【更年期、私の乗り越えストーリー】武内陶子さん「更年期の壁を乗り越えた人は強く、優しくなれる」

更年期と直面する50代。アラフィー女性は体とどう向き合っている? 今回はフリーアナウンサー・武内陶子さんにインタビュー。武内さんの更年期ののりきり方を教えてもらった。

閉経は、選択続きの人生からの解放!更年期の「壁」を乗り越えた人は強く、優しくなれる
――フリーアナウンサー武内陶子さん

フリーアナウンサー・  武内陶子さん

多汗、不安、イライラ爆発。こんな自分じゃなかったのに

「あー、更年期症状、出はじめちゃいましたか! そうかそうかー。でもね、終わりますから。時がくれば必ず終わって、光が見えてくるんですよ」

テレビで見ていたのと同じ、曇りのない表情と力強い声だった。アナウンサーとしてNHKの朝の顔を長く務めた武内陶子さん。58歳、少し先をさっそうと歩く人の言葉は、やはり自身の体験に裏打ちされていた。

「私の母親が無症状だといっていたので、50代に入っていざ自分の体に変化が出たときは、本当に驚きました。それまでちっともかかなかった汗を急に、しかも首から上だけかきはじめて、ほてってのどがカラカラに。生放送中、『あ、くる』と予感がしても、どうしたら止められるのかがわからない。緊張も手伝って、ついには、カメラの前で言葉が出なくなりそうになりました」

専門外来を受診し血液検査をすると、女性ホルモン値はやはり激減。漢方薬やプラセンタ注射など、思いつくかぎりの手段を試したものの、その後も顔の皮膚の腫れ、指の関節が変形するヘバーデン結節などの不調が続いた。

「そのころ、家でも、子供たちに『ママ、怖い』といわれるようになっていたんです。家事も仕事もがんばってニコニコしているつもりでいたのに、それは完全な自己満で、実際にはちょっとした拍子に『なんでそんなことするの!』『もうママは出ていきます!』とイライラをぶつけていたことがわかって。自分はすごくハッピーな人間で悩みがないのが悩みだと思っていたのに、更年期になって、そうじゃない私が次から次へと……。恐怖、でしたね」

更年期女性の挫折は社会にとっても大損失

番組で、更年期について話してみない?――局からオファーを受けたのは、そんなときだった。

「センシティブな話題ですし、『更年期です』と看板を提げて表に出るのは、やはり勇気のいることで……。でも、私が経験していることが誰かのためになるのだったら、そして、この不調の対処法を一緒に探れるんだったら、と」

コロナ禍中、100人を超える同世代とオンラインで対話を重ね、’22年に特集番組『#みんなの更年期』を放送。人によって異なる更年期のありようを、武内さんはまざまざと知った。

「毎日、起きた瞬間からジェットコースターに乗っているみたいにめまいが続く。起きられず、夫や子供から非難される……皆さん、すごく悩んでましたね。職場でいえない、つらさをわかってもらえないという声も多かった。調査によると、更年期でも4割くらいの人は無症状なので、女性同士でもわかり合えない場合もあり、ひとりきりで悩んで仕事をやめてしまう人も少なくないんだと。ますます人として成熟する時期なのに、それって、社会にとっても大きな損失じゃないですか」

あなたのせいじゃない、決して自分を責めないで――。番組を通しての訴えは、女性たちからだけでなく、男性からも大きな反響を呼んだ。

「『母の不調に気づけなかった』『妻をわかってやれなかった』と、本当にたくさんの人から……。決して『更年期なんだからー!』と振りかざしたかったわけではないんですよ。でも、しんどそうな人を見かけたら『大丈夫?』と声をかけるように、女性も男性も歩み寄り、もっともっとお互いを思いやれる社会になれたら、いいですよね」

不調は、あなたのせいじゃなくて女性ホルモン減少のせい。だから、絶対に自分を責めないで!

フリーアナウンサー・  武内陶子さん

もがいて手に入れた自信は必ず自分の糧(かて)になる

模索を重ねて症状や感情との付き合い方を会得するにつれ、不調は徐々に「『今は出てこないでくれる?』と抑えられるようになってきた」と武内さん。取材中に知ったある言葉が、今も胸に残る。

「BBC(英国の公共放送)が更年期の番組をやったときの合言葉が『Fi nally, Be Me(ついに私になる)』だったんですが、まさにそのとおりだなぁと。閉経イコール女性としては終わりだと長く思ってきたけれど、いざその立場になってみると、解放でしかなかったですね。性別にとらわれず人として生きられる、いよいよ唯一無二の私になれるんだと思うと、すごく楽になって」

結婚、出産、子育てと仕事、家庭と自分。悩んで選択しては壁に突き当たってきた女性の人生。しかし、そのつらさを経験してきた女性だからこそできることがあると、武内さんはいう。「壁を乗り越えるために起こしたアクションは、いつか自分の中で自信になる。さらに、それを誰かに伝えて共感してもらうことで、多くの人の発見にもつながっていくんです。だから、今、目の前に壁を感じていても、『これを乗り越えたら、きっとスッキリするだろうな』という思考回路を、ぜひ手に入れてほしい! 今はしんどくても、それは、これから先を生きていくうえでの最強のツールになるし、痛みを知る人は、そのぶん優しくなれるはずだから……。誰もが皆、フラットに働き、学び、暮らせるようになれば、今とは違う世の中がやってくる。更年期を乗り越えた女性が、いち早くそこにたどりつけるんだと、そのことを喜んでもらいたいなと思っています」

「性別を超えて、これからは人としてさらに自由に――私たちはついに私たち自身になれるんです」

フリーアナウンサー・  武内陶子さん

フリーアナウンサー・ 武内陶子さん

たけうち とうこ●’65年、愛媛県大洲市出身。神戸女学院大学卒業後、’91年にNHK入局。ニュースからバラエティまで幅広い分野の番組を担当し、’23年9月に早期退局。現在はフリーとして活動し、愛媛・伊予観光大使も務める。6/6は東京・練馬、8/30は横須賀で音楽イベントの司会を担当。夫と3人の娘たちとの暮らしや出演情報をX(@To
kotakeuchi)、Instagram(@toko_takeuchi)で発信中。
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