アラフィーになると、ちょっとした段差につまずいたり、何もないところでも転んだり。こんなトラブルに深くかかわっているのが「股関節」。転ばないための股関節をつくるには? 整形外科医の中村格子先生に教えていただいた。
チームJマダム®の 「つまずいてヒヤッ&まさか転ぶとは」エピソード集
普通に歩いているつもり!なのに、つま先部分がひっかかる感じになって、つまずくことが何度かありました。
――YOKOさん
両手に荷物を持って歩いていた際、段差もないところで転んでしまい、ヒヤッとしたことが。特に障害物があったわけではないのに、自分でも驚きました。
――TOSHIMIさん
駅の階段で最後の一段にひっかかってしまい、手の甲を骨折しました。全治2カ月でした。
――YUMIさん
若いころに比べて明らかにつまずくことが多くなっています。運動神経は悪くないと思っているのですが……。この先、打撲や骨折につながるのでは、と不安です。
――kiyokoさん
上りの階段で踏みはずし、肩から前に倒れて腕に大きな青アザが!
――マサコさん
キッチンマットによくつまずきます。足が上がっていないのでしょうか……。
――真由さん
少しの段差でも、バランスがくずれるほどよろめいてしまいます。持っていた携帯の画面がバリバリに割れてしまったことも。階段でつま先をひっかけてしまうのは日常茶飯事、そのたびに冷や汗が出ます。
――ぶんかさん
いつのまにか転びやすくなるのはなぜ?
加齢だけでなく、ふだんの生活の中にも原因が
上でご紹介したように、読者の中にも思わぬ場面でつまずいたり、転んだりしている人が多数。ひどい場合は怪我や骨折をしてしまったという人も。まずは、こんなトラブルが起きやすくなる理由を中村先生が解説。
教えてくれたのは
なかむら かくこ●Dr.KAKUKOスポーツクリニック院長。整形外科医。医学博士。トップアスリートへの指導・治療経験に基づく、誰でも安心して取り組めるエクササイズ指導やわかりやすい医学解説がメディアでも人気。
年齢を重ねるごとに転びやすくなった……。その原因に深くかかわっているパーツが股関節なのだという。
「股関節は、脚を前に振り出す、後ろに蹴り出す、横に開く、内外にひねるという6方向の動きができる体最大の関節。歩く・走る・立つといった動作はすべて股関節が主導し、片足でバランスを保つときにも股関節まわりの筋肉が支えています」
ところが、この機能がさまざまな原因でじわじわと衰えていくとか。
「股関節を動かすのは、中殿筋や大殿筋などのおしりの筋肉や、腸腰筋や内転筋、外旋筋などの骨盤まわりの筋肉。現代のデスクワーク中心の生活では、これらはほとんど使われません。また、おしりを使わない歩き方も股関節まわりの筋肉が衰える原因。さらに更年期以降はエストロゲンの減少に伴って筋肉量が減り、関節も硬くなります。
その結果、股関節の可動域が狭まり、脚を前に振り出せない、つま先を上げられない、片足で体を支えられないといった状態になり、転びやすくなるのです」
また、股関節以外の原因も。
「加齢に伴い、足首や膝を引き上げる筋肉や、つまずいたときに体を立て直す反射神経、バランス能力なども衰え、これらも転倒の原因です」
更年期以降は、転倒すると骨折のリスクが高くなるのが注意すべき点。
「エストロゲンが減ると骨密度が低下し、転ぶと骨折しやすくなります。10回転ぶと1回は大きな骨折をするともいわれていて、体を動かせないことでさらに筋力が低下、また転んで骨折することも。歩行機能が低下すると、より歩かなくなることで認知機能の低下や将来の寝たきりのリスクも高まります。だからこそ転ばない股関節づくりが重要なのです」
股関節まわりが弱くなる原因は座りっぱなしや、おしりを使わない歩き方
膝、つま先が前に出る歩き方は腰や膝の負担に
股関節の筋力の衰えは座りっぱなしや、階段などの段差を避ける生活が大きな原因だが、ふだんの歩き方の影響も大。
「歩くときは後ろの脚をしっかり伸ばして蹴り出すことでおしりの筋肉が使われるのですが、膝やつま先を前に出してちょこちょこ歩く人をよく見受けます。これだとおしりの筋肉が使われずに衰え、股関節の可動域も狭くなります。おしりがやせる=股関節が動かなくなるということで、転びやすくなるのです。こんな歩き方だと、膝に負担がかかって膝痛を招くうえ、腰が伸びないので腰にも負担がかかり腰痛の原因にも。膝痛や腰痛は、股関節が使えていないことが原因の場合もあるのです」。
股関節まわりが硬くなって弱くなると……
股関節まわりの筋肉が硬くなると転倒のリスクだけでなく、股関節に痛みが生じることもあり、それが別の部分の痛みを招くことも。
「誰しも“利き脚”があり、左右どちらかをよく使うため、股関節などの荷重関節(体重を支える関節)には必ず左右どちらか一方に痛みが出ます。例えば右股関節に痛みが出ると、それをかばって左膝がよく使われ、左膝が痛むようになります。その痛む膝をかばって今度は右の足関節(足首)に負担がかかり、右足首に痛みが出ます。これを“クロスの法則”といいます。こういった痛みの連鎖を避けるためにも、股関節まわりの筋力と可動域を維持することが大切です」。
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10回転倒すると、1回は大腿骨、膝などの大きな骨折をする可能性が。
年を重ねてからの骨折は、歩行機能がワンランクダウンする原因に。
股関節まわりの状態をcheck
☑目を閉じて片足立ちで30秒
まずは自分の股関節が衰えていないかどうかをチェックしてみよう。
「まず、目を閉じて片足立ちで30秒キープできるかどうか試してみましょう。左右とも行います。運動不足の人は5秒くらいしかできないことも多いです。どちらか一方でも30秒キープできない人は股関節まわりの筋力低下のサイン」。
☑かかと、おしり、後頭部を壁につけて、おでこを動かさずに片膝を真上に
「次に壁にかかと、おしり、後頭部をつけて立ち、おでこを動かさずに片膝を引き上げます。おしりの力が必要なので、できない人はおしりの筋力が低下しているということ。左右とも行ってみて」。
暮らしの中でできる! 転ばない股関節・下半身をつくる
股関節まわりを鍛えつつ、「固有感覚」も強化して
転ばない股関節・下半身をつくるには、具体的にどんなことをすればいい?おすすめのエクササイズを中村先生に教えていただいたので公開。今日から始めて転倒しない体をつくり、将来の骨折・寝たきり生活を防いで。
転ばない股関節をつくるにはやはり歩く習慣やエクササイズが不可欠。
「座りっぱなしの生活だと股関節が常に屈曲した状態で、後ろへの伸展がないのでおしりの筋肉が衰えます。これを防ぐにはふだんからよく歩くことです。歩くときは、おしりの筋肉をしっかり使うことを意識するのがポイント(下記参照)。歩行は骨を強くする効果もあるのでエクラ世代には特におすすめです」。
歩き方
股関節から脚を出し、後ろの脚は伸ばして蹴り出す
正しい歩き方は、股関節を意識することが大事。
「股関節が縮んで曲がったままだと膝も曲がってしまいます。すると体の前で着地して歩くようになってしまい、これではおしりの筋肉が使われないのでNG。正しい歩き方のポイントは、股関節から脚を出して真下に着地することです。歩幅は大きめにして、後ろの脚はまっすぐに伸ばして蹴り出します。脚が自分の後ろに伸びていることを意識しましょう。こうするとおしりの筋肉がしっかり使われます」。
おしりを使って歩けているか自分で確認
「おしりのポケットのあたりに両手を当て、おしりの筋肉が収縮していることを確認しながら歩くのもおすすめ。この歩き方なら膝にも負担がかからず膝痛も防げます。ジョギングの場合もこの動きを意識しましょう」。
ストレッチ
腸腰筋のストレッチ
座り仕事で縮んでいる腸腰筋を伸ばして柔軟に
座っている時間が長いと縮んで硬くなりやすい、骨盤から脚のつけ根の深部に走る腸腰筋を伸ばすストレッチ。
脚を前後に大きく開いて立ち、両手を腰に当て、前の脚の膝を軽く曲げて少し体重をかけ、後ろの脚のつけ根あたりが伸びるのを意識しながら5〜10秒キープ。このとき骨盤を少し後傾させると、腸腰筋がより伸びやすい。これを3回。左右の脚を入れ替えて同様に。
おしりのストレッチ
つぶれて硬くなったおしりの筋肉を伸ばす
①椅子に座って、右足首を左の太ももにのせる。左手で右足首を持ち、右手は右脚に添え、上体を前に倒して5〜10秒キープ。このとき右のおしりの筋肉が伸びるのを意識。これを3回。左右の脚を入れ替えて同様に。
②次に、右脚が上になるよう足を組み、右膝の外側に左肘を当てて押さえ、右のおしりを伸ばして5〜10秒キープ。反対側も同様に。
内もものストレッチ
四股(しこ)のポーズで内ももの内転筋を伸ばす
縮んで硬くなりやすい内ももの内転筋のストレッチ。脚を左右に大きく開き、つま先と膝のお皿を外側に向けて、上体はまっすぐに立てたまま、太ももが床と平行になるくらいまで腰を落とし、両手は内ももに添える。次に、右肩を内側に入れる。このとき右膝が内側に入りやすいので、グッと外側に押して股関節を開き5 〜10秒キープ。これを3回。次に反対側も同様に。
エクササイズ
おしりを鍛えるエクササイズ〈初級編〉
横向きに寝て脚の上げ下ろし、おしりの中殿筋を鍛える
おしりの中殿筋を鍛えるエクササイズ。
①横向きに寝て、下側の腕を曲げて頭を支える。下側の膝を90度に曲げ、上の脚はつま先を前に向ける
②上の脚を引き上げて下ろす。体幹の力を使って脚を引き上げるのではなく、上半身は動かさずおしりの力で引き上げるのがポイント。これを5〜10回。反対側も同様に。スムーズにできるようになったら、脚を上げたまま前後にキックするように動かすと負荷が上がってより効果的。これを5〜10回。反対側も同様に。
おしりを鍛えるエクササイズ〈中級編〉
大殿筋、腸腰筋、内転筋のほか、太もも前後の筋肉も強化
大殿筋や腸腰筋、内転筋だけでなく、太ももの大腿四頭筋やハムストリングスなども鍛えられるエクササイズ。
①脚を前後に開いて、両手を腰に当てる。
②上体をまっすぐに保ったまま腰を落として前膝を90度に曲げる。次に膝を伸ばして①の姿勢に戻る。この①②を10回。左右の脚を入れ替えて同様に。腰を落とすとき、前の脚の膝が内側に入らないように意識して行うのがポイント。
おしりを鍛えるエクササイズ〈上級編〉
おしりの筋肉や腸腰筋を鍛えつつ、バランス力も強化できる
おしりの筋肉や腸腰筋などを鍛えつつ、不安定な状態で体を保つことでバランス力も鍛えるエアプレーンというエクササイズ。
①立って両手を腰に当て、骨盤を床と平行にしたまま上体を倒して片脚を引き上げ、頭から脚を一直線にして5 ~ 10秒キープ。左右の脚を入れ替えて同様に。
NG
骨盤が傾くのはNG。
②①ができるようになったら、同じ体勢から飛行機のように両腕を真横に伸ばしてから、体の下で手をたたく。骨盤が傾かないように、この動作を3回。左右の脚を入れ替えて同様に。
膝に不安がある人は
膝に負担をかけずに股関節まわりを鍛える動きを
寝て行うことで膝に負担をかけずに股関節まわりの筋肉をまとめて鍛えられるエクササイズ。
あおむけに寝て、両腕は体の横に置き、両脚をまっすぐ上に伸ばす。そのまま両脚を交互に前後に動かし、床につかないくらいまで倒したり戻したりを10回。次に左右の脚を横に開く→クロスを10回(シザーズエクササイズ)。また、ヘリコプターのプロペラのイメージで左右の脚を交互に大きく回すのも効果的。これも10回。股関節を柔軟にする効果が高い。
暮らしのなかで「固有感覚」を鍛えよう
「固有感覚」が衰えないようにするには?
自分の固有感覚が衰えていないかどうかをチェックしてみて。
「目を閉じて両腕を水平になるように伸ばします。目を開けてみて、実際に左右の腕が水平になっているかをチェック。なっていたらOKですが、左右どちらかが下がっているなどずれていたら固有感覚が衰えているということです」。
「固有感覚を鍛えるには、障害物をまたぐのもいいですし、段差を乗り越えたり、平均台の上を歩いたり、歩道などの白いライン上をはみ出さないように歩いたりするのも効果的です。こういった動きを日常生活にちょこちょこ取り入れて」。
ちなみに、固有感覚が衰える隠れた要因になるのが“バリアフリー”なのだとか。
「家を早めにバリアフリーにしましょうという考え方もあるようですが、バリアフリーにすると段差をまたいだり乗り越えたりという動作がなくなり、固有感覚の衰えを招きます。固有感覚を鍛えるためにはおすすめしません」。
チームJマダム®から格子先生に質問!
Q.もともと、体が硬いです。今からでも柔らかくなるのでしょうか?(ぶんかさん)
A.ストレッチなどで今より柔らかくすることは十分可能です
「ストレッチをすれば必ず今より柔らかくなります。体が硬いと感じている人は、体の使い方をよくわかっていないことが多いようです。自分は筋肉や関節、皮膚など、どこが硬いかを意識してそこをよく動かすことが大切。ただし無理な開脚は体を痛めるのでNG」
Q.何年もヨガやピラティスを習っているのに、3cmくらいの段差につまずくのはどうしてでしょうか。(YUMIさん)
A.養った柔軟性などを歩行に生かせるようにしていきましょう
「ヨガやピラティスは柔軟性や姿勢の改善などに効果的ですが、歩行機能の改善にそのままつながるわけではありません。養った柔軟性などを歩行に生かせるよう、ふだんから大股で股関節を使って歩くことを意識するようにすれば、つまずきにくくなっていきますよ」
Q.朝起きると、股関節の外側あたりに痛みがあることが。更年期障害のひとつと診断されたのですが、関連はありますか?(マサコさん)
A.更年期で股関節に痛みが出ることはほぼなく、ほかの原因と思われます
「更年期が原因で股関節が硬くなることはあっても痛みが生じることはなく、ほかの原因と思われます。更年期には随所に痛みを感じやすくなりますが、病院で痛む部分をすべて伝えると“更年期症状です”と片づけられがち。本来、最も痛む場所は1カ所です。医師には一番痛む場所を1カ所ずつ伝えるほうが診断や治療がスムーズです」
取材・原文/和田美穂 イラスト/大内郁美 ※エクラ2026年7・8月合併号掲載