【三ツ星よりもっと先へ。そのパワーとセンスの源】小林圭シェフ「進化し続ける KEIの世界」〈後編〉

パリの三ツ星『Restaurant KEI』の小林圭シェフが監修する2軒の店が’24年4月、東京・銀座で幕を開けた。レストラン『ESPRIT C. KEI GINZA』とバー『ST LOUIS BAR by KEI』。日本では御殿場、六本木、虎ノ門に続く「KEI」ブランドの新たな拠点だ。小林の料理への思いを聞いた。

ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)

ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)
木、石と自然の建材を贅沢に用いたしつらえ。「美食に向き合う空間」として、エントランスからのアプローチ、厨房との距離や天井高などが緻密に計算されている。
ローズゴールドカラーの配管構造
「LAB KEI」と名づけられた個室。ローズゴールドカラーの配管構造が見えるインテリアは、フェラーリのエンジンルームをイメージして作られた。
オーデマ ピゲのウォールクロック
希少なオーデマ ピゲのウォールクロックもアクセントに。
空間づくり
空間づくりや、選びそろえるものひとつひとつにもクラフトマンシップへの敬意が貫かれている。

ST LOUIS BAR by KEI(サンルイ・バー・バイ・ケイ)

ST LOUIS BAR by KEI(サンルイ・バー・バイ・ケイ)
テラスの作庭
『Saint-Louis』のクリスタルと日本建築の美が見事に融合した空間。インテリアデザインは乃村工藝社A.N.D.の小坂竜が、テラスの作庭はプラントハンター・西畠清順が手がけた。
『Saint-Louis』のオリジナルカクテル「ペニシリン」
『Saint-Louis』のオリジナルカクテル「ペニシリン」。
シグニチャーカクテル「プロミネンス」
シグニチャーカクテル「プロミネンス」¥2,600。エル・ディアブロ、カシスオレンジ、テキーラ・サンライズが層に。

ライバルは自分。昨日の自分を超えて

――偉業を達成する人ほど、毎日を大切にされている。日々、心がけていることはどんなことですか。

すごくシンプルです。ほかにライバルをつくらず、常に自分自身をライバルと考えること。毎日、少しずつ昨日の自分を超えていく。知識、技術、経験すべて。

――日常のルーティンはありますか。

帰宅後に、必ず筋トレをします。腹筋と背筋、あと腕立て伏せも。立ち仕事ですから、体のコンディションを保つことは重要です。その後、お風呂に入って湯ぶねにもつかります。食生活は毎日ほぼ同じ。朝はフルーツとヨーグルト。少しパンを食べる日もあります。昼はスムージー。仕事中は味見がありますが、きちんとした食事は一日一回。夜のサービスの前に賄いを食べます。

――どんなものを召し上がりますか。

ひと皿で完結するものが中心ですが、内容は厳しく見ます。私が中途半端なものを食べたくないですし、賄いはレストランの礎(いしずえ)ですから。食材を注文する。メニューを開発する。何人分必要で、ひとりで作るのか、誰かと一緒に作るのか。二十数食を一気に仕上げるにはどうするか。あらゆることを考慮し、チームの健康とおいしさを考えたうえで「お金をいただけるものを作れ」と。スタッフには「自分は料理人やパティシエを育てる気はない。シェフになる人間を育てたい」と話しています。賄いでも任されたら真剣に、どこまでできるか勝負できなくては、と。
 

「やりたいのは“F1”です。瞬間に、息を合わせて、一気にやる」

――フランスと日本で厨房の雰囲気の違いはありますか。マネジメント術は?


違いはあまりないですね。フランス、日本にかかわらず大事にしていることは、自分のやりたいこと、方向性を明確に打ち出し、そして、チームの透明性を出すことです。もうひとつ、パリの厨房は、フランス人、日本人、アジア・アフリカ人まで多国籍なので「言葉の能力=仕事の能力ではない」と言い聞かせています。厨房ではフランス語を使いますが、外国人が指示を即、理解できなくても、能力自体が低いわけではない。カバーする方法を考え、チームでいいパフォーマンスをしようと。

――ひとりのタレントよりも、強固なチームワークを、と。

やりたいのは“F1”です。レース中、タイヤを交換するとき、1台に10人前後のスタッフがつきますよね。ひとりでも遅れたら事故になる。瞬間に、息を合わせ、一気にやるからタイムが出る。料理も同じです。いかに私のペースに合わせられるか、全員で考えてもらっている。スタッフにとってはタフな環境だと思います。
 

「一流、完璧、天才という言葉が嫌いです」

――リスペクトする対象は? どんな人、仕事から刺激を受けますか。

アーティストです。ファッションなら川久保玲さん、建築なら安藤忠雄さんや妹島(せじま)和世さん。ご自身の世界観を築き、日本の内外で活躍されている。すべての創造は素材からですよね。洋服なら繊維、建物なら建材。それらから、誰もがひと目で彼らの仕事とわかる表現、世界をつくり上げている。料理で、それをやりたい。

――座右の銘は。

嫌いな言葉ならあります。一流、完璧、天才。一流じゃないから一生懸命やっている。完璧などはるか遠く、天才じゃないから毎日作り続けられるんです。

小林圭シェフのこれまで

1998年 渡仏

2003 『アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ』に職を得て7年間働く。このうち5年間はスーシェフも
2011 オーナーシェフとしてパリに『Restaurant KEI』を開く
2020 フランス版ミシュランガイド三ツ星獲得
2021 日本で1店舗目となる御殿場『Maison KEI』をオープン
2024年1月 六本木「ザ・リッツ・カールトン 東京」内に『Héritage by Kei Kobayashi』をオープン
2024年3月 虎ノ門「TOKYO NODE」内に『KEI Collection PARIS』をオープン

小林圭

小林圭

長野県諏訪市出身。長野、東京、フランスで料理人としての研鑽を積む。ブランド構築のため来日を繰り返す今もパリ『Restaurant KEI』の厨房に常に立ち続ける徹底した現場主義

ESPRIT C. KEI GINZA
エスプリ・セー・ケイ・ギンザ

ESPRIT C. KEI GINZA エスプリ・セー・ケイ・ギンザ

東京都中央区銀座7の8の17

虎屋銀座ビル11F

☎03・6274・6611(予約受付13:00~21:00、日・月曜除く)

17:30~23:00(20:30LO)

定休日:日・月曜

https://www.maisonkei.jp/esprit_c/

ST LOUIS BAR by KEI
サンルイ・バー・バイ・ケイ

ST LOUIS BAR by KEI サンルイ・バー・バイ・ケイ

東京都中央区銀座7の8の17虎屋

銀座ビル12F

☎03・6274・6612(予約受付13:00~22:30、日・月曜除く)

17:30~23:00(食事22:30、ドリンク23:00LO)

定休日:日・月曜

https://www.maisonkei.jp/stlouisbar/

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