ロンジェビティ研究は単なるエイジングケアの域を越え、「老化を治す」時代へ!? 最先端テクノロジーがもたらす「不老長寿」の現在地を、美容ジャーナリストの齋藤薫さんが解き明かす。“医者ガチャ”の現実を正すAI診療の素晴らしい未来を、「アイリス」代表で医師の沖山 翔先生に伺った。
知能が挑む、長寿の新たなフロンティア「不老長寿とAI」
感染症の難しい診断をAIを用いて言い当てる
若返りの可能性に前のめりになる私たちが見落としがちなのは、全て健康ありき、命があって初めて成立する話であること。その時、AI医療の進化が人間の寿命を延ばすのは間違いないが、実際AI医療はいかなる可能性を持っているのか。
それを“理論上”ではなく、実際にAI医療機器を開発し、スタートアップの世界大会優勝など、輝かしい賞を受賞している上に、今も週末は医療現場に立つ沖山翔医師に伺った。
ドクターヘリ添乗医や離島医など救急医療に従事し、100施設以上で医療に当たった経験から、最初に手がけたのが「nodoca®」。咽喉の写真からAIを用い、感染症などを診断する内視鏡デバイスである。
「我々の機器は感染症の判定に咽頭画像とAIを用いるアプローチを採用しています。特にインフルエンザには鼻をぐりぐりするPCR検査や抗原検査しかなく、そのハードルが意外に高いこと、また感染症の診断に画像を使う点が世界的に新しく、それで評価をいただいたと思います。
そもそもインフルエンザなのか、ただの風邪かの判断は非常に難しい技術。医者は神様ではなく目で見ただけで全てがわかるものではなく、若い医者は6割、7割当てられるかどうか……。でも40年間修業して9割5分当てる先生もいるわけで、AIはそういうトップの医者のスキルを経験のない若手医師でも持てるよう、臨床経験のギャップを埋めるものだといえます」(沖山医師、以下同)
今はこの機器を導入する病院がどんどん増えると同時に、喉の写真のデータベースも劇的に増えているというが、しかしなぜ喉だったのか?
「4000年ずっと続いている診療方法で、CTやMRIができてもなお生き残っている診療方法は3つだけ。熱を測る、心臓の音を聞く、そして喉を見る。実は喉には、それほど医学情報が詰まっている。喉からわかる病気は数百種類あるとされ、採血のように喉だけでさまざまな病気がわかる未来が考えられます。口の中の粘膜を拡大すると血管が見え、動脈硬化の進行具合さえAIを使えばわかるのです。人間の入り口だけに体の状態がそっくり提示されるのです」
口の粘膜と皮膚は隣り合わせ、粘膜が健康な人は肌も健康、粘膜チェックで美肌につなげる方法もありうるとか。口の中から施術するオーラルリフト機器も効果を期待できるのでは? では沖山医師が次に展開するのは、どんなAI医療機器なのか?
“医者ガチャ”の現実を正すAI診療の素晴らしい未来
喉の画像や問診情報をAIが解析して判定を行う、AI搭載インフルエンザ検査機器「nodoca®」。喉を撮影するだけで痛みが少なく、数秒〜十数秒で結果が得られる
「“医者ガチャ”という言葉があるように、行った病院に対応できる専門医がいなかったら、両者にとって不幸なこと。結果も大きく変わってきます。
そういう不公平のない医療が1つの理想。医者とAIがタッグを組めば、地球上のどこでも24時間体制で最適な医療が受けられる。私たちもそうしたAIを医師に提供する準備を進めています。また、地球の反対側で新しい治療法が発見されたら、すぐにその情報を得られる生成AIのような技術も開発中です」
実は今、私たち自身がAIを使ってより精度の高い診察を受けられる可能性もどんどん広がっている。
「よく“3時間待ちの3分診察”とも言われる病院の実態も改善できる。たとえ3分の診療でも後からAIが解説し、病気について10しか知らなくても90をAIが教えてくれます。人間がどれだけ丁寧に見ても見落としがあり、AIは初期の癌の見極めも得意です。AIの癌検出率は世界的にどんどん上がっている。何といっても人間の医者が一生で見る患者数が5000人とすれば、AIは数十億人分のケースを見ているわけですから」
また、「ダヴィンチ」のようなAI医療ロボットの進化も目覚ましい。
「毎年進化を続ける中で、将来的には自動手術も可能でしょうし、今夏アメリカで全自動採血ロボットが承認されました。エコーで血管の位置を確認するため採血も人間が行うより失敗が少ない。採血するまでもなく全身スキャンで病気がわかる未来もありうる。脳の分野でも若いうちに認知症のリスクを特定し100%の予防も可能になるかもしれません」
かくしてAI医療で検査から手術までの精度も劇的に上がるが、何より診断が驚異的な正確さを持つことになる。だから人はなかなか死ななくなる時代へ。しかし医療がどんなに進化しても、沖山医師のように強い使命感を持った心ある医者を求める私たちの思いに変わりはない。
おきやま しょう●’85年生まれ。救命救急医、ドクターヘリ医、災害医療チームDMAT隊員を経て’17年に「アイリス」を創業、代表取締役に。AI医療機器開発と技術開発を行う。
取材・原文/齋藤 薫 ※エクラ2026年12月号掲載