退職金、年金、相続など、50代からは、イヤでも「税」と向き合う場面が増える時機。税制の変化を知らずに損をすることのないよう、今こそ、知識をアップデート! 税理士の大河内薫さんが、相続税・贈与税で知っておくべきキーワードや注意点を解説。
教えてくれたのは
おおこうち かおる●税務や資産形成について楽しく学べるコンテンツを、YouTubeやVoicyなどで発信。著書に『貯金すらまともにできていませんが この先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(若林杏樹との共著。サンクチュアリ出版)など。
「相続税対策」も大切だがまずは「相続対策」から
50代になると、親から財産を受け継ぐ「相続」と、将来自分の財産をどう残すかも気になる時機。“相続税がかかるか”に目が向きがちだが、「まず考えたいのは“相続対策”です」と、大河内さん。
「相続税対策は、資産によっては必要ない人もいますが、相続対策は誰にとっても必要。財産が多くなくても分け方をめぐって家族がもめることがあり、実際に1万円の相続がきっかけで絶縁した例もあるほどです」。
まず確認したいのは、銀行口座や証券口座、生命保険、不動産、借入金など、資産と負債の全体像。
「印鑑や暗証番号、スマートフォンのロック解除方法などの情報も確認したいところ。でも『資産はいくら?』と切り出すと親も身構えるので、『入院したら誰が手続きをする?』『介護が必要になったらどうする?』といった身近な話題から始めると話しやすくなります」。
相続税がかかりそうな資産規模なら、対策を検討。そのひとつに生前贈与がある。「贈与税の仕組みを理解して財産を移すと、将来の相続税負担を抑えられる場合が。ただし、税制が変わることも多いため、SNSなどの情報だけで判断せず、相続に詳しい税理士などへ相談を」。
「税」のKeyword
相続税
亡くなった人から財産を受け継いだときにかかる税金
相続税は、相続した人全員にかかるわけではなく、財産の合計額が基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)以内なら、一般的に申告は不要。実際に相続税の申告が必要だったのは、相続があった人の1割ほど(’24年)と少ないが、少しずつ増えている傾向に。課税は基礎控除を超えた財産に対してなされ、一律の税率ではなく相続する財産が多くなるほど税率が上がる仕組みで、税率は10~55%。
小規模宅地等の特例
自宅の土地の相続税負担を大きく軽減する特例
親などから自宅や事業用の土地を相続した場合に、相続税を計算する際の土地の評価額を減らせる制度。例えば、自宅の土地を同居していた親族が相続し、そのまま住み続けるなどの条件を満たせば、土地の評価額を最大80%減額でき、相続税がかからなくなったり、大幅に軽減されたりする。相続資産に占める自宅の土地の割合が高い人は影響が大きいため、早めに専門家へ確認しておくと安心。
タワマン節税
以前は話題になった節税法だが、制度が見直しに
現金よりも不動産のほうが、相続税を計算する際の評価額が低くなりやすいことを利用した節税法。特にタワーマンションの高層階は市場価格より相続税評価額が低くなりやすく、タワマン高層階を購入することで、資産を現金で持っておくよりも相続税を大幅に抑えられると注目された。しかし不動産の評価額が実態に近づくよう’24年に見直され、以前のような節税効果は得にくくなっている。
贈与税
生前に財産を渡すときにかかわる税金
贈与税とは、生きている人から財産をもらったときにかかる税金。年間110万円までの贈与は原則として贈与税がかからず、それを超えると税金がかかり、税率は最大55%。一方、親が子供の学費や生活費を必要に応じて直接負担する場合などは、非課税となるケースもある。生前贈与を行うことで、将来の相続税を減らせる可能性があるため、制度を理解して活用すると、将来の相続税対策になる。
生前贈与を活用する際の注意点は?
毎年110万円などの「計画的贈与」は注意。贈与を受けるなら早めから
「年間110万円までの贈与は非課税で、相続税対策として利用されることもあります。しかし『毎年110万円ずつ10年間渡す』といった計画的なケースは“連年贈与”と判断され、一括で贈与したとみなされて贈与税がかかることが。そのため、贈与契約書を作成したり、贈与の時期や金額を毎年変えたりするなどの工夫も大切。
また、亡くなる前7年以内に贈与した財産は相続財産に加算され、相続税の対象に。従来は3年以内でしたが、制度が変わり、’27年以降の相続から加算期間が段階的に7年に延びていきます。生前贈与を活用する際には、条件などの漏れがないよう、税理士などの専門家へ相談を」
生命保険は相続税の節税に使えますか?
ひとり500万円の非課税枠があるが、資産状況もあわせて検討したい
生命保険は、相続税対策として活用されることがある。「受取人が法定相続人なら、『500万円×法定相続人の数』の死亡保険金の非課税枠があります。法定相続人が3人なら、1500万円までの死亡保険金であれば相続税の対象となる財産を減らせるので、相続税の節税に。
ただし、高齢で保険に加入すると保険料が高くなりがちな点には注意。また、資産額や法定相続人の人数によっては、そもそも相続税の支払いがない場合もあるため、こちらも税理士などの専門家に相談すると安心」。
Column
税務調査、どんな場合に入るのですか?
資産規模3億円が目安。不自然な点があれば誰にでも可能性あり
税務調査とは、国税庁や税務署が、納税者の申告内容に誤りや不正がないかを確認するもの。
「税務調査が入る基準は公表されていませんが、相続の場合は、相続財産が大きいケースほど対象になりやすいといわれてます。一般的には、資産規模3億円くらいがひとつの目安でしょう。
ただし、申告内容に不自然な点があったり無謀な節税を行ったりすると、資産が大きくなくても確認を受ける可能性があります。『これくらいならわからないだろう』という申告でも、税務のプロはお金のやりとりの違和感には気づくもの。相続税は、税理士の間でも特にむずかしい分野といわれるため、相続を専門とする税理士に相談し、適切に申告することが大切です」。
取材・原文/西山美紀 イラスト/松井琢朗 ※エクラ2026年10月号掲載