【感性を磨く京都】今、最もアートに熱いお寺「両足院」へ。まだ知らない京都の楽しみ方

古都に息づく伝統と革新が交わる京都。キュレーター・長谷川祐子さんが「古都×現代アート」の楽しみ方をナビゲートする。今、最もアートに熱いお寺「両足院」は見逃せない!

キュレーター・長谷川祐子さんがナビゲートする、「古都×現代アート」の楽しみ方。

ふと目に入るもの、触れるものに「本物」を感じられる街

学生時代から京都に暮らし、今も住まいをもつキュレーター・長谷川祐子さん。

「メジャーな美術館ももちろんよいのですが、日常から切り離された場所だけでなく、私としては、生活に紐づいた場所をおすすめしたいですね」とまずあげたのは、京都でも指折りの古刹である建仁寺の塔頭(たっちゅう)(大寺院の敷地内にある小寺院や別坊)、両足院(りょうそくいん)。歴史的に貴重な書物や掛け軸など多くの文化財を保有しているここは、近年、さまざまな展覧会やアートプログラムを展開しているという。

「副住職の伊藤東凌(とうりょう)さんはアートに造詣が深く、とてもすばらしいセンスの持ち主。英語も堪能で、外国人に向けて禅のワークショップを行うなど、グローバルな視点で活動されています。寺院はもともと地域にとってコミュニティの中心だった場所。そこに現在、アートイベントで人が集まり、文化的なカンバセーションが交わされる場に発展しているのは、おもしろい傾向だと思います」

市中のギャラリーにも個性的な空間が多数。長谷川さんのお気に入りのひとつ、ACG Villa Kyotoは、数寄屋造の家屋を使用したギャラリー。古きよき日本の家でアートに浸るという、日常の贅沢が堪能できる。

「家としてのたたずまいが素敵で、中の空間も、とても考えられている。コンテンポラリーアートでは、ノナカ・ヒル京都も刺激のある場所です。小さなギャラリーをひとつひとつまわって新しいものを見出すのも、京都らしいアートの楽しみ方。新門前通りの近くなので、周囲の骨董品店街を散策するのもいいですね」

アートをきっかけにまだ知らない場所に足を運び、街への造詣を深める──それが、長谷川さんの提案。例えば『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』は、常設拠点のほか市内複数個所に会場を設け、連携して開催される写真展だ。「京都市美術館 別館や両足院などのほか、帯屋の誉田屋源兵衛(こんだやげんべえ)の竹院(ちくいん)の間といったふだんは非公開の場所でも展示が行われます。京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡などは、特にユニーク。ふだんは立ち入れない場所でアートを見て、また違った街の雰囲気を感じられるでしょう」

古都というイメージから逸脱した、自由な催し。その自由さは、実は京都の特色でもあると、長谷川さんはいう。「京都はお公家さんと旦那衆の街。街の中にパワーがあるんです。若いかたがたが古い町家を改造して素敵なブティックやカフェにしていますが、街の人たちの目も肥えているのでキッチュなものは出せないのでしょう。また、学園都市でもある京都には研究者や芸術家を受け入れる気風があり、アーティストが落ち着いて制作に励める環境であることも、独特の雰囲気をつくっているように感じます」

アート作品だけでなく、手入れされた庭の眺めや調度品の手ざわりなど、目を凝らせば街のあちこちに発見が。気づかずにいる京都の姿は、まだまだありそうだ。

「スペクタクルな何かがあるとか、ラグジュアリーであるということでなくても、ふと目に入るもの、触れるものに本物を感じる……そういう旅ができるのは、やはり京都なのではないでしょうか」

キュレーター、美術史家 長谷川祐子
世界各地でのビエンナーレのほか、フランスで開催された『ジャポニズム2018:深みへー日本の美意識を求めてー』など数々の国際展覧会の企画を担当。昨年の『森の芸術祭 晴れの国・岡山』ではアートディレクターに。今年3月まで金沢21世紀美術館館長を務め、現在は、京都大学経営管理大学院客員教授、国際文化会館プログラムディレクターを務める。

今、最もアートに熱いお寺「両足院」

今でこそアートイベントを行う寺は増えてきたが、両足院は先駆け的存在だ。「うちも昔は檀家さんか所蔵品を研究する学者しか来ない寺でした」と副住職の伊藤東凌さん。修行を終え、25歳で生まれ育った両足院の僧侶になった伊藤さんは蔵の整理を始めたのをきっかけに所蔵品展を自らキュレーションするように。さらに、京都を拠点に活躍する陶芸家を集め、『京・焼・今・展』を開催。非公開の寺を使った展覧会は注目を集め、’14年には、京都造形芸術大学(現京都芸術大学)からのオファーで『ミヒャエル・ボレマンス展』を開催する運びに。それが転機となり、ハロルド・アンカートやボスコ・ソディ×加藤泉など、現代作家の企画展を次々と開催。さらにアーティストとも親交が深く、アメリカの画家・エリザベス・ペイトンや現代美術作家・杉本博司が手がけた襖絵を所蔵し、特別公開もされている。

現代美術作家・杉本博司が手がけた襖絵を展示。

今年2月に行われていた冬季特別公開では、現代美術作家・杉本博司が手がけた襖絵を展示。代表的な写真シリーズ「放電場」を応用した襖8枚のほか、「日々是好日」をもじった掛け軸も杉本氏によるもの

「コミュニティの中心だった寺院が、アートを介して文化的なカンバセーションの場に」 ──長谷川さん

2月に特別公開されていた「方丈襖絵32面」。
2月に特別公開されていた「方丈襖絵32面」。禅の修行・求道のために描かれる「道釈画」の絵師、雪舟天谿が’13年から5年の歳月をかけて完成させた大作 

2月に特別公開されていた「方丈襖絵32面」。禅の修行・求道のために描かれる「道釈画」の絵師、雪舟天谿が’13年から5年の歳月をかけて完成させた大作

『KYOTOG RAPHIE 京都国際写真祭』でも毎年、 開催会場に。

『KYOTOG RAPHIE 京都国際写真祭』でも毎年、開催会場に。著名なアーティストであっても巡回展はNG。新作を発表することと寺の空間を生かした展示を行うことを原則としているそう

茶室では企画展にちなんだ斬新な茶席が設けられることも

昨年からは、現代に接続する茶の湯を具現化する茶人、中山福太朗さんが茶頭に。シャンパンやコーヒー、チャイを取り入れるなど、茶室では企画展にちなんだ斬新な茶席が設けられることも

伊藤東凌さん

伊藤東凌さん。アートを中心に領域の壁を超え、現代における仏教や寺のあり方を追求。Meta本社で禅セミナーを開催するなど、インターナショナルに活躍

両足院

京都市東山区大和大路通 四条下ル4小松町591
建仁寺山内
☎︎075・561・3216
『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』開催中(4/12~5/11)は拝観可能。

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