第5回「文芸エクラ大賞」大賞発表!アラフィーに今読んでほしい一冊とは?

今年で5回目を迎えた「文芸エクラ大賞」。雑誌エクラで書評を担当している文芸評論家とライター、さらには本の現場を一番よく知る書店員が選考に参加。“今年の本”にふさわしい作品は?
▼4人の選者
文芸評論家 斎藤美奈子
本や新聞、雑誌など多くの媒体で活躍。文学や社会への切れ味鋭い批評が熱い支持を集めている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。
書評ライター 細貝さやか

eclat書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。
書評担当編集 K野

女性誌で書評欄&作家インタビュー担当歴20年以上。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。

「文芸エクラ大賞」大賞発表!

『ミシンと金魚』

永井みみ 集英社 ¥1,540

認知症を患い、「みっちゃん」たちから介護を受けながら暮らしているカケイ。ある日「みっちゃん」のひとりに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」とたずねられ、脳裏に蘇ってきた光景とは。愛と暴力が入り混じった老女のすさまじい人生をひとり語りで描いて大きな反響を呼んだ、すばる文学賞受賞作。

ミシンと金魚

新人ながら筆力が圧倒的!そのリアルさは日ごろの観察力のたまもの

━━文芸評論家 斎藤美奈子

一見冷たいがちゃんと母親の面倒を見ている嫁を理解できるのはエクラ世代

━━書評ライター 細貝さやか

認知症ぎみの老女の過去がわかる過程がスリリング!最後には涙があふれました

━━書評ライター 山本圭子

永井みみさん
撮影/中野義樹

作家・永井みみさんより、受賞コメントをいただきました!

じつのところ。私の傍らに座って、あれこれお話してくれていたカケイさんがいなくなって、しばらく経ちます。当初はとてもさみしかったのですが、本の感想をうかがうにつけ、(ああ、カケイさんは今この方とお話しているのだなあ)と、うれしくなる今日このごろです。この賞は、私ではなく、カケイさんに贈られたものだと、しみじみ思います。どなたか、カケイさんに遭遇したさい、このことをお伝えいただきますと、幸いです。

文芸エクラ大賞とは?

私たちは人生のさまざまなことを本から学び、読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある世代。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、’18年にこの賞を創設。

選考基準は、’21年6月~’22年5月の1年間に刊行された文芸作品であり、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。エクラ書評班&書店員がイチ押しする作品の中から、エクラ書評班が厳選した絶対に読んでほしい「大賞」、ほかにも注目したいエクラ世代の必読書「特別賞」、さらに「斎藤美奈子賞」「書店員賞」など各賞を選定。きっと、あなたの明日のヒントになる本が見つかるはず!

今年も盛り上がった選考会。 本音を語ったその内容は?

K野 夏の恒例企画・文芸エクラ大賞も5回目になりましたが、今年はカラーの違う力作がそろいましたね。


山本 私のおすすめは藤野千夜さんの『団地のふたり』。50歳で独身の幼なじみの女性ふたりが、お互いを理解しつつ適度な距離で友情を保っているのがうらやましくて。

斎藤 紆余曲折あった彼女たちが生家のある団地に戻ってみると、単身高齢化がすすんでいて取り壊しの話も。一見のほほんとした雰囲気ですが、そこでしか生きられない人たちの切実さをはらんでいますね。

細貝 不安や寂しさがあっても、自分なりに幸せな場所を探そうとしているふたりに心がなごみました。

山本 介護が他人事ではないエクラ世代に響くのは、永井みみさんの『ミシンと金魚』なのでは。

細貝 老女の壮絶な過去も認知症がすすんできた今も、さらけ出すように描かれている。介護ヘルパー経験のある著者だからできたのかも。


斎藤 老女の独白小説は今までにもあったけれど、これは語りの力がすごい。何もわかっていないように見えて実はそうじゃない老女を書けたのは観察力のたまものでしょう。

K野 最近女性主人公の歴史小説が増えてきましたが、柚木麻子さんの『らんたん』もそのひとつですね。


細貝 シスターフッドで結ばれた明治の女性教育者の話で、当時の有名人たちのつながりが興味深かった。彼女たちの努力があって今の私たちがあるとハッとさせられました。

山本 高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』は題名に騙されるかも。「ていねいな暮らし万歳!」みたいな話ではないので(笑)。


斎藤 主人公は29歳の男性で、料理上手でみんなが守りたくなる同僚女性を鬱陶しいと思いつつ、内緒で付き合っている。仕事観も食事に求めるものも違う人が集まるのが職場ですが、それを批評的に見ていて“あるある感”満載でしたね。


山本 角田光代さんの『タラント』は義足の祖父が戦争を振り返るシーンがよかった。親子で読んで感想を語り合いたい本です。

K野 書店員さんからの支持が多かったのが吉田修一さんの『ミス・サンシャイン』でした。

細貝 大学院生が恋する80代の女性が魅力的。邦画黄金期を強く生きぬいた女優という設定で、彼女が出た映画を見たいと思ったくらい。


斎藤 多分そのころからあったことだと思いますが、今年映画界のセクハラが相次いで告発されましたね。井上荒野さんの『生皮』に出てくるのは小説講座の講師の性暴力ですが、ここでは彼の「芸術は特別」という感覚を断罪している。女性はもちろん男性にも読んでほしい小説です。

山本 去年芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの『くるまの娘』は女子高生から見たこじれた家族の話。主人公だけでなく壊れぎみの両親の苦しさも理解できて胸が痛かった。もう一冊、去年亡くなられた山本文緒さんの『ばにらさま』もぜひ。短編集ですが意表を突く展開が見事です。

細貝 エッセーでは小池真理子さんの『月夜の森の梟(ふくろう)』がすばらしかった。夫を亡くした悲痛な気持ちが軽井沢の自然をからめて描かれていて、心にしみました。外国文学で楽しく読めたのが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。人類存亡を賭けてひとりでミッションに挑む宇宙飛行士の話ですが、次々に問題が発覚してもユーモアを忘れず乗り越える彼に元気をもらえる。一気読み必至です。


斎藤 今年の大賞ですが、「親を思い出さずにはいられない」と熱く語り合った『ミシンと金魚』でしょうか。


K野 満場一致で賛成ですね。振り返ってみると、女性作家の活躍が本当に目立った一年でした!

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