演じるのは、鬱々と妄想を繰り広げる、独りよがりで理屈っぽい大学生。 年齢を重ね、仕事の選び方にも大きな変化が訪れたという伊野尾 慧さんに、新作舞台『四畳半神話大系』への意気込みを聞いた。
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劇場空間にSF的な要素を持ち込み、ロジカルかつ知的な笑いで観客を作品世界へ引き込む「ヨーロッパ企画」の上田誠。新作舞台『四畳半神話大系』に主演する伊野尾慧さんは、今年上演された『インターネ島エクスプローラー』で、まさに上田ワールドを体感した。
「舞台としての構造的なギミックと言葉としてのおもしろさによって、会場全体が右肩上がりに盛り上がっていく感覚がすごく新鮮でした。稽古を通じて、ある意味真逆の、理系と文系の思考をあわせもつクリエーターの頭の中をのぞけると思うと楽しみです」
演じるのは、鬱々と妄想を繰り広げる、独りよがりで理屈っぽい大学生「私」。原作の森見登美彦作品ではおなじみともいえるキャラクターで、バラ色の大学生活を夢見てサークルに入るが、そんな未来は訪れず、勧誘される場面に何度もタイムリープしてしまう。
「僕自身も“キャンパスライフ=サークル”のイメージがあって、ドキドキワクワクしていたんですけど、明治大学の生田キャンパスへ向かう坂道で先輩たちが勧誘しているところを見たら怖くなって、避けちゃいました(笑)。もしあのとき、あの道を通り、建築サークルか何かに入っていたら、違う未来があったんだろうなあ。
“もし”を考えるなら、進学自体も大きな分岐点でした。Hey! Say! JUMPのメンバーとして高校生でデビューしていたものの、個人のお仕事は決して多くなく、思い返せば『私』のように悶々としていた時期でしたね。芸能の道一本に絞ったほうが早くに芽が出たかもしれない。でも、現状を変えるために戦わなきゃいけないときこそ、違うことをする必要があると感じました」
作品の舞台である京都の魅力をたずねると、建築を学んだ片鱗がちらり。
「日本は戦争や災害によって古い建物の多くが失われてしまったので、その地の歴史が一番感じられるのは道なんです。“碁盤の目”と呼ばれる整然とした区割りが残っているのは、京都ならでは」
現在35歳。年齢を重ねながら、仕事の選び方にも大きな変化が訪れた。
「20代でさまざまなお仕事をさせていただけるようになり、何が得意で苦手なのかわかってきて、こだわりがどんどん研ぎすまされていきました。それっていいことのようだけど、価値観が凝り固まり、可能性を否定しかねないんですよね。実際、気づけば好きなことばかりをチョイスしていました。そのことに危うさを感じ、今はあえて自分から一番遠いと感じるものこそ挑戦するようにしています。
この舞台にしてもそう。以前の僕なら、自らこんな大変なことをやろうと思わなかったはず(笑)。上田さんや共演者のかたがたの価値観に触れ、取り入れたいです」
『四畳半神話大系』
大学3回生の「私」は、サークルに希望を託すも失敗。並行世界にループして違うサークル生活を送るごとに、満たされない理由に気づいていく。伊野尾慧、加藤史帆、大窪人衛、剛力彩芽ほか。
5/17~31、新国立劇場 中劇場
問☎0570・200・888(キョードーインフォメーション)
※大阪公演あり
いのお けい●’90年、埼玉県生まれ。’07年、Hey! Say! JUMPのメンバーとしてデビュー。活動と並行しながら、明治大学理工学部建築学科を卒業。さらに同大学大学院理工学研究科新領域創造専攻に進み2年で修了、“建築アイドル”としても活躍の場を広げる。俳優としては、人気ドラマシリーズ『家政夫のミタゾノ』(’19~’25)に第3シーズンから参加。最新主演作は『50分間の恋人』(’26)。
photography:NARA(vale.) hair&make-up:Megumi Sakabe styling:Ken Sagae(Emina) text:Sakiko Koizumi ※エクラ2026年6月号掲載