〈あなどれない!加齢黄斑変性 Vol.2〉人生のQOLを下げる加齢黄斑変性。予防法と患ったときの治療法【小田ユイコのいつもどこかが調子悪い#3】

ものがゆがんで見えたり、部分的に視野が欠け、QOLを著しく下げる50代以上に多い目の病気、加齢黄斑変性。初期段階で気づきにくいことから、症状がかなり進行するまで放っておきがちだといいます。一度かかると完治はせず、一生つきあっていくことになるこの病気。加齢黄斑変性を予防する心得は、結果ほかの生活習慣病の予防にもなりいいことづくめ。Vol.2では専門の医師、尾花 明先生に加齢黄斑変性の予防と、かかったときの治療についてお伝えします。

とにかく食べ物が大事! 毎日、野菜を手のひら5杯分食べることを心がける

加齢黄斑変性があなどれない病気であり、原因を知ると私も決して他人事ではないと思いました。予防には何を心がけたらいいのでしょうか。

「なんといっても野菜と果物をしっかり食べることです。厚生労働省は『健康日本21』で緑黄色野菜、淡色野菜を合わせて、1日350g摂取することを推奨しています。これがなかなか皆さん難しく、野菜を食べているつもりでも、足りていないことが多いのです」

350gの野菜ってそんなに多いのですか?

片手のひらに、カットした野菜をこんもりと乗せるとおよそ70g。これを5杯で350gです。たとえばほうれん草のお浸し、ニンジンサラダ、かぼちゃの煮つけは手のひら1杯分ずつ。野菜炒めや八宝菜は2杯分とカウントします。これだけたべて、ようやく350gです。この手のひら5杯を、1日3食に振り分けていただきたい」

想像以上にたくさん食べる必要がありますね。私、野菜は食べているほうだと思っていましたが、手のひら5杯分には足りていませんでした。

「そういう方がほとんどなんです。ホテルの朝食バイキングを見ているとよくわかりますね。意識の高い人は、まずサラダを盛り、野菜の小鉢を取り、フルーツも食べる。ところが一方で野菜やフルーツをまったく取らない人もいます。また、私が勤める病院の食堂でスタッフたちの食事を見ていると、付け合わせの野菜を残す人が多い。野菜を飾りか何かだと思っているのかもしれません(笑)」

野菜だけでなく、イワシ1匹程度の青魚も意識して

Vol.1で、ものの形を認識する視細胞、錐体細胞が網膜でいちばん集中しているのが黄斑だと教えていただきました。大事な部分を酸化させないように、抗酸化作用の高いルテインやゼアキサンチンなどのカロテノイド色素が集中しているのでしたね。カロテノイド色素を含む野菜を中心に食べるのがいいのでしょうか。


ルテインが豊富なほうれん草、小松菜、ブロッコリー、ゼアキサンチンが豊富なパプリカ、トウモロコシ、柿はぜひ食べてほしいですが、もちろんそれだけを食べればいいわけではありません。ビタミンやミネラル、微量元素、フラボノイド、食物繊維も必要ですので、実際のところはさまざまな色の野菜、根菜に海藻も摂っていただきたいです。

アジ、サバ、イワシなどに多く含まれる魚の油、DHA、EPAも古くから目によいといわれており、加齢黄斑変性の発症予防におすすめ。目の酸化ストレスに対して防御機能を果たし、炎症を抑える力も。日本人に加齢黄斑変性が増えた理由のひとつとして、魚離れも考えられます。

厚生労働省が推奨するDHA、EPAの摂取量は合わせて1日2g。大きめのイワシ1匹程度食べれば摂取できますが、肉食中心のメニューになっている今、毎日達成できている人は少ないはずです」。

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加齢黄斑変性の予防に欠かせない野菜。1日350gを目安に摂取。

サプリメントでルテイン、ゼアキサンチンを摂取するのも手

加齢黄斑変性を予防する栄養素を毎日確実に摂るのが難しい場合、おすすめのサプリメントはありますか?

「ルテイン、ゼアキサンチンを含むサプリメントがいいですね。米国で行われた研究報告、AREDS(Age-Related Eye Disease Study)2に基づき、日本人に適した栄養摂取量を考慮した製品があります。参考になさってください」。
  • 網膜の黄斑色素量の増加と抗酸化作用により、光刺激から目を保護。機能性表示食品。1日3粒でルテイン20mg、ゼアキサンチン3mgほかが摂れる。サンテ ルタックス20V 90粒 ¥4968/参天製薬

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ルテインは、加齢により減少する網膜の黄斑色素量を維持することが報告されている。機能性表示食品。1日3粒でルテイン20mg、ゼアキサンチン4mgほかが摂れる。オプティエイドML MACULAR 90粒 ¥3456/わかもと製薬
高用量のビタミン・ミネラルに加え、ルテイン・ゼアキサンチンを適量配合したサプリメント。プリザービジョン2 120粒 ¥5292(編集部調べ)/ボシュロム

黄斑の酸化を食い止めるために、今すぐスマホの「輝度」を下げて

加齢黄斑変性にならないよう、私たちの生活と切っても切り離せない存在・スマホやPCと、賢くつきあうにはどうしたらいいですか?

「まずはスマホやPCを不必要に明るい設定で見ないこと。自分が見やすいと感じる最低の『輝度』(明るさ)に下げましょう。画面を長時間見ていると目の疲れを感じるのは、輝度が高すぎるからです。また、スマホやモニターをしばらく見続けたら、緑を見るなど意識して目を休めるように。夜間、特に就寝前はデジタルデバイスは見ないことが大事です。

それと、夜間のリビングの照明は暖色系に。青みの強いライトは黄斑に酸化ストレスを与えるからです」。

夜、ベッドの中にスマホを持ち込むのはダメということですよね。天井の明かりは消し、寝落ちするまでドラマを見てしまうのが常です(笑)。

「いけませんねぇ。そもそも暗い部屋で明るいディスプレイを見るのは厳禁。部屋が暗いと瞳孔が大きく開き、網膜に透過する光の量が増加。まぶしさも感じやすくなります。明るい光でメラトニンの分泌が止まって眠りも浅くなり、サーカディアンリズムが乱れてしまいます」。

加齢黄斑変性の治療法は?

「加齢黄斑変性には滲出(しんしゅつ)型と萎縮型がありますが、日本人に圧倒的に多いのは滲出型。黄斑が酸化されると、黄斑新生血管ができ、そこから滲出液や血液が染み出し、網膜にたまってしまいます。よく加齢黄斑変性の患者さんが『水の中でものを見ているようにぼやける』と言うのはそのため。加齢黄斑変性のメインの治療法は、この黄斑新生血管を抑える薬を眼球に注射することです

眼球に注射って、なんだか怖いですね。

「これは世界で行われている、加齢黄斑変性の現在最も一般的な治療法。ほかにいい手立ては、今のところありません。患者さんは、およそ2カ月に1回この注射を受けます。食事や生活を改善して治療をお休みできる人もいますが、そのままならずっと2カ月に1回程度注射を受け続けることに。50代で発症すれば、30~40年この治療のために病院通いすることになります」

治療費もかかりそうですね。

「健康保険が適用されますが、3割負担で注射1本約5万円。2カ月に1回が続くとかなりの金額になります」

目への思いやりは「老化の準備」の最重要項目

今回、先生のお話をうかがって、目の健康への認識が甘かったことと、この先の人生で目が見えるということがどれだけ重要かを考えさせられました。

「日本は長寿国ですから特に、なのですが、寿命より目の寿命が先に来てしまうケースが増えたんですね。50代の方にぜひお伝えしたいのは、『老化の準備』。その最も大事なポイントが目を思いやる生活です。

生まれた時から視覚障害がある人は日常生活、社会生活に適応できるのですが、中途失明者、特に高齢になって視覚を失うと、ほとんどの場合適応できないんです。トイレすら自分で行けず、何を食べているかわからないから美味しさがわからなくなって体力が落ち、人の顔が見えないからコミュニケーションが取れず、情報から疎外されていく。すると認知機能が下がってしまう。加齢黄斑変性の患者さんの1/3は、治療のために病院に来ることすらできなくなりドロップアウトしてしまいます」

今58歳の小田ですが、仕事への興味は尽きず、まだまだ取材活動を続けて皆さんに情報をお届けしたいと思っていますし、プライベートも楽しみたい。そのために、どれだけ目が大事かということを思い知った気がします。

まずはスマホとPCの輝度を下げ、食事のたびに野菜は手のひら何杯分か、魚は食べたか、と毎日意識するように。そして、ベッドにスマホを持ち込むのを思い切ってやめ、以前のように本をちょっとだけ読んでから寝るようにしています。

すると確かに、目の奥のズーンとした疲れがなくなって、眠りが深くなったように感じますし、翌朝の寝起きもいい。今、加齢黄斑変性のことを知っておいてよかったなと、心から思いました。
尾花 明先生

尾花 明先生

聖隷浜松病院 アイセンター長。医学博士。加齢黄斑変性などの網膜硝子体疾患の治療と予防のスペシャリスト。大阪市立大学医学部卒。同大学院を修了。独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン眼科病院留学。帰国後、大阪市立大学医学部講師、同助教授を経て、2003年浜松医科大学客員教授に。2004年から聖隷浜松病院に。現在、浜松医科大学客員教授、大阪公立大学客員教授、島根大学臨床教授。日本眼科学会専門医。著書に『「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル』(CCCメディアハウス)ほか。
小田ユイコ

小田ユイコ

美容ジャーナリスト。出版社に勤務後、独立。『eclat』『MAQUIA』『LEE』『BAILA』などの女性誌や、WEB媒体で美容記事を執筆。「美しさは健康から」をモットーに、女性のカラダに関する取材を長年にわたり行う。1965年生まれ。

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