不老長寿研究の「今」を知るためのキーワード「250年寿命」説とは?【齋藤薫 責任編集。「ロンジェビティ」研究の現在地】

ロンジェビティ研究は単なるエイジングケアの域を越え、「老化を治す」時代へ!? 最先端テクノロジーがもたらす「不老長寿」の現在地を、美容ジャーナリストの齋藤薫さんが解き明かす。日本における不老長寿研究の第一人者、生命科学博士の早野元詞先生が提唱する「250年寿命」説とは。

“人生100年時代”は、ただの通過点に?「250 年寿命」

衝撃のスピードで進む研究。若返りのヒト試験も次々に

抗老化を世界的トレンドにしたハーバード大学のデビッド・シンクレア教授のもとで、若返り研究をしてきた生命科学博士の早野元詞氏。日本における不老長寿研究の第一人者として、新たな研究に次々と取り組んでいる。

著書『エイジング革命』の副題は“250歳まで人が生きる日”! その科学的根拠を踏まえて「人類はどう生きるべきか?」を哲学的な視点からも分析。早野氏の提言は生き方まで変えるような説得力を備えている。奇想天外な250歳寿命も、読み終える頃には1つの現実に思えてくるほど。

「例えば、ニシオンデンザメは寿命500年、特殊な遺伝子を持つ生命種が今も発見されていて、DNAが切れてもすぐに修復するタンパク質を持つ北極クジラも非常に寿命が長い。じつは人間も使っていないだけで、同じ遺伝子を持っていて、エピゲノム(遺伝子の働きを調整するスイッチのようなもの)でそれを使えるようにすれば、将来300年以上もありうるわけです」(早野氏、以下同)

加えてこの分野、特筆すべきは研究スピードが衝撃的に速いこと。

「この本を書いてから2年経った今、神経も含めたさまざまな若返り研究ですでにヒトでの試験が始まっています。AI技術が想定以上に進んでいて、動物実験後すぐにヒト試験に入れる。例えばシンクレア教授は、山中因子(ノーベル生物学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が発見した4つの遺伝子)などを用いた1回5千万から1億円レベルの遺伝子操作で、非常にドラスティックな若返りを目ざしています。一方で我々は今、一般の人が手軽に入手できる若返りを追求していて、10年、20年若返る技術は、早くも市販されるようにまでなっています」

早野氏は森永製菓との共同研究で、ピセアタンノールという抗老化成分を研究している。別のラボでは、筋力や認知機能を改善させる成分を開発、Xプライズ(人を10年、20年若返らせる技術を競う世界的なコンペティション)でわずか20チームが残る決勝に進出した。

ちなみに早野氏は大学時代に「ウェルナー症候群」(思春期から老化する遺伝子疾患)を知ったことで、病としての老化治療の道へ。現在は、顔などの筋肉が衰えていく希少疾患FSHDの治療法の研究も進めているが、DNAの損傷によるエピゲノムの変動が、後天的に老化の速さやタイミングを制御する仕組みを明らかにしたのも早野氏だ。

皮膚を若返らせると内臓が若返る?

「実は一番若返りが難しいパーツと言われるのが神経と皮膚で、例えばオートファジーやミトコンドリアに働きかけても、そのレベルでは視神経などの神経までの若返りにはつながらない。だからもっと大元に働きかけて根本的な若返りを行うのが、最先端の研究と言えます」

つまり抗老化研究は明らかに次のフェーズに入っているということ。早野氏も研究の範囲を皮膚まで広げているというが、そもそもなぜ皮膚の若返りはそれほど難しいのか?

「皮膚は体中で一番大きな組織。面積が非常に広いうえに上皮細胞や真皮、毛根など非常に複雑です。また、とても敏感なだけに、エピゲノムのような直接的な若返りでは腫瘍化する可能性もあります。一方で、皮膚は全身の老化を見るのに非常に重要なパーツ。顔が老けている人の内臓が若いということはありません。それどころか、皮膚は炎症反応や外的ストレスをセンサーする場所なので、皮膚を若返らせると内臓も若返ることが動物実験でわかっています。最近ではAIの画像でシワやシミ、顔そのものを撮影し認知症を予測するといったAI医療も可能に。老化診断で皮膚を見るのは今や非常にホットなトピックなのです」

つまり内臓と肌は双方向に影響しあっていて、肌からの若返りも成立しそう。新たなスキンケアの重要性も見えてくるが、抗老化の複雑さを浮き彫りにし、特定の方法で全身若返ろうとしても難しいことの証。

「体の臓器は、全部老化のスピードが違う。だから自分のどの臓器が原因で老化するのかを知れば、より的確な対応ができる。実はもう血液1滴で全身の部位の年齢がわかる技術も生まれていて、例えば肝臓のミトコンドリアが悪いからそれを活性化して、みたいに自分の寿命を計画的にデザインできるようになります」

エイジングホールマークスという、12の老化原因の要素を示した指標に応じて若返りを丁寧に構築していく方法もあるが、いずれにせよこれまでのざっくりしたアンチエイジングとは次元が違う、原因も対策も全てが見える化された精密なリジュビネーションが始まっているのだ。

「年齢的にも、老化を止めるのではなく若さを取り戻すのだから、何歳で始めてもいい。そして将来的には人生が2周3周するイメージを持たないと。孤独だと寿命が短くなるとの研究結果もあり、どんなコミュニティでどう生きていくかを計画立てるのも抗老化のうちなんです」

生命科学者の科学の導きは、想像もしなかった未知なる世界を見せてくれる。早野氏の挑戦を知ることそれ自体が、心身の若返りにつながるよう。未来の水先案内人としてその研究から目を離さずにいたい。

生命科学博士 早野元詞先生
早野元詞先生
生命科学博士
早野元詞先生
生命科学博士

はやの もとし●’82年生まれ。東京理科大学准教授、慶應義塾大学特任准教授。老化やエピジェネティクスを専門とし、老化制御や若返り技術の研究、社会実装に挑む。

取材・原文/齋藤 薫 ※エクラ2026年12月号掲載

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