エクラの美容記事でもおなじみのライター・山崎敦子がお届けする韓流ドラマナビ。今回は、韓国の社会背景も映した良作『韓国でビルオーナーになる方法』をご紹介。
巻き込まれ型サスペンス『韓国でビルオーナーになる方法』
© STUDIO DRAGON CORPORATION
パク・チャヌク監督の話題作『しあわせな選択』(映画)は、もうご覧になりましたか。主人公(役名はユ・マンス)は、イ・ビョンホン演じる突然のリストラで職を失ってしまった中年男性。かわいい2人の子供たちと美しい妻(ソン・イェジン)、庭のある邸宅には2頭のレトリバーまでいる暮らしを死守しようと奔走するのですが、再就職というハードルは城壁のように高く……。絵に描いたような幸せな生活が崩壊していくのを目の当たりにしていく主人公は、いったいどんな選択をするのか。ということで、人間の哀しさ、愚かさ、そして、たくましさをパク・チャヌク監督お得意のブラックユーモアで綴ったこの作品。大笑いしながらも、妙に身につまされると申しましょうか。
背景には韓国の40~50代男性が抱える過酷な現実が
というのも、その背景。韓国の40〜50代、つまりはエクラ世代の男性が抱えている過酷な現実があります。マンスのように働き盛りの50代前後で退職を迫られるケースは韓国では特別なことではなく、ドラマ『ソウルの家から大企業に通うキム部長の物語』(主演のリュ・スンリョンが第62回百想芸術大賞の大賞を受賞)でもそうであったように、かなり一般的なことらしい(思えば『イカゲーム』のギフンもそうでしたね)。韓国に行ったことがある人はお気づきかと思いますが、町を歩くとやたらとチキン屋さんに遭遇します。実は韓国のチキン店はフランチャイズが主流で、初心者でも開業しやすく、早期退職した40〜50代が手っ取り早く次の食い扶持として選択できる受け皿的存在になっているらしいのです。韓国チキン(特にチメク♡←チキン×ビール)は、美味しいけれど、そんな裏事情もあったなんて、ちょっと複雑な気分というか。
さて、そういった雇用の不安定さに身を置きながら、教育費は爆上がりだし、住宅費用も高騰を続けているし、相変わらずの就職難だし、老後の年金は当てにならないし(日本の事情とかなり重なりますが)、金銭的に追い詰められてしまう層も少なくないらしい。なのに、生活水準を落としたり、どんな仕事でもいいからとがむしゃらになったりするには、培ってしまったプライドが高すぎる……。
爆笑とアクシデントの連続で、どんどん深みにハマる展開
主演のハ・ジョンウ © STUDIO DRAGON CORPORATION
でもって、このドラマ『韓国でビルオーナーになる方法』です。主人公のキ・スジョン(ハ・ジョンウ)もまた、40代の働き盛りです。大手企業の人事部に勤めていながら、リストラを繰り返す会社にやるせない思いを感じていたところに、学生時代からの親友ファルソン(キム・ジュンハン)から、ビルオーナーになる話を持ちかけられます。ファルソンによれば、そのビルは小さくてさびれてはいるものの再開発計画の予定地域に入っているとのこと。スジョンは迷わず、リストラ対象者の同僚に代わって会社を辞め、その退職金を注ぎ込み、さらには、優しく誠実な義弟の刑事ギュン(演じているのはキム・ナムギル!)に借金するなどして、なんとかビルオーナーとして新たな人生を開始するわけなのですが……。
ドラマ自体は、その9年後から始まるのですが、スジョンはかなりくたびれた中年として登場。ビルは再開発予定地ではなく、多額の借金を抱えてその返済ににっちもさっちも行かなくなっている様子なのですね。挙句にリアルキャピタルという怪しげな会社からビル差し押さえの警告。どうやら借金の債権がその会社に譲渡された模様なのです。このままでは生活が立ち行かなくなるスジョンは、リアルキャピタルに掛け合いにいくのですが、担当らしきヨナ(シム・ウンギョン)は、見た目は華奢でありながら、かなりヤバげな女子。きな臭いものを感じたスジョンは、義弟の刑事ギュンに相談するも、独自に調べ始めたギュンはトラックの轢き逃げに遭い、あっけなく亡くなってしまうのです!
ハ・ジョンウ(左)、妻役のイム・スジョン(右)、娘役のパク・ソギョン(中) © STUDIO DRAGON CORPORATION
そんななか、スジョンはファルソンにある話を持ちかけられるのですが、それは、なんとファルソンの妻の誘拐! ファルソンは、不動産業を営む地元の資産家ヤンジャ(キム・グムスン)の一人娘イギョン(クリスタル)と結婚するも、自分の事業はやることなすこと上手くいかずに高利貸しに手を出して、スジョン以上に崖っぷち状態だったのですね。義母に肩代わりを頼もうにも、金儲けしか頭にない非情な義母には頭が上がらず、死んでも頼めない。ということで、妻の偽の誘拐事件を計画、義母からまんまと身代金を奪おうという企みなわけです。ファルソンが薬で眠らせた妻のイギョンをスジョンのビルの地下倉庫に運び込む最中に、鉢合わせしたスジョンが誘拐への加担を持ちかけられたという次第。家には尻に敷かれがちだけど最愛の妻ソン(イム・スジョン。第62回百想芸術大賞の助演女優賞をとりましたね〜)も、耳に障害をもつ米国の大学受験を控えた娘のダレ(パク・ソギョン)も待っている。下手なことには絶対にならないというファルソンの言葉を半信半疑に聞きながら、ビルと家族を守るために、スジョンは、その誘拐に加担することにするのですが……。
ということで、つまりは巻き込まれ型サスペンス。ドラマ序盤に起こるこの誘拐事件の部分は、2人とも犯罪の素人ということもあってか、それこそ予想のつかないアクシデントの連続で、思わず爆笑してしまうシーンも多々なのでありますが、いや〜、笑っている場合ではないのですよ、これが。その誘拐事件を発端に、妻のソンやファルソンの妻イギョン、義母のヤンジャ、さらにはビルの店子のカフェ店長(ヒョン・ボンシク)や不動産仲介業者の女だったり、近隣の高齢ビルオーナーだったり、挙句に暴力団ばりの高利貸しやリアルキャピタルも入り混じり、どんどんどんどん人が死んでいくのですね。スギョンは、ドラマは、どこへ行こうとしているのか、それこそ全くもって予測不能なアクシデントの連続……。でもって、そっちはダメだろうという選択ばかりを繰り返し、そのたびに辛うじてなんとかきり抜けているスジョンに、果たして、そのビルを、そして家族を守ることはできるのか〜〜!?
ファルソン役のキム・ジュンハン(右)と、その妻役のクリスタル(左) © STUDIO DRAGON CORPORATION
どんどん深みにハマっていくようなジリジリとストレスたまる展開なのではありますが、それを演じている俳優陣が単なるいい人だけでない一癖も二癖も三癖もありながら、なぜかマンス(映画『しあわせな選択』の主人公)同様憎めない。主演のスジョンを演じたハ・ジョンウは、ご存じのごとく韓国映画界を代表するトップスター。飄々としながらも、いろんな想像力を掻き立たせる存在感は彼独特で、一体スジョンは賢いのかアホなのか、いい奴なのか腹に一物ありなのか、何を望んでいるのかいないのか ──、もう、最初から最後まで観るものを煙に巻くがごとく揺さぶりながらも味方につけちゃう不思議な吸引力なのですね、これが。『パイン ならず者たち』の悪女役も素晴らしかったイム・スジョンが演じる妻ソンは、単なる良妻賢母に終わらないたくましさと品の良さのバランスが絶妙で、何があろうがソン>スジョンという力関係のおかしみを説得力もって演じているし。
そして、ファルソン役のキム・ジュンハン! 『賢い医師生活』では主演のチョン・ミドに片想いする誠実な脳神経外科医でしたが、今回はどちらかといえば、ぺ・スジ主演『アンナ』の夫役寄りの悪キャラ。なのですが、義母にも妻にも一段も二段も低く見られる男の哀愁漂うスレギ(クズ)っぷりが絶品で、そんな彼の最後の最後の選択も、必ず見届けてほしいというか。ということで、さてさてハ・ジョンウ演じるスジョンの選択はどうなるのか? しっかりと確認してほしいと思う所存です。
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