阪本道子さん「運命を感じた、異業種からのオファー。人の力を信じて、誠実に、真摯に」【エクラ トップリーダーズvol.13】

人の心からわき出す美を音に乗せ、社会へ、そして次の時代へ。世界のピアニストから支持される名器の伝道を託されたのは国際経験と幅広い領域の業務で才を磨いた異能のリーダー。自らを律し、心を開いて、誠実に取り組み、人に働きかける。そのもとで、さらに豊かな共鳴が生まれ、広がっていく。

スタインウェイ・ジャパン株式会社 代表取締役 阪本道子さん

阪本道子さん

表参道のショールームで奏でたのはドビュッシーの『アラベスク第1番』。「シューマンの小品などを、週末にときどき練習します」

profile
’91 東京大学法学部卒業後、日本政策投資銀行に入行。
’99 INSEAD(欧州経営大学院)留学を経て、ボストン コンサルティング グループに勤務。
’04 事業会社に移る。のちにパートナーの転勤に伴い渡米。シリコンバレーでベンチャーキャピタルに従事。
’08 帰国後、数々の企業の事業再建やIT企業のスタートアップ経営に取り組む。
’22〜 現職。

AI全盛の今だからこそ人間らしさがより輝く

鍵盤の上でなめらかに踊る指。そして、星くずのような音の連なりがショールームを満たした。ピアノの名器として世界にその名を馳せるスタインウェイ&サンズ。音の輝きに、ただただ圧倒される。
「キラキラとした高揚感があり、勇気をくれる力強さと心に深くしみ入る詩的な深みをもつ音。演奏者の『こういう音を出したい』『こんな表現をしたい』という気持ちを上手に拾い上げ、伸ばしてくれます。上級者やプロ向けと思われがちですが、実は初心者のかたにこそ弾いていただきたいピアノ。美しい音に接しながら日々を過ごしたい、と大人世代からもう一度挑戦されるかたも多いです」

日本法人の代表取締役に就任して4年になる阪本道子さんは、幼いころはピアノやエレクトーンを習い、長じてからはグランドハープを演奏していた楽器好き。クラシックを中心に幅広い音楽に親しんでいたこともあって、現職へのオファーには「予想外だったけれど、運命も感じた」と振り返る。法学部を卒業し、最初に選んだ業界は金融。続いてコンサルティングファームに勤務し順調にキャリアを重ねていた阪本さんに転機が訪れたのは、30代後半。ライフサイクルの変わり目とも、ちょうど重なったかたちだった。
「周囲は意外だったようですが、子供をもつタイミングで、より地に足をつけて自分で物事を動かす事業会社での仕事に興味を感じたのだと思います」

コンサルからの最初の転職先は、楽器演奏と同じく趣味のひとつであった手芸のチェーン。ファブリックの専門家や刺繡作家など、異なる才能やバックグラウンドをもつ人々との協業は、阪本さんに新たな仕事の喜びと可能性を見出させた。
「コンサルティングもチームワークですが、やはり事業においては職種がさまざまで、それぞれに個性や強みを持ち寄った仲間たちと一緒に仕事をする。そのことが、とても楽しかったです。その後はスタートアップ企業に携わる機会が多く、常に変化し成長することがテーマでしたが、スタインウェイは173年の歴史をもちながら、自動演奏などのテクノロジーを取り入れ、進化を続けている企業。必要な変革は行いつつ、じっくり観察しながら仕事を進めることを意識しました」

工場でもウェアハウス(倉庫)でも、サービス部門においても、伝統の品質を支えるのは、やはり人の力。自身も、そして周囲に対しても「誠実であること」を、常に心に置いているという。
「遠回しに柔らかく表現して好かれることを目ざすよりも、誰もが仕事をしやすいように物事を明確にすることのほうが、私の中では優先順位が高い。失敗した際にも、一生懸命やったけどこうなった、次はこうならないようがんばる、という誠実さを評価しますし、その姿勢に対して心から感謝を伝えたいと思っています」

テクノロジーが人間の能力を補い、凌駕さえするAI時代。それでも、人の奏でる楽器の音が聴く人の心を揺り動かすように「“人間らしさ”がより輝き、大事になるはず」と阪本さん。誠実に、真摯に、人と社会に向き合う日々は続く。

愛用のスタインウェイロゴ 入りボールペンは、スイスの カランダッシュ社製

愛用のスタインウェイロゴ入りボールペンは、スイスのカランダッシュ社製

花

庭で育てた季節の花々は、多忙な日々の慰めに

眼鏡

身のまわりの品に多いのは「好きな色で、ラッキーカラーだと思っている」ターコイズブルーのアイテム。メガネのフレームにもひとすじ、ティファニーブルーが

阪本道子さん

ライフステージごとに、自身や家族の課題解決を優先しながら仕事と働き方を選んできた。「今は男女差はなくなりつつありますが、当時は女性のほうがより柔軟に対応できたのかもしれません」

motto

motto

英語でいうなら「integrity」。「努力をしていても、人は時に失敗し、迷惑をかけてしまうもの。気づいたら速やかに過ちを認めて謝罪し、修正するのも誠実さだと考えています」。

エクラ トップリーダーズ 連載一覧

photography:Tomoko Meguro hair&make-up:Miho Kanesawa text:Michiko Otani ※エクラ2026年6月号掲載

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