日本の伝統文化を発信すべく大企業を退職して会社を設立。アラフィー女性の新しい働き方

人生100年時代を迎え、定年が65歳、70歳と延長されつつある今、「起業」に注目が集まっている。大企業を退職して52歳で起業した長尾千登勢さんに、起業までに道のりについて話を聞いてみた。
TZEN 代表取締役 長尾千登勢さん

TZEN 代表取締役 長尾千登勢さん

ながお ちとせ●’69年生まれ、南アフリカ・ヨハネスブルク育ち。電通で約30年にわたり、大手企業や政府官公庁の海外コミュニケーションの企画、制作、PRなどに従事。’20年末に早期退職し、’21年に独立。

<起業までのヒストリー>

1991

大学卒業後、電通に入社。

クリエイティブ局で広告制作に携わる。

2015

iPR局(現PRソリューションズ局)新設に伴い、異動。

SNSやwebムービーなどを用いたPR業務を手がける

一方、海外でのイベントや海外クライアントも担当。

2020 12月末、電通を退職。
2021

1月、52歳のときに株式会社TZENを設立。

8月、『ATELIER MATCHA』をオープン。

会社組織にしたおかげでビジネスがスムーズに

約30年勤めた電通を退社し、今年1月、「TZEN」を設立した長尾千登勢さん。株式会社ではあるものの、社長のみの、いわゆる“ひとり会社”だ。

「あまり深く考えず、『独立=会社をつくるもの』というくらいの気持ちでしたが、会社組織にして正解でした。取引先や契約相手から信頼が得られやすいですし、金融公庫の融資もおりましたし。おかげさまで、やりたかった仕事が順調に進んでいます」


長尾さんがやりたかった仕事、それは、電通で培ったマーケティング力やITスキル、得意の語学を生かし、日本の伝統文化の普及をサポートし、海外に発信することだった。

「20代から茶道を始め、きものや器、生け花など伝統文化に触れる機会が多かったことに加え、電通でも40歳を過ぎたころから、大手企業や官公庁の海外案件を担当することが増えました。海外のイベントで茶道や工芸品、織物などを紹介すると、現地のかたから大きな反響があるんです。日本の伝統文化は、世界に誇れるすばらしいコンテンツだと、実感しました」

TZEN
「TZEN」のオフィスは住宅街のマンションの一室。ベランダを坪庭に見立てるなど、和の風情がそこかしこに。
オフィスの一角
オフィスの一角で、友人から贈られた招き猫がお出迎え。こうした工芸品が並んでいるのも、日本の伝統文化発信基地ならでは。

52歳での起業は、さまざまな要因が重なった結果

とはいえ、その魅力が海外で広く認知されているとは言い難く、国内でも先細りが目立つ。原因のひとつは、PR不足。語学やITスキルなどへの不安が、普及活動の障害になっているのではないか。そう感じた長尾さんは、自身のキャリアを、伝統文化の担い手のために役立てたいと思うように。

「電通の案件として扱わせていただいたケースもありました。ただ、中小企業や個人が多く、クライアント登録の条件を満たしていないとか、金額的にむずかしいということも少なくなくて。ボランティアで、個人的にお手伝いしてもいましたが、本業も忙しかったので、不完全燃焼ということもありました。どちらも100%やることがむずかしいなら、会社をやめて、伝統文化のサポートに専念しよう。そんな思いが、だんだんと強くなっていったんです」

長尾千登勢さん

会社人生約30年で培ったスキルや人脈が生きている

52歳での起業は、さまざまなタイミングが重なった結果でもあった。
「ひとつは、娘が大学生になり、だいぶ手が離れたこと。『これからは、自分のための時間が増える!』って(笑)。2つ目は、会社が40代以上の社員を対象に早期退職制度を打ち出したこと。しかも、電通の子会社と業務委託を結べば、今までやってきた仕事が続けられ、委託料が支払われるんです。ある程度の収入が確保できるという安心感も、独立の後押しになりました」

3つ目は、自分を見つめ直す時間ができたことだ。20代、30代の日々を、「高速道路を猛スピードで走っていて、途中にパーキングエリアや出口があるのすら気づかなかった」と、振り返る長尾さん。

40代でリーダー職に就き、まわりを見る余裕が生まれたことで、「素敵な場所があるから、ちょっと降りてみよう」と思えるようになったとか。ふと立ち止まり、歩んできた道を振り返ると同時に、行く手に思いを馳せる。それができるのが、アラフィーという年齢なのかもしれない。

12月末の退職後は怒涛の日々が続く。翌年1月には会社を設立し、8月には京都の老舗茶問屋、山政小山園とタッグを組んだ抹茶カフェ『ATELIER MATCHA』をオープン。京都の小さな工房がつくる電動茶ちゃせん)のプロデュースや、抹茶を用いたスイーツなどのオンライン販売も、着々と進んでいる。

「仕事で知り合った、山政小山園・取締役の小山さんとは、『いつか、一緒に抹茶カフェを』と話していましたが、こんなに早く実現するとは。我ながらビックリです(笑)」

オフィスにも、いろいろなタイプの茶器を用意。
オフィスにも、いろいろなタイプの茶器を用意。「来客があると、好きなお茶碗を選んでいただき、お茶を召し上がっていただいています」
オフィス内の和室
オフィス内の和室には“お点前(てまえ)のコーナー”があり、長尾さん自らお茶を点(た)てることも。「ときどきここで、カジュアルなお茶会を開いています。茶道は気軽に楽しめるものだということを広めたいですね」

やりたいことがあるならすぐにでも動いたほうがいい

カフェを経営する今も、社員はゼロ。スタッフや経理関連など、すべて業務委託というかたちをとっている。必要なときに、必要なスキルを提供してもらう。それが、長尾さんのスタイルだ。

「皆さんよいかたばかりで、つくづく私は縁に恵まれていると思います。カフェにしても、周囲の後押しや支えがあったからこそ実現できたこと。約30年の会社人生で築いたネットワークのおかげですね。そう思うと、この年だからこそ、起業できたのかもしれません」


その一方で、「50代の1年は、若いときの1年とは違います」とも。アラフィーは、自分の体調や親の介護など、いろいろな問題が生じやすい年代。来年どんな状況にあるかわからないのだから、早めに動くのが得策だ。

「思い立ったが吉日で、勢いは大切。私も『しばらく休んでから』と考えていたら、今も会社をつくっていなかったかも。機が熟すのを待ちすぎると、食べごろを失ってしまいます。『今だ!』と思ったらすぐに収穫できるよう、準備というカゴだけは用意しておくことをおすすめします」

カフェの人気メニュー
カフェの人気メニュー、「MATCHAコットンキャンディーミルクセーキ」。「多くの人に、茶道で用いる上級抹茶のおいしさを知っていただき、消費量減少に悩む業界を活性化できれば」
山政小山園・取締役の小山雅由さん

山政小山園・取締役の小山雅由さん(右)とは、2年前に仕事を通じて知り合い、「抹茶本来のおいしさと文化を楽しめるカフェをつくろう」と意気投合。

カフェでは、誰でもおいしい抹 茶が点てられる電動茶筅、「Charaku」 を使用

カフェでは、誰でもおいしい抹茶が点てられる電動茶筅、「Charaku」を使用。店頭のほか、「TZEN」オンラインショップでも販売予定。

●『ATELIER MATCHA』

東京都中央区日本橋人形町1の5の8

9:00〜18:00 無休

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