社会的役割の変化や更年期の影響などで、不安や焦燥感が募る40、50代。「なんだかしんどい」と感じるのは、あなただけではありません。荒天をくぐりぬけて本当のしなやかさを手に入れた人は、心の扱いに長(た)けているはず。俳優・南 果歩さんが、自分を幸せにするために大切にすること、気持ちをゆるめる手立てとは。
私の人生は、私だけのもの。自分を喜ばせることを後回しにしない
俳優・南 果歩さん
小さな選択を大切にして気持ちを上げていく
2年前に、“人生のリスタート”ととらえる還暦を迎えた南果歩さん。乳がん、うつ病、離婚……50代で直面した大波を越えて知ったのは、「どんなにつらいことがあっても、人はまた笑えるようになる」ということ。
「どうしようもなく苦しかったら、私は逃げていいと思っています。一時的にでも、自分の居場所を変えるのです。私自身、心が壊れかけたとき、前向きな選択としてアメリカに渡り、人生をやり直すきっかけを得ました。環境や生活が変わると、思考回路は確実に変わります。広い世界や新しい価値観を知ることで、自分の存在や悩みがちっぽけに思えてくる。この作用は、心の回復にとても大きいと感じています」
朝起きたら家じゅうの窓を開けて空気を入れ替え、太陽に向かって大きく伸びをする。病と向き合ったときから続けている、大事な習慣だ。
「朝一番に、日光を浴びるのは本当に気持ちがいい。眠れない夜が続いたときも、朝は必ず起きて、お日さまを浴びて一日をスタートさせていました。そうすることで少しずつリズムが整って、前向きになれたのです」
健全な体に、健やかな精神が宿る──。身をもって体感したこの真理を、今もセルフケアに生かしている。
「メンタルが落ちたときは、とにかく体を動かします。心が弱っているとき、心に直接アプローチしてもあまり効き目がない。体で引っぱってバランスをとるイメージです」
日ごろから「自分にストレスをかけないこと」を大切にしているという南さん。多くの人とかかわる仕事柄、人間関係が悩みのタネになりそうだが、「万人に好かれようと思っていないから大丈夫」と、キッパリ。
「世の中には、私を好きでいてくれる人、よく思わない人、そして無関心な人が同じくらい存在していると思っています。年齢を重ねてそう考えられるようになって、気持ちがぐっとラクになりました。苦手な人が登場しても、『あら、こんなにわかりやすい嘘をつくのね』とか(笑)、人間観察をして楽しんでいます」
仕事以外の時間は、あえてルーティンを決めず、日々流動的。その時々の気分を大切にして行動することが、ご機嫌でいる秘訣だ。
「食べるものも使う器も、洋服もバッグも、今日何をするかも、すべてその日の気分に合った“好き”を選びます。そうすると、気持ちがぐんぐん上がっていく。人生は小さな選択の積み重ね。自分を喜ばせることを後回しにしたくないのです」
もともと、人と比べずに生きてきたタイプでもある。「今がすべて」と、若いころの自分とさえ比べない。ピンときたものには迷わずトライし、自分らしさの核を磨き上げてきた。
「私の人生は、私の価値観でしか生きられないので。人を羨んだり過去を振り返る時間があるなら、感性を深めたいなと。多方面の友人に刺激をもらいながら、食事やライブ、美術鑑賞、スキー、バンド、ダンス……喜びを共有して、心を健やかに保っていきたいですね。気が多いのも、案外悪くないんじゃないかしら」
南 果歩さんの「私の回復リスト」
□体を動かし、鍛える
「コロナ禍を機に始めた筋トレ。トレーニング後の爽快感は格別です。体力がつき、あと一歩をあきらめなくなりました」
□気が向いたときに楽しめる趣味をもつ
「俳句、ワイン、編み物など、ときどき参加している会がいろいろあります。自分のペースで楽しめ、心も豊かに」
□ペットと戯れる
「3匹のワンコが大きな癒し。本能で生きる犬たちの姿から、人間がいかに複雑に考えすぎているか気づかされます」
□音楽のライブを堪能する
「生で聞く歌のパワーは絶大。最近はMISIAさん、玉置浩二さん、久保田利伸さんのライブへ。めちゃくちゃしびれました!」
みなみ かほ●’64年生まれ。国内外のテレビや映画、舞台で幅広く活躍。ピンクリボン活動や、被災地を中心にした読み聞かせボラ
ンティアも行っている。
最新エッセー『還暦スマイル』(小学館)は、エクラ世代の背中を押す金言が満載。
取材・原文/熊坂麻美 イラスト/金子なぎさ ※エクラ2026年6月号掲載