社会的役割の変化や更年期の影響などで、不安や焦燥感が募る40、50代。「なんだかしんどい」と感じるのは、あなただけではありません。荒天をくぐりぬけて本当のしなやかさを手に入れた人は、心の扱いに長(た)けているはず。スポーツレポーター・益子直美さんが、自分を幸せにするために大切にすること、気持ちをゆるめる手立てとは。
心は弱いままでもいい。正しい知識を支えに、どう整えるか
スポーツレポーター・ 益子直美さん
どん底まで落ち込んだから新しい自分に変われた
'80~’90年代にバレーボール界を牽引した活躍は言わずもがな。現在は「監督が怒ってはいけない大会」の代表理事などを務め、スポーツ指導の改革に取り組んでいる益子直美さん。意外なことに、「現役時代からメンタルは弱々」なのだという。
「10年ほど前、大学バレーの監督をしていましたが、指導法に行き詰まってしまって。自分の未熟さに打ちひしがれ、一気にメンタルが落ちてパニック障害に。やがて心房細動を発症しました。この病気はストレスが再発のリスクになる。これを機に弱い自分をなんとかしたいと、メンタルケアの勉強を始めたんです」
心を強くするために始めた学びは、気づきの連続。益子さんは、「知識が心を支えてくれる」と痛感した。
「一番大きかったのは、心は強い弱いは関係なく、どう整えて安定させるかが重要と知ったこと。ずっと引け目だった弱さを肯定されたようで、すごく救われました」
アンガーマネジメントの資格を取るなど、その後も知識を積み上げ、心の整え方や時代に合ったスポーツ指導の方法を探っていった。学びを通じて自分自身を冷静に見つめ直し、もうひとつ気づいたことがある。
「私たちの世代は、年齢を重ねたぶんだけキャリアもプライドもあって、まわりからは『できて当然』と思われる。だから無意識に自分でハードルを上げてしまっているんですよね。監督時代につまづいたとき、誰にも教えを請えなかったのは、無知をさらしたくなかったから。自分を大きく見せようとしたことが、自分を苦しめていたんです」
どん底まで落ち込み、病気で「先の時間」と対峙したことが、変わるチャンスになったと振り返る。
「人生は強い衝撃があったときこそ行動できるし、ムダなプライドを捨てることができる。今はもう、ハードルを下げまくっています(笑)」
夫婦で住まいを湘南へ移して10年以上になる。海や山に囲まれて暮らす日々が、心の安定を支えている。
「大好き!」という沖縄を訪れて羽を伸ばしたり、高校時代のバレー部の同期と“豪華客船の旅”を計画したり。忙しい毎日の中に組み込む非日常が、モチベーションと活力に。
「この5月で還暦になります。40代のころから友人と毎月1万円ずつ積み立てをして、60歳になったら一気に使って“ちょっといい旅行”をしようと決めていて。60歳からは毎月2万円にして65歳を目標に、その次は70歳を目ざして。お互い病気を経験しているので、先に楽しみをおいておくことが、元気で過ごすためのおまじないみたいなものですね」
そして、心を潤す意外な“推し”の存在も。ライトノベル『宝石商リチャード氏の謎鑑定』のリチャードだ。益子さんの声がはずむ。
「アニメや漫画もあるけれど、私は断然オーディブル派。リチャードが話す日本語がほれぼれするほど美しいんです。言葉選び、穏やかなトーン……こんなふうに話したいと思わせてくれる憧れの人。声を聞くだけで癒され、心がまるくなります」
益子直美さんの「私の回復リスト」
□自然や季節を感じる
「庭の木々や花を眺めると心がやわらぎます。庭に椅子を出して自家製ハーブティーを飲みながらひと息つく時間が好き」
□沖縄で解放的になる
「沖縄は自分をさらけ出して、パワーチャージできる場所。ファッションも少し大胆にして、非日常を楽しみます」
□明るい色の服を着る
「ピンクやオレンジなどの明るい色の服を着ると、気分が晴れやかに。年齢を重ねた自分に“華”もプラスできます」
□オーディブルで推しの声を聞く
「目が疲れないオーディブルは最高! 心が疲れた日は、寝る前にリチャードの声を聞いて癒されてから眠ります」
ますこ なおみ●’66年生まれ。バレーボールの全日本代表として活躍し、現役引退後はタレントに転身。現在は、「監督が怒ってはいけない大会」を主宰するほか、公益財団法人日本スポーツ協会の副会長も務め、講演活動にも精力的。
取材・原文/熊坂麻美 ※エクラ2026年6月号掲載