自分らしく生きる女性への賛歌。『プラダを着た悪魔2』を映画・海外ドラマ評論家の今 祥枝さんが深堀り!

映画『プラダを着た悪魔2』が大ヒット上映中。前作から20年の時を経て、時代は大きく変わった。そんな中、劇中で描かれるファッションや“働く女性像”はどう変化した? 映画・海外ドラマ評論家の今 祥枝さんが独自の視点から、映画の世界を深く読み解く。

“自分らしく生きる”女性に向けた賛歌

文・今 祥枝(映画・海外ドラマ評論家)

『プラダを着た悪魔2』

約20年にわたり報道の現場で走り続けてきたアンディ(アン・ハサウェイ)が、たった一通のメールで職を失う。今作はあまりにあっけない幕開けだが、デジタル化と効率化が進む今の時代を思えば決して絵空事ではない。かつて絶対的な存在だったミランダ(メリル・ストリープ)ですら、その地位が揺らぎかねない状況に置かれているのだから、時代の流れは容赦がない。それでもなお、この物語は確かに女性たちをエンパワーする作品である。

とりわけ終盤は、まるで人生の節目に射し込まれる光のような言葉が連なる。アラフィー世代にとって忘れがたいのが、ミランダがアンディに本音を吐露するシーンだ。

プラダを着た悪魔2

ミランダは人生の大半をファッション誌『ランウェイ』に捧げてきた。子供たちの成長を見逃し、家庭を犠牲にし、周囲にも高いものを求めてきた生き方は、誰からも称賛されるものではなかったかもしれない。しかし、キャリアの終わりをこれまでになく身近に感じている今だからこそ、彼女は自らの人生を振り返り、「それでも仕事が好きだった」という思いを伝える。演じるメリル・ストリープの、なんともいえない複雑な表情は、穏やかで満ち足りつつ、わずかに寂しさを帯びている。そんなミランダの胸の内を思うと、思わず熱いものがこみ上げてくる。

今の時代、女性が家庭とキャリアの両立を望むのは自然なことだ。しかし、それを実現するには、想像以上の努力と葛藤が伴うこともまた事実である。時代がどれほど変わっても、女性として生きる中で直面する困難は、形を変えながらも確かに存在しつづける。だからこそ、過ちも後悔も引き受け、「それが私」と言い切ることができる今のミランダは、むしろ以前よりも自由で、揺るぎない強さを宿しているように感じられる。

『プラダを着た悪魔2』

人生もキャリアも折り返し地点を過ぎると、不安や迷いに心が揺れる瞬間は誰にでも訪れる。そんなときは、恐れずに自分の人生を真摯に振り返り、そのすべてを肯定すること。この自己肯定感を得る過程が、全力で人生を駆け抜けてきた大人の女性に必要な心のメンテナンスであり、最大の癒しにつながるのではないだろうか。


アンディもまた、ジャーナリズムへの矜持を胸に、変わりゆく時代を受け入れながら、今の自分に与えられた環境の中で希望を見出し、前を向く。かつては孤高だったミランダも、今作ではアートディレクターのナイジェル(スタンリー・トゥッチ)を頼り、アンディを受け入れ、そして私生活には信頼できるパートナーの存在もある。20年前にはもちえなかった“関係性”に、しっかりと支えられている。


したたかに、しなやかに変化を受け入れ、自分らしく生きる──『プラダを着た悪魔2』が伝えているのは、そんな女性たちへの賛歌である。

今 祥枝(映画・海外ドラマ評論家)
映画や海外ドラマを専門に、多数の媒体で連載・寄稿を行う。’23年よりゴールデングローブ賞の国際投票者も務めている。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP)がある。

Information

『プラダを着た悪魔2』

『プラダを着た悪魔2』
ファッション業界のアイコンである編集長ミランダ(メリル・ストリープ)と、その右腕ナイジェル(スタンリー・トゥッチ)がある危機に直面したとき、元アシスタントのアンディ(アン・ハサウェイ)が再び『ランウェイ』編集部へ戻ってくる。元同僚のエミリー(エミリー・ブラント)とも再会するが……。前作から20年、成長を重ねた彼らの今を見逃さないで!
監督/デヴィッド・フランケル 配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

写真協力/ Getty Images ※エクラ2026年7・8月合併号掲載

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