社会派医療ドラマ「連続ドラマW MR-医薬情報担当者-」。原作は、医師であり作家の、数々の医療ミステリーで知られる久坂部羊の小説「MR」。”MR”とはメディカルレプレゼンタティブ、医薬情報担当者のことで、医師や薬剤師に医療用医薬品の情報を提供する製薬会社の営業マンだ。製薬業界と医療現場、命に向き合う良心の葛藤をリアルに描く見応えのあるこの作品で、MR・紀尾中正樹を演じ、自身も大学時代に遺伝子工学を学んだ向井理さんに話を聞いた。
覚悟を持ってやるしかない「MR」役
ーー医薬情報担当者・MRのリアル、医療を影で支える新たな医療ドラマ・ヒューマンドラマ、かつ硬派なサスペンスドラマの脚本を読まれて挑戦してみたいと思われた部分はどんなところにありましたか?
MRという題材をタイトルにしているので、相当攻めているなと思いました。ネガティブなものではないですし、仕事としてはとても重要なものですけれど、薬害などデリケートな部分もあり、このドラマが出来上がった時にどういう反応が出てくるのかなというのは色々怖い部分もありました。1話、2話に関してはサスペンスっぽい要素があり、映像で観てみてもその核心に近づいていく過程が丁寧かつスピーディーに描かれていて、観ていて爽快感もありました。
専門用語が多いので、薬品名に関してはドラマ用に作ったものなので被ることはないのですが、薬で治療されている方々が実在する以上変なことはできないですし、覚悟を持ってやるしかないなと感じました。もちろんフィクションなので色々なご指摘もあるかもしれませんが、こういうMRがいてもいいんじゃないかと思っていただけたらいいかな、と台本を読んでいて思いました。
キャラクターがしっかりとあって、そこをまず丁寧に表現しないと作品として成立しない。僕の思いは作品作りには必要ないので置いておいて、この役を演じ切る上で必要なものは何かを考えていつも役に臨んでいます。ベテランのMRなので立ち振る舞いやセリフの言い方などがキャラクターを物語と思い、表情だったりセリフの言い回しだったりはすごく気をつけた部分でもあります。
ーードラマでは企業の利益と命など、葛藤も描かれていました。
紀尾中には揺るぎない信念があって、そこに対する葛藤は僕自身はあまり感じでいなかったです。逆にもう、盲目的に患者ファーストという人なので、思い悩むことはなかったです。一企業の人間としてはもちろん、情報を明らかにすることが果たして善なのかというところの葛藤はあるのですが、僕の信念としては、演じる上でブレないことを大事にしていました。
僕は要潤くんが演じている鮫島が言っていることはすごく正しいと思っていて。鮫島はお金儲け第一に見えますけど、結局そのお金は研究開発費に回るわけですから。それもある意味では患者ファースト。企業として資本主義の中で生きていくうえで、どんどん新しい薬品を作っていかないと、売り上げが枯渇して社員も養えないうえに、命を落とす患者さんも出てくるわけですし。でも紀尾中はその世界線じゃない。僕はよりリアリティがあるのは鮫島の方だと思います。紀尾中の過去のトラウマが少しずづ見えてくると、彼の言っていることはわかるけど、そこまでは僕は共感できない感じで(笑)。大事にしていることが人によって違うことはよくあることなので、あまり深く追及しませんでした。むしろ4話の終わりから5話にかけて紀尾中は暴走していると思っているので。そこは冷静にこういうふうに表現するのが正しいだろうなと思いながら演じました。
鮫島とのシーンでは、時折バーのシーンが出てくるのですが、1日でバーの全シーンを撮ったので、大変なセリフ量でした。だからあのロケ先には1度しか行ってないんですよ。特にラストは要くんの方がセリフ量が多かったから大変だろうなと思いました。実際、紀尾中のセリフにもあるように、『おまえがいうことは正しい』というのがありましたけど、本当にわかるんですよ、その通り。どちらも言っていることは正しいから難しいなと思いますね。
作品はみんなで作るチームスポーツ
ーー大学時代に遺伝子工学を学ばれ、MRになられた友人も少なくないそうですが?
MRの仕事内容や、普段どういう生活をしているかというのはもともと知っていました。大学の同期も僕の研究室だけでも3、4人はMRですし、他の研究室やクラスで言ったら多分全体の半分以上がMRになったと思います。企業が大量に採用するんですよ、なぜかというと途中で辞めるくらい大変だから。実際、ほとんど辞めていますし。すごく大変な仕事というのは知ってはいましたが、あんなに細かく、エレベーターに乗ってはいけないとか、病院で隅を歩かなければいけないことまでは知りませんでした。
印象としてはドラマと違いはなくて、でも、僕が聞いている部分ではもっと大変な感じです。寝る時間もないし、企業によって違いがあるかとは思うのですが、僕の知人は毎月一回MRの試験があって、それに落ちると外回りから外される。結構厳しいですよね。当時は接待が可能だったので、土日も院長や先生と飲み会のセッティング。寝る時間も勉強する時間もないから大変(笑)
僕は新人時代のMRは知っていますが、紀尾中のようなベテランのMRは知らない。でも、リアルに知っている必要はなく、台本から受けた印象で演じていけばいいと思っています。そうじゃないと会った事のない魔法使いとかできないですよ(笑)。台本通り演じるのが僕たちの仕事なので。もちろんリアリティのある知識があれば、知っていてやらないのと知らないでやらないのでは違いますよね。例えば、時代劇では馬から必ず左側から降りるんです。刀があるから。でも、緊急事態だったらそうじゃない場合もある。それを、わかっているけどこういう状況だからこっちから降りようよということはあります。リアリティだけ追求すると作品にならない。鮫島のような悪役がいるから、紀尾中のようなスーパーヒーローがいる。患者ファーストというけど、本来は皆患者ファーストのはずですし。
ーー自分の信念を貫くか、企業の利益を追求するかさまざまな選択を強いられる場で、向井さんだったらどのように心の舵を切られますか?
優先順位が何かですよね。紀尾中の場合周りが見えないくらい患者ファースト。僕は、作品を観てくださる方が優先です。舞台でしたらその日に観にきてくださった方々が優先。観客に納得してもらうためにはそれだけの責任感も生まれます。来てくださった方に来て良かったと思っていただきたい。満席の観客席を見ると嬉しいと同時に完璧にやらないとと毎回思います。観に来てくださった方々に失礼にならないように、誰よりも準備も練習もします。同じように思っている役者やスタッフと巡り会えて一緒に仕事ができる現場で本当によかったです。やはり優先すべきは責任感ですね、それがなくなってしまうとかまけてしまう気がして。そうならないようにいつも気をつけていて、優先順位はそこにあると思います。でも、作品を作る上ではもっと柔軟でいたいなとも思っています。自分が思っていることが全体を通して正解かはわからない、出来上がってみないとわからないので。お互いの意見を出し合って、できたもので乗り切っていけばいいのかなと。作品は、短距離走ではなく、みんなで作っていくチームスポーツなので。
ーー撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
笑う場面がないんですよ、こういう硬い作品だからこそ、第三営業所の中では割とふざけていましたね。それで現場が和むこともたくさんありました。第三営業所は他と違って唯一戦わない、ピリつかなくていい場所なんです。逆に緩ませることで、次に緊張感を持たせるセリフがある場合、逆にグッと引き締まる瞬間があったりするんです。ずっとピリピリしているともう息が詰まるだけで。一回弛緩させると次の緊張に向かう助走になるというか。ただ単にふざけていると思う人が圧倒的に多いかと思いますけど、僕の中ではちょっと緊張感を出すためにふざけている。それでNGを出したらカッコ悪いじゃないですか。長台詞のまえにふざけたことで自分で自分のハードルを上げる(笑)。そして、やはり第三営業所以外では軽口は叩けなかったですね、題材が題材なだけに。第三営業所は変なキャラの人たちの集まりで癒しでした。ご本人たちは真面目なんですけど、セリフが面白かったり。そこをちょっといじったりして面白かったです。
台本がチームプレーで映像に。すごく幸せな仕事
ーー久しぶりにタッグを組んだ金井紘監督、現場ではスタッフ、キャスト一同が向井さんの演技に圧倒されていたそうですが、逆にこのドラマ制作チームのどんなところが特に印象的でしたか?
僕が皆さんを圧倒したことは多分なかったと思うんですが、金井監督とはすごく久しぶりにお会いして、演出面が素晴らしいし、すごくお芝居を細かく観る方なので信頼できる演出家だなと改めて思いました。あとは、撮影照明チームですね。すごくクリエイティブなんです。本当に照明一つで世界観て創れたり壊れたりするものなので。僕はまだ1話しか観ていないのですが、現場で観ていてもライティングが素敵だなと思いました。WOWOWのドラマならではなのかなと思います。照明チームとも本当に10数年ぶりに一緒に仕事して、台本はただの紙の印刷物ですが、そこから現場で色々なものが立ち上がっていく姿を見て、すごく幸せな仕事をしているなと思いましたね。
ーーデビューして20年、さまざまな作品と出会ってこられたと思いますが、この作品は俳優としてどんな作品になりましたか?
やはりこの作品はWOWOWにしかできないドラマだと思いますし、命に関わるものでもありデリケートなテーマなので、お話をいただいた時に、本当にMRのドラマができるのか? MRが周りにいたからこそ、大丈夫? と思った印象があり、すごい勇気だなとも思いました。そこに呼んでいただけてすごくありがたいと思いました。一緒にやっていく覚悟がないとできないと思うんですよ。これはいちドラマとして放送、配信された時にどういう反応が来るのかなという、撮り終わった今だからそのプレッシャーがあります。正直、どういう評価をくださるのか、本職の方が観ても、ドラマとして結構踏み込んでいるなと思いますし。ある意味劇薬な作品に呼んでもらえた事がとても幸運だったなと思った作品です。
ーーこの作品から視聴者に感じて欲しいことは?
MRという聞き馴染みのない職業を知る入り口になってくれればいいなと思っています。僕は個人的にこういうMRの仕事のおかげで日本の医療がとても進んでいると思っていますし、MRは病院の先生方の負担を減らすために大切な仕事です。裏でしっかり支えてくれる人がいるから日本の医療はさまざまな人を救える状況にあると思うので。地上波ではなかなかできない題材だからこそ、知っている人が少ない。少しでも認知度が上がればいいかなと思っています。
ネクタイの締め方ひとつで表現が変わる
ーーこの作品があまりにも面白くて、すぐに常務取締役の栗林哲子を演じた渡辺真起子さんに感想を伝えたんです。衣装もとても良かったと感想を伝えたら、こだわった部分なので嬉しいと喜んでいました。紀尾中は、向井さん以外考えられないほどハマり役でしたが、役作りで衣装などこだわった部分はありますか?
衣装は基本的に衣装部にお任せするんですが、自分の私物を入れることもあります。衣装は自分で選びなさいと先輩に言われたことがあって、そんなことができるのかと思ったことがあったんですが、ある程度経験を重ねてくるとできるようになって。それぐらい衣装って大事なものなんですよね。人間って一番情報を得るのは視覚からじゃないですか。自分の役職っていちいち言わなくても着ている服である程度説明してくれるのが衣装とメイクだと思います。なのでそこは本当に大事にしています。ネクタイの結び方も、衣装部には言われませんが、紀尾中はこういうふうに結ぶだろうなとか、毎回自分の中で決め事として作っていて。年齢的にネクタイを締める役柄が増えてきていますが、締め方ひとつでキャラクターの表現が変わってくると思うんです。
ーー医療もののドラマを観ると、日々の健康に感謝しかないといつも思います。何か健康維持のためになさっているルーティーンはありますか?
運動は正直していないんです。一年に一度舞台をやっていて、今年は二度だったのですが、最近までやっていた舞台は本当にアスリートのように、ひと公演で1キロ痩せるほど動き回っていて、その上腹式呼吸になるので、体の内側から燃える感じです。インナーマッスルを使って発声するので。劇場や稽古場に早めに行って毎日ストレッチをすることが健康維持のためにいい気がしています。どれだけ食べても太らないのですごくいいなと。ラッキーだなと思ったのが、仕事してお金をもらって健康維持もしている(笑)。普通はお金払ってジムに行くじゃないですか。
後輩役正門良規さん(Aぇ! group)も共感の理想の新薬とは?
ーーあったらいいなと思う新薬はありますか?
第三営業所の新人MR役の正門良規君とも話していたんですが、記憶力が良くなる薬があったらいいなと。どんなにセリフが多くても困らない。セリフを覚えるのって苦痛です。慣れないです、こればっかりは。すごく大変だなと毎回思いますね。
薬といえば、昔だったら不治の病と言われる病気も治るものが増えてきているじゃないですか、なのである程度の薬はすでにあるんだなと感じています。僕たちは大学の頃色々な実験を通して、薬が認可されることの難しさ、実験のデータに信憑性がないものもあることを知っているのであまり薬を信じない、疑いの目もあります。自然界に存在しないものを作っているのは事実なので、それがどこまでいいのかはわからないですよね。副作用や、どれだけ体内に蓄積されるものかもわからないし。なので、逆に口にするもの、食べ物には気をつけています。
ーー主人公の紀尾中は仕事熱心でストレスフルな毎日を過ごしていますが、向井さんはその日の仕事の疲れをどのよう癒しますか?
晩酌です。それはもう毎日のご褒美です。それから美味しいもの。高いからいいものじゃなく、安くても美味しいものもありますし、自分で手間をかけて作ったものが美味しい時もあるし、どんな形でも美味しいものが食べたいなと思います。ひとつ大きな仕事が終わったら、何か美味しいものを食べるようにしています。
ーー晩酌は何派ですか?
焼酎が多いですけど、だいたいとりあえずビールの世代なんで、とりあえずビールを飲んで、ワインを飲んで焼酎です。
ドラマ情報
連続ドラマW MR -医薬情報担当者-
準大手製薬会社「天保薬品」の東京支店第三営業所所長であり、MR(医薬情報担当者)である紀尾中正樹(向井理)は、自社の画期的な二型糖尿病の新薬「パンセル」が診療ガイドラインの第一選択(A判定)に決定されることを目標に奔走していた。A判定となれば、年間売り上げが1,000億円を超えるブロックバスター商品となることが確約されるからだ。しかし、外資のライバル社「タウロス」のMR・鮫島淳(要潤)からの妨害工作により一転、また、天保薬品のがん治療薬「ノベルマ」が副作用で死者を出していることがわかり薬害訴訟の危機を迎え窮地に追い込まれる。薬は誰のためにどうあるべきなのか。患者を治す尊い使命を持ちながらも、利益をめぐって揺れるMRやその関係者たちの戦いが始まる!WOWOWにて10月4日(日)午後10時より放送・配信スタート(全5話/第1話無料放送・配信)
むかいおさむ⚫️’82年、神奈川県生まれ。最近の出演作に、ドラマではMBS『マトリと狂犬』、フジテレビ『ヤンドク!』、映画では『エンジェルフライト THE MOVIE』、『パリピ孔明 THE MOVIE』などがある。また、2026年10月からは、M&Oplaysプロデュースの舞台『ブランク』への出演も控える。
https://osamu-mukai.com/
photography:Emiko Tennichi hair&make up:Yasushi Miyata(THYMON Inc.)
stylist:Yukari Sotoyama
interview&text:Mari Katsura
outfit:jacket&pant,OVERCOAT(info@overcoatnyc.com) shirt,HEUGEN(IDEAS)