリー」

加納朋子さん

加納朋子さん

かのう ともこ●’66年、福岡県生まれ。’92年「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。’95年『ガラスの麒麟』で日本推理作家協会賞を受賞。『月曜日の水玉模様』『七人の敵がいる』『二百十番館にようこそ』など著書多数。

“日常の謎解き”の名手、作家・加納朋子さんインタビュー「ミステリーという楽しみ」

今年デビュー30周年。同世代作家の話題の最新作

OLが毎週同じ曜日に起きるできごとから推理を働かせたり、小学生の女子がスカートをはきたがらなくなった理由を同級生の母親が見抜いたり。エクラ世代のミステリー作家・加納朋子さんは、そんな“日常の謎”をテーマに極上のエンタメを描き続け、今年でデビュー30周年。最新作『空をこえて七星(ななせ)のかなた』の登場人物は星にゆかりのある人々だが、彼らが巻き込まれる事件の解決策に意表を突かれるだけでなく、最後にある事実が判明して心底びっくり。同時にたくさんの人たちの温かい思いが伝わってくる連作小説だ。

「『銀河鉄道の夜』や『星の王子さま』など、昔から星にまつわるお話が大好きなんです。本作は一篇一篇がカラーの違う星で、最後にそれらが集まって星座になるイメージで書きましたが、ミステリー作家なのでもちろんたくらみもまじえたかった。物語と伏線を同時にまとめていくのが本当に大変でしたね(笑)」

「神のような名探偵ではなく、読者と同じ目線で考える人を書いていきたい」

等身大の人物の、鋭くも視野の広い目で日常の謎が解き明かされ、いつも温かい余韻が残る加納さんの小説。本作では“普通の人が抱くちょっとした負の感情”が事件のきっかけになる。それは、ひときわ輝く星とその周囲にある小さな星を想像したとき、思いついたのだという。

「みんなが憧れる万能な人、いわゆるスターは、見方を変えれば凡人に自分の小ささを思い知らせる存在。そういう人が身近にいたら大変だろうなと思ったんです。“なぜあの人にはできるのに自分にはできないの?”と考え込んだり、努力しきれない自分を責めたり。ひとりでモヤモヤを募らせる人を思い浮かべたとき、想像が膨らんでいきました」

壊れるかもしれない日常の貴重さを伝えたい

「本好きだった両親の影響で小さいころから趣味は読書でした」という加納さん。特に好きだったのがミステリーで、小学校の図書館にあったルパンやホームズのシリーズはすべて読破した。中学生になると、家の本棚にあったブラウン神父シリーズなどを読むように。

「それが本格ミステリーにハマるきっかけでしたね。ブラウン神父シリーズは何度も読み返しましたが、トリックを知っていてもすばらしさが色あせないんです。ほかにもアガサ・クリスティーなど、好きな作家がどんどん増えていきました」

作家を志したのはOL時代に“日常の謎”の創始者といわれる北村薫さんの小説を読んだのがきっかけ。主人公の年齢や考え方が自分に近いことに強い感銘を受けたのだという。

「ちょうどそのころ上司に“きみは特技がないというけれど好きなことは何もないの?”と聞かれて、答えられない自分にショックを受けたんです。もちろん読書は好きでしたが、先人が書いたものを享受していただけ。そう思ったとき、北村先生にお手紙を書くつもりで自分なりに小説を書いてみようと考えました。日常のできごとを書く際によく思い出すのは、まだOLもしていたころに起きた地下鉄サリン事件のことです。当時私は、事件が起きたのと同じ路線を利用していた。“もし通勤時間がずれていたら?”と考えたとき、運命の分かれ道という言葉が頭に浮かんだんです。日常はあっけなく壊れてしまうものかもしれない、だからこそ貴重なんだと強く感じましたね」

25歳のときに初めて書き上げた「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞。デビュー後は同世代の女性に寄り添った作品を書き続け、『ささら さや』『七人の敵がいる』などは映像化もされた。’10年には急性白血病という大病を患ったが、それを乗り越えた経験を『無菌病棟より愛をこめて』につづり、大きな反響を呼んだ。

「これからも元気に書いていきたいと思っていますが、この業界には次次に天才が出てくるし、不安になることも。でも将来の年金受給額を計算すると“まだまだがんばらなくちゃ!”という気持ちになるんです(笑)。今年の春に子供が就職で家を出て、ちょっと空の巣症候群みたいになっていますが、私にできることでほかのかたに喜んでいただけることはこの仕事しかない。そんな崖っぷちな気持ちが、書き続けている理由かもしれませんね」

【加納朋子さんの新刊】

『空をこえて 七星のかなた』  加納朋子 集英社 ¥1,760

『空をこえて 七星のかなた』

加納朋子 集英社 ¥1,760
南の島や田舎町の高校などを舞台に、星にゆかりのある人々と彼らが巻き込まれる事件を描いた7編を収録。読み終わったとき著者の発想に驚かされ、同時に感動も押し寄せてくる連作ミステリー。

加納朋子さんがセレクト!おすすめの本格ミステリー6冊

本格ミステリーを味わうなら、まずこれから!
『ブラウン神父の童心』 G・K・チェスタトン  中村保男/訳  創元推理文庫 ¥814

『ブラウン神父の童心』

G・K・チェスタトン
中村保男/訳
創元推理文庫 ¥814
とても頭が切れるとは思えない風貌のブラウン神父の推理が冴えるシリーズ第1集。トリックだけでなく、風刺とユーモアも秀逸!「本当におもしろいミステリーは再読に耐えるのです」。
『空飛ぶ馬』 北村 薫  創元推理文庫 ¥792

『空飛ぶ馬』

北村 薫
創元推理文庫 ¥792
女子大生と探偵役の噺家とのやりとりから日常の謎を浮かび上がらせた名作。「物騒な事件なんて何ひとつ起きなくても、こんなにおもしろいミステリーが書けるのかと衝撃を受けた作品です」
『我らが隣人の犯罪』 宮部みゆき  文春文庫 ¥660

『我らが隣人の犯罪』

宮部みゆき
文春文庫 ¥660
「宮部先生の小説を初めて読んだとき自分よりそれほど年上じゃない女性がこんなにすごい作品を書かれるなんてと痺れました。この中でも特に『サボテンの花』は理想のミステリー短編です」
『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫  創元推理文庫 ¥880

『亜愛一郎の狼狽』

泡坂妻夫
創元推理文庫 ¥880
端正な顔だちなのに立ち振る舞いは三枚目の青年カメラマンが並はずれた推理を発揮する!「『ブラウン神父』シリーズがお気に召したかたなら次は絶対『亜愛一郎』シリーズがおすすめです」。
『迷 まよう』 アミの会(仮)  実業之日本社文庫 ¥836

『迷 まよう』

アミの会(仮)
実業之日本社文庫 ¥836
実力派女性作家集団+豪華ゲストによるミステリー小説集。参加者は大沢在昌、乙一、近藤史恵など。「何を読んだらいいのか、作品も作者も多すぎて迷う、というかたにうってつけです」。
『惑 まどう』 アミの会(仮) ¥836  実業之日本社文庫

『惑 まどう』

アミの会(仮) ¥836
実業之日本社文庫
「このアンソロジーを読めばきっとお気に入りの作家、作品が見つかるはず。私も参加しています」。参加者はほかに大崎梢、今野敏、永嶋恵美、法月綸太郎、松尾由美、光原百合、矢崎存美。

最新ミステリー注目作10選

最近のミステリーは百花繚乱状態。社会派にサイコサスペンス、SNSを取り込んだものなど、どれを読んでも充実感に浸れること間違いなし!

ワーママ刑事が活躍!

『トリカゴ』 辻堂ゆめ 東京創元社 ¥1,980

『トリカゴ』

辻堂ゆめ 東京創元社 ¥1,980
蒲田署の刑事・里穂子は殺人未遂の疑いで若い女性を取り調べるうちに、彼女が無国籍者で同様の仲間たちとコミュニティを形成していると知る。やがて里穂子は過去の未解決誘拐事件とコミュニティとの関連を疑いはじめ……。無国籍者にたちはだかる壁も、1歳の子供の世話を夫に頼らざるをえない里穂子の苦悩も手にとるように伝わってくる、骨太なミステリー。

アカウントを乗っ取られ…

『俺ではない炎上』 浅倉秋成 双葉社 ¥1,815

『俺ではない炎上』

浅倉秋成 双葉社 ¥1,815
本屋大賞ノミネートで注目された作家の新作は、突然日本中を敵に回した男の逃亡劇。住宅メーカー部長の山縣は、自分になりすました人物のツイッターのアカウントが女子大生の殺害現場写真を投稿したことで、犯人だと誤認されてしまう。SNSで実名と顔写真をさらされ、大炎上した彼の運命は? 今すぐ誰にでも起こりえるSNS被害だけに、鳥肌が立つほど怖い!

ゴッホは殺された?

『リボルバー』 原田マハ 幻冬舎 ¥1,760

『リボルバー』

原田マハ 幻冬舎 ¥1,760
ゴッホが自殺に使ったとされるリボルバー(拳銃)がオークションにかけられた事実をもとに、かつてキュレーターとして活躍した著者がゴッホの死をめぐる謎を描く。そこには一時期共同制作をしていたゴーギャンが関係しているのか。もしかしたら銃を撃ったのは彼?著者の大胆な仮説に想像力を刺激されるアートミステリー。読むと美術館に行きたくなる!

一番怖いのは隣人!?

『闇祓(やみはら)』  辻村深月 KADOKAWA ¥1,870

『闇祓(やみはら)』

辻村深月 KADOKAWA ¥1,870
転校生の要に親切に接した高2の澪は、なぜか彼に不審な態度で迫られ、憧れの先輩・神原に助けを求めるが……。予期せぬトラブルが起きたとき「自分にも落ち度があったのでは?」と考えてしまいがちだが、本作ではその先に思いがけない展開が待っていて、あまりの恐ろしさに背すじが凍りそうに。マウンティングや嫉妬といったねじれた感情を描く著者の筆力も圧倒的!

崩壊寸前の家族

『朽ちゆく庭』  伊岡 瞬 集英社 ¥1,980

『朽ちゆく庭』

伊岡 瞬 集英社 ¥1,980
かつての高級住宅地に引っ越してきた山岸家は一見普通の家庭。しかし父の陽一は会社でトラブルを抱え、母の裕実子は勤務先の上司と関係があり、ひとり息子の真佐也は不登校。ある日真佐也は、なにかと噂のある近所の少女に声をかけるが、それが事件の引き金に。家族の秘密は果たして明らかになるのか。家族の崩壊は避けられないのか。終始緊張感が漂う心理サスペンス。

意外なラストに仰天!

『ペッパーズ・ゴースト』  伊坂幸太郎 朝日新聞出版 ¥1,870

『ペッパーズ・ゴースト』

伊坂幸太郎 朝日新聞出版 ¥1,870
ヒット連発の伊坂さんの魅力がつまった長編は、ファンにも初心者にもおすすめ。中学教師の檀には、くしゃみなどで他人の飛沫が体内に入るとその人の未来が少し見える能力が。ある日教え子から「父と連絡がとれない」と相談されたことから事件に巻き込まれるが……。根底にあるのは人間にとって普遍的なテーマだが、軽妙な会話と鮮やかな場面転換でぐいぐい読ませる。

謎の女の過去を追う!

『朱色の化身』  塩田武士 講談社 ¥1,925

『朱色の化身』

塩田武士 講談社 ¥1,925
ライターの大路はガンを患う父の依頼で辻珠緒という女性について調べはじめる。彼女と自分の親族に関係があったらしいと知った大路は、珠緒の周囲にいた人々に話を聞くうちに、彼女の人生に福井県の芦原温泉で起きた昭和の大火災が影響を及ぼしていることに気づく。調べれば調べるほど、違う顔が見えてくる珠緒。彼女の本当の姿にたどりつくラストは感涙必至!

標的は宝塚スター

『ダンシング玉入れ』  中山可穂 河出書房新社 ¥1,760

『ダンシング玉入れ』

中山可穂 河出書房新社 ¥1,760
タイトルの意味がわかったら宝塚通だが、知識がないかたでも大満足の殺し屋小説。孤高の殺し屋の新たなターゲットは男役のトップスター・三日月傑。任務のため、彼はヅカオタの協力員とともに三日月の私生活を探るが、知れば知るほど三日月は男前だった! クールな雰囲気で始まる物語だが、しだいにクスクス笑いが止まらなくなる。オタ精神への理解も深まる一冊。

スパイの得意技はチェロ

『ラブカは静かに弓を持つ』  安壇美緒 集英社 ¥1,760

『ラブカは静かに弓を持つ』

安壇美緒 集英社 ¥1,760
橘の勤務先は全日本音楽著作権連盟。演奏権侵害の証拠をつかむため、上司に命じられて音楽教室に潜入してチェロを習いはじめるが、彼はある事件の影響でチェロにまつわるトラウマを抱えていた。音楽教室の講師や仲間に橘の身分がばれる日はくるのか。チェロは孤独な橘をさいなむのか、それとも救うのか? 最後までハラハラドキドキが止まらない、新感覚のスパイ小説。

二転三転する猟奇的殺人

『チェスナットマン』  セーアン・スヴァイストロプ 高橋恭美子/訳  ハーパーコリンズ・ジャパン ¥1,430

『チェスナットマン』

セーアン・スヴァイストロプ 高橋恭美子/訳
ハーパーコリンズ・ジャパン ¥1,430
デンマークのコペンハーゲンで若い母親をねらった連続殺人事件が起きるが、現場にはなぜかチェスナットマン(栗で作った人形)が。しかもそこから検出された指紋は1年前に誘拐された女性政治家の娘のもの。刑事のトゥリーンと相棒のヘスは懸命に捜査するが…。事件の背景がわかるとやりきれなさで胸が締めつけられそうに。働く女性の姿もリアルな北欧ミステリー。
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