大切な人との会食や、気の利いたおもてなしの席には、料理はもちろん、空間やサービスにもこだわった店を選びたいもの。次の会食にぜひ予約したい、東京のイタリアン、フレンチ、スペイン料理の名店を厳選。落ち着いた大人の時間を楽しめる6軒をご紹介します。
イタリア料理店
『銀座И(ENU)』(銀座エヌ)
イタリアンの人気店「TACUBO」の銀座初進出が話題だ。名店がひしめく7丁目のビルでインターフォンを押し、2階へ上がると、そこから非日常の時間が始まる。白で統一されたシックな空間にはわずか8席のカウンター。メニューはアラカルトのみで、その日に届く食材に合わせて内容が少しずつ替わる。厨房に立つのはイタリアのミシュラン星つきレストランで研鑽を積み、「リストランテ山㟢」で料理長も務めた矢島直樹シェフ。どの料理からも食材の香りが立ちのぼり、それぞれの個性が見事に響き合う。味を重ねるのではなく、素材の組み合わせによってその持ち味を引き出していくのが真骨頂だ。ある日の魚の前菜は、産地直送のカマスの皮目だけを香ばしく炙(あぶ)ったカルパッチョ。合わせるのは、伝統的なパスタソース「プッタネスカ」を軽やかに再構築したソース。カマスの凝縮したうま味とみずみずしさを鮮やかに引き立てる。夕方からゆっくり料理を楽しむのはもちろん、観劇の帰りにワインと前菜、パスタを味わうのもよし。フランスの銘醸ワインをグラスで楽しめるのも魅力的。
シェフとの会話を楽しめるカウンター。店内は照明の陰影でシックなグレージュ色に
さわやかな笑顔の矢島直樹シェフ。元野球少年
東京都中央区銀座7の11の14 GINZAカムイビル2F
☎03・6263・8322
17:00~翌01:00LO(月~水曜)、17:00~21:30LO(木~土曜、祝日)
定休日:第2・第4土曜、第3水曜 臨時休業あり
完全予約制
photography:Masahiro Goda text:Mika Kitamura ※エクラ2026年9月号掲載
『CAiTO』(カイト)
定番の前菜「フォアグラのフラン」
『カイト』は、全8席のカウンターだけのイタリア料理店。日本の食材で料理を組み立てていくという内田恒太シェフ。手法や調味料はイタリアンだが、かぎりなく日本の四季を感じられる料理が登場する。
可憐なペンタスの花をのせたカンノーリには、いぶりがっこをしのばせたフォアグラのフランが詰められている。フランのなめらかさ、ピスタチオのカリカリ感と香ばしさ、カンノーリのパリパリした口当たり、下に敷いたナスタチウムの葉のピリリとしたほろ苦さ。さまざまな食材の風味と食感をバランスよく組み合わせた妙味だ。
緑のサラダにはドレッシングを使わない。無農薬・無化学肥料でハーブ&野菜を育てる千葉「苗目(なえめ)農園」から仕入れた野菜のほろ苦さと軟らかなえぐみが脳を刺激し、体に溶け込むよう。箸休め的な小さなお皿にもかかわらず、記憶に残る味わい。
お酒とのペアリングも巧みで、ワインはイタリア産がメインだが、前出の緑のサラダにはフランス産ハーブ酒「シャルトリューズ」を合わせる。その重層的なコース仕立てを楽しめる大人同士で訪れたい。
カウンター席の前に少し高めのキッチンカウンターが。ゲストは料理するシェフの姿を眺めつつ、スタッフとの会話もはずむ。
このカウンターで温かなスープをいただき、食材や料理の説明を受けるアミューズタイムが好評
内田恒太シェフ。高校まではサッカーに夢中。イタリアのサッカーチーム「インテル・ミラノ」の大ファン。その影響でイタリアンのシェフに
東京都港区西麻布1の4の22 PRESTIGE B1F
☎03・6432・9950
土曜のみランチあり、12:00一斉スタート。ディナー、18:30一斉スタート
定休日:日曜、不定休
photography:Masahiro Goda text:Mika Kitamura ※エクラ2026年6月号掲載
『da Olmo』(ダ・オルモ)
大規模な再開発にわく麻布台で、2025年、13年の歴史に区切りをつけた『ダ・オルモ』。オーナーの原品(はらしな)真一さんが、2月の再始動にあたり掲げたのは「変わらぬ」価値の追求だ。移転先は、旧店舗から徒歩数分。アラカルト、コースともにそろえるメニューも、熟成に重きをおくナチュラルワインの提案も以前のままだ。
「長く店を育ててくださったお客さまに、これまでどおりくつろいでいただくことが第一」と、原品さん。「ゲスト・ファースト」を徹底し、コンセプトではかなえられないレストランの形を守り伝える。
厨房は新料理長・奥野木隆介さんが率いる。「イタリア料理ならではの地域性、素材の味わいに軸足をおき、その上に自分なりの表現を重ねていきたい」と、意欲的だ。火入れの着地点で決める野菜の味、削ぎ落としたプレゼンテーションできわだたせる肉の火入れの妙など、焦点の定まった料理はすでに安定感十分。話題性を抜きに語れないレストランだが、変わらぬ価値を時代がどう映すか。ともあれ、派手さはなくとも信頼に足る一軒を、という機会にぜひおすすめしたい。
「タリオリーニ 蛸のラグーと木の芽」鮮烈な木の芽の香りが季節を伝える
原品さんは、イタリアのナチュラルワインをその黎明期から扱うソムリエのひとり。一部愛好家には垂涎(すいぜん)のワインがセラーに並ぶ
ワイン生産者のサインが彩る壁を背景に、新旧スタッフ混合チームで。中央が原品さん、右隣が奥野木シェフ
東京都港区虎ノ門5の3の3 神谷町プレイス2B
☎︎03・6432・4073
11:30~14:00LO、18:00~21:00LO
定休日:月・火曜(ほか不定休あり)
photography:Masahiro Goda text:Kei Sasaki ※エクラ2026年5月号掲載
フランス料理店
『 Girandole by Alain Ducasse 』(ジランドール バイ アラン デュカス)
約1年半の改修期間を経て、再オープンした「パーク ハイアット 東京」。特に注目したいのが味、雰囲気ともに定評のあるブラッセリー『ジランドール by アラン デュカス』。スターシェフであるアラン・デュカス氏とのコラボレーションという、大きな期待を背負っての幕開けになった。インテリアも料理もオリジナルスタイルを大事にしつつ、モダンさを加え、細部まで本物にこだわることで洗練度の高さをきわだたせている。アイコンでもあったフォトコラージュはそのまま、店内はボルドーカラーを基調にして落ち着いた空間に。デュカス氏自らコレクションしていた銀のアンティークプレート&カトラリーがテーブルを彩る。
料理は食材の質を上げ、料理人の技によって伝統的なメニューの充足感はそのまま、食後感の軽快さが心地よい。例えばラビオリはコンソメが主役。ていねいに雑味を除いて仕上げたコンソメをテーブルで温め、ハーブの香りを移すことで、ゲストに香りも満喫してもらう。体に優しいクラシックな料理とエレガントな店内。このホテルの品格を象徴するようなお店になっている。
「鴨フォアグラのラビオリ 牛肉のコンソメ仕立て」ハーブの香りのコンソメが主役
「和牛フィレ ポムアンナ ボルドレーズソース」ソースのバターをギリギリまで減らし、キレのよさを目ざす
2方向の窓からの絶景を望む半個室。ゲストのにぎわいを感じつつプライベートな時間を楽しめる
パリでの研修もこなした堤耕次郎料理長
本の蔵書票がモチーフのアートを飾った2名席。個室感覚の心地よい空間
東京都新宿区西新宿3の7の1の2 パーク ハイアット 東京41F
☎03・5323・3005(レストラン予約専用10:00〜18:00)
12:00〜14:30LO、17:30〜20:30LO
Photography:Masahiro Goda text:Mika Kitamura ※エクラ2026年4月号掲載
『TROIS VISAGES(トワヴィサージュ)』
ゆでたポワローの下には、シマアジのタルタル。火入れしたポワローをビネグレットでいただくフランス家庭料理をレストランの味に
ポワローねぎのすがすがしい緑色、鹿児島産辺塚(へつか)だいだいと、摘みたてのハーブのさわやかな香り。銀座の一角で、太陽や土、風の香りをまとうフランス料理に出会える幸せ。國長亮平シェフのインスピレーションのもとは、自ら耕す畑と、休みに通う全国の生産者さんたちだ。千葉・鴨川にある農園で2週間に一度、農作業に勤(いそ)しむ。収穫した野菜に合わせるのは、畑の周囲に実る柑橘類や自生するハーブ類。同じ土地で同じ季節に育つ食材同士はぴったり寄り添うのだという。畑に通うシェフだからこそ、規格外として廃棄される食材にも目が向く。フードロス対策に、そんな食材を利用したパスタやカレーなどをリーズナブルなお値段で月に一度、平日ランチの営業をする。廃棄されてしまう経産鶏(川俣軍鶏)は、鶏と水と塩だけで滋味深いコンソメに。「見過ごされてきた食材に光を当て、新しい活用法を見出し、おいしい料理に仕立てるのも私の仕事」とシェフ。’25年、ミシュランガイドブックで一ツ星とグリーンスターをW受賞した。食の未来に関心を寄せるシェフのていねいな仕事ぶりに注目したい。
神経締めをされた金目鯛のうろこをパリパリに焼き上げ、赤ワインのソースと
國長亮平シェフ。3年前からミシュランガイドの一ツ星を獲得。名店「ル・マンジュ・トゥー」で9年間働き、フランスで経験を積んで帰国
畑のハーブや森の木々の葉をあしらったウエルカムボウル。カウンター席から厨房が見渡せ、料理人たちの一挙一動は臨場感あふれる。この空気感もごちそう
東京都中央区銀座7 の16 の21雲ビル1F
TEL.03・3544・5205
18:00〜20:00LO(土曜のみランチ12:00〜13:00LO)
定休日:日・月曜、祝日
スペイン料理店
『KONEXIOA』(コネクショア)
「ピンチョス盛り合わせ」。左上から時計回りに、アジとメルメラーダ、青とうがらしオリーブとアンチョビ、シェーブルとドライトマトとアーティチョークほか。
ガラス張りと吹き抜けの開放感が格別な一軒家は、オリーブの木が彩るアプローチを抜けた先に立つ。都心のレストランでは類を見ない贅沢なつくり。テーブル席に加え、厨房に面したシェフズカウンターや個室と、しつらえも多彩だ。
新橋の路地裏、わずか8席のスペイン料理店「ティキ プラカ」で食通をわかせた八谷玲美(はちやれみ)シェフの新天地。立地も席数もがらりと変わったが、タパス、ピンチョスのクリエイションで魅せるスタイルはそのまま。サラミやアンチョビの塩気や凝縮感、オリーブや青とうがらしの酸味や香り、日本の野菜や魚介の滋味の組み合わせは巧みだ。ひと口の美味が連なるバスクの味を導入に、スペインの食時間へと誘われる。
日本人にもなじみ深いパエリアや、塩と火入れでスペインならではの味を表現する肉料理まで、現地に幾度も足を運び磨き上げた味だが、押し付けがましさは皆無。スペイン料理と気負わずにくつろげるのが魅力だ。一方で、チャコリを筆頭に選択肢豊富にそろうスペインワインのセレクト、提案も秀逸で、コアなスペイン料理好きも満足できる。
滋賀県の精肉店「サカエヤ」から仕入れるキタノあか牛のロースト。香ばしさと赤身の味がワインを呼ぶ
日本米で炊くパエリア(写真の魚はアイナメ)
ワインにも造詣が深いシェフの意向を反映したセレクト
「チームでの仕事が楽しい」と八谷シェフ
2階から見たダイニング。夜は、カウンターのバー利用もウエルカム
東京都目黒区下目黒2の23の3
☎03・6812・3130
12:00~14:00LO、17:30~21:30LO
㊡日・月曜
photography:Azusa Hasegawa text:Kei Sasaki ※エクラ2026年7・8月合併号掲載