この一年間に出版されたなかから、文芸評論家・斎藤美奈子さんが注目する本を世の中の動きとともに解説。今回は昭和100年という節目の年に読みたい、大人の必読本を厳選してご紹介。
さいとう みなこ●’56年生まれ。’94年『妊娠小説』でデビュー。’02年『文章読本さん江』で小林秀雄賞を受賞。著書に『ラスト1行でわかる名作300選』(中央公論新社)、『絶望はしてません ポスト安倍時代を読む』(筑摩書房)など多数。
「この一年を振り返るにあたり“戦争”ははずせませんね。ここでいう戦争には2種類あって、昭和の戦争と今起きている戦争です」と斎藤さん。
「前者に関しては戦後80年を作家たちが意識したのか、長編小説がたくさん出ました。後者に関しては今日の複雑な国際関係に呼応して、戦争をどう考えるかに言及した本が増えました。知識をアップデートする必要性を痛感します」
スマホが普及してSNSなどに時間を使うことが増えた今。AIの急速な発達もあり、私たちの生活はさらなる変化を余儀なくされそうだが、そんな中、本や読書はどうなっていくのだろうか。
「SNSの情報やAIの生成物にも意味はあると思いますが、本当の意味での血肉にはなりにくい気がします。小説のような“よけいな枝葉があるもの”は、コスパやタイパは悪いかもしれませんが、あとあと“効いてくる”ことがある。だからこそ読書は特別なんだと思います」
昭和100年という節目の年。“戦争小説”の力作が話題に
(右から)
『普天を我が手に』
第一部~第三部
奥田英朗
講談社 第一部〜第三部 各¥2,695
『13月のカレンダー』
宇佐美まこと
集英社 ¥2,200
「いつも世界のどこかで起きている戦争。当事国でなくても影響を受けるので、戦争はずっとある問題だといえます。今年は昭和元年から数えて100周年にあたるせいか、昭和に焦点を当てた大作が多く、それらは必然的に戦争を描くことに。奥田英朗さんの『普天を我が手に』はスピーディな展開でリーダブル。生まれも目ざす道も違う4人を視点に、昭和史のトピックスを入れながら進んでいきます。宇佐美まことさんの『13月のカレンダー』は広島の被爆者それぞれに物語があったことを想像させ、記憶の継承の大切さが伝わってくる。これらからわかるのは、物語でしか表せない戦争の側面や真実があるということ。小説の役割はやはり大きいですね」
今起きていることを知っておくべし! “現代の戦争”を紐解く専門書の新傾向
(右から)
『13歳からの戦争学』
小川和久 アスコム ¥1,870
『14歳からの非戦入門』
伊勢崎賢治
ビジネス社 ¥1,870
『Z世代は戦後初めて銃をとる世代になるかもしれない』
丹羽宇一郎 東洋経済新報社 ¥1,980
「戦後80年がたち、ただ“戦争反対”というだけで大丈夫かなと思う人もいると思う。だからこそ知っておきたいのは“今の戦争”。『13歳からの戦争学』を読むと世界の勢力図が変わり、情報戦やドローン攻撃など戦い方も変わってきたことがわかる。元中国大使の経済人が若者に警鐘を鳴らしたのが『Z世代は戦後初めて銃をとる世代になるかもしれない』。タイトルの理由を広い視野から説明し、タイムアップが迫っていると訴えています。『14歳からの非戦入門』は国連などで紛争処理に携わった著者が説く日本が歩むべき非戦への道。どの本も若い人向けですが大人のニーズも大。“むずかしい問題だからわかりやすく”という書き手の強い思いを感じます」
撮影/大木慎太郎 スタイリスト/洲脇佑美 取材・原文/山本圭子 ※エクラ2026年9月号掲載