帝国ホテル 京都 総支配人 坂田玲子さん「誰もが文化と伝統の継承者である街。歴史と人に学び、世界に誇れるサービスを」【エクラ トップリーダーズvol.16】

日本が誇る古都にして最先端の文化交流都市、京都。歴史と伝統。人と人との信頼の絆。一朝一夕には築けない貴重な財産の継承に、果敢に、かつ誠実に取り組もうとする若きトップリーダーがいる。帝国ホテル 京都 総支配人 坂田玲子さんは日々、出会うゲストに心から向き合い、その声を聞きながら進化しつづける。新たなステージを得て、初志が再び輝きはじめた。

帝国ホテル 京都 総支配人 坂田玲子さん

黒いスーツに身を包んだ女性が、帝国ホテルの入り口前に立っている。背景には、幾何学模様の天井と、ホテルの銘板が見える。

弥栄会館時代から何万人もの顧客に親しまれてきた意匠が残る正面玄関で。隣接する祇園甲部歌舞練場から三味線や鼓の音が届くことも

profile

’03 東京女子大学現代文化学部卒業後、株式会社帝国ホテルに入社。婚礼部門、会員顧客部門に勤務。
’20 人事部人事課副支配人を経て、東京営業部宴会予約課課長に就任。
’22 慶應義塾大学大学院経営管理研究科に入学。'24年3月、経営学修士(MBA)を取得。
’24 12月より、プロジェクト推進部の京都開業準備室室長に。
’25 「帝国ホテル 京都」総支配人に就任。'26年3月5日にホテル開業。

顧客に育てられ、今がある。祇園で仕事の原点を再確認

京都の春の風物詩「都をどり」の舞台、祇園甲部歌舞練場に隣接する弥栄(やさか)会館。1936(昭昭和11)年竣工の京文化のレガシーともいえる建造物が、今春、「帝国ホテル 京都」として再び時を刻みはじめた。

東京、上高地、大阪に続いて30年ぶりに開業する新しい帝国ホテルの総支配人に指名されたのは、当時44歳だった坂田玲子さん。「正直、驚きました」と、受任時の心境を吐露する。

「国際文化都市の京都で開業することは、会社にとって長年の夢。そのような重大プロジェクトに若輩の私が、と思いましたが、同時に『やりたい』という気持ちもわきました。グローバルにお客さまをお迎えし、世界に帝国ホテルを発信するアイコンとなるホテルにしたいと」

なんといっても、ここは祇園の中心。お茶屋や芸事に携わる人からの出資で建てられた弥栄会館は、400年にわたってこの街で伝統と文化を継承してきた人々の思いのこもった場所である。

「弥栄会館の姿を大切に受け継ぐため、1万6千枚ものタイルを手作業で修復、再利用し、ていねいに改修を行いました。全55室とコンパクトですが、この規模だから実現できる、よりパーソナルでフレンドリーなサービスを心がけています」

手本は、やはり街に根づいたホスピタリティ。その継承者であり体現者であるお茶屋の「女将さん」たちとの日々の交流は、「励ましていただくことばかりです」と坂田さんはしみじみという。

「女将さんがたは、お客さまのお好みを完璧に把握しておもてなしするスーパー・コンシェルジュ。そちらを舞台とする芸妓さん、舞妓さんたちも、お座敷に出るために毎日、稽古に励んでおられます。京舞はもちろん、三味線、能、華道、茶道など、一人ひとりが日本の伝統芸能の継承者として、勉強しながら仕事をしている様子には、本当に尊敬の念しかありません。しかも、女将さんたちは、よくこうおっしゃるんです。お客さまが育ててくださるんだと」

それを聞いて、坂田さんはふと自らの原点を振り返った。幼いころから人に喜んでもらうことが好きで、自然とホテル業界を目ざし、入社後は帝国ホテルが提供すべきサービスの追求に取り組んだ。

「例えばお客さまからご指摘をいただくと、宿泊部からレストラン部まですべての部署で原因までさかのぼって検証し、一件一件、誠実に改善に向けて動きます。つまりは、私たち帝国ホテルのサービスは、そうしてお客さまに育てていただいてきたんだと……。祇園に来て、そのあるべき姿が間違っていないと実感し、答え合わせをさせていただけた思いです」

仕事一途でとにかくゲストの役に立ちたいと、かつては「とがっていた時期もあった」という坂田さん。しかし、目ざすリーダー像にも、変化が生まれた。

「今は、いきいきと働くスタッフの働きぶりをお客さまからほめていただけることが、なによりの喜びです。私自身も、もっとこまやかに、でも、おおらかに……お客さまから教わったことを、また次の世代につなげていきたいです」

茶色い木製のテーブルに置かれた、手書きの日本語の文字が書かれた白い紙が数枚散らばっている。紙はそれぞれ異なる角度で置かれ、文字は縦に書かれている。

折に触れ読み返すのは、課長昇進時に教師である父から届いた手紙。〈接する方々に尊敬の念をもち 教えていただきながら職責を全うするように〉の一節は、祇園での学びにも通じる

金色の装飾的なブローチ。長方形の枠の中に、繊細な模様が施されたデザインが配置されている。表面は光沢があり、背景の質感のあるベージュの布の上に置かれている。

弥栄会館の外壁を今も彩る宝相華(ほうそうげ)紋様をピンバッジに。スタッフが胸に掲げ、この場所に宿る思いを未来に伝える

紺色のスーツを着た女性が、ベージュのソファに座ってこちらを見ている。背景には木製の仕切りと窓がある。

「会話しながらご要望を引き出していきたい」と、お迎え時など対面の機会を大事に

motto

白背景に、中央に青色の日本語の文字「一期一会」が手書き風のフォントで書かれている。

かつて東京で婚礼を担当した顧客が宿泊客として来訪するなど、うれしい経験も。「ひとつひとつの出会いを大切に、『また来たい』と選んでいただける場所にしていきたいです」。

エクラ トップリーダーズ 連載一覧

photography:Makoto Ito text:Michiko Otani ※エクラ2026年10月号掲載

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