人ごとに個性や背景、意思は異なる。だからこそ、出会い、理解し合えば、リスペクトが生まれる。国境や言葉、属性の壁を超えて、アカデミーとこれからの社会のあり方を見据え、実践するリーダー。理想を問うその声は、向き合う者の胸にストレートに響く。
法政大学総長 ダイアナ・コーさん
九段校舎の総長室で。「総長の椅子に座ることになるなんて、夢にも思わなかった。信任投票のあとも3週間はよく眠れませんでした」
profile
’85 香港大学大学院社会学研究科修士課程修了。渡米。’87年よりスタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程、博士課程に学ぶ。
’94 来日。法政大学海外招聘研究員を経て非常勤講師として英語を教える。’99年、第一教養部専任講師に。
’08 教養部助教授、法学部助教授、同教授を経てグローバル教養学部教授に就任。のちに同学部長。
’21 グローバル教育センター長、副学長・常務理事(ダイバーシティ推進、男女共同参画推進、グローバル教育センター、ハラスメント相談室担当)を兼任。
’25〜 現職。
いつでも自分のままで本音の言葉を発し続けたい
総長就任を祝った親友のメッセージと父が使ったモンブランのボールペンを、手帳とともに携帯。木製のハートのチャームも友人から。「初のあいさつも、これを握っていたので緊張しませんでした」
開学以来の進取を尊ぶ校風。大学憲章に「自由を生き抜く実践知」を掲げた教育。各種スポーツの伝統的強豪校としても知られることから男子が多いイメージのある法政大学だが、現在の女子学生比率は42%と、東京六大学の中でも高い。その組織のリーダーが歴代ふたり目の女性総長、ダイアナ・コーさん。社会学者である。「国際文化や福祉を学ぶ学部に加え、’08年にはグローバル教養学部が創設され、女子学生が増えて雰囲気は確かに変わりました。でも、教員の女性比率はまだ24%ですし、女性の学長、総長は全国でまだ13・7%。女性政治家も同じような割合だといいますから、このあたりが日本の“ガラスの天井”でしょうか」
イギリス統治期の香港に生まれ、のちにアメリカへ渡ってジェンダー、セクシュアリティを研究。西洋視点に偏らないアジア人としてのフェミニズムを究めたいと、’96年、学びの場を日本に定めた。
「当時は欧米人がアジアを研究し、英語で論文を発表していました。でも、それを変えなければならないと思った。アジアにはアジアの、日本には日本の文化の中で考えるべきフェミニズムがあって、私たち自身が概念や理論をつくり、それを発信していくべきなんだと」
専任教員となってからは、研究と並行して学内のグローバル化とDEI(Diversity, equity & inclusion。多様性、公平性、包摂性を示す)推進にも注力。担当理事として取り組んだ、多様な学生が安心して学ぶ環境を整えるための包括的な「DEIセンター」の設置は、他大学に先駆けた事例である。
「私にしても、女性であり、外国出身という2つのカテゴリーに属している。性自認など、さらに複合的な背景をもつ学生への相談体制をつくり、ワンストップで解決できる場所があったらいいんじゃないかと。ハードルは高いとわかっていましたが、私、何事も重く考えないほうなんですね(笑)。『やってみよう』『だめなら別の方法を考えればいい』と」
学内に新風を吹き込む施策は、日々のコミュニケーションから生まれる。総長として訪れた場所で感じたこと、出会った人との対話から学んだことなどを自身の言葉で率直に発信するコラムは、大学ウェブサイトの人気コンテンツだ。
「子供のころから場所によって異なる自分を見せることが苦手で、一貫性がないとストレスを感じるんです。だから、いつも本音。ある職員に『先生のそういう物事の見方を私たちはもっていない』といわれたとき、『皆さんのもつセンスを私はもっていないんですよ』と返しました。それぞれに声があり、私も私の声をもっている。チームワークだから、それを合わせていけばいいんですよね」
就任2年目となった現在の目標は、学内施策のさらなる充実に加え、他大学と連携を深めていくこと。その視座は高い。
「学内だけだと効果は限られますが、連携すれば日本の社会全体を動かすこともできる。トップがしっかりとビジョンを語り、組織のそれぞれが当事者として実践していくことが大事だと思っています」
学内公募企画から誕生した大学公式キャラクターの「えこぴょん」がそばに
大人世代に必要なのは「学び続け、自分を更新していくこと。そのためには、常に謙虚な心を」とコーさん
motto
〈変えられるものを変えなさい/変えられないものは受け入れなさい/その違いを見分けなさい〉。高校時代、ミッションスクールで教わった祈りの言葉はDEIの精神にも通じる。
photography:Tomoko Meguro hair&make-up:Miho Kanesawa(MAKEUPBOX) text:Michiko Otani ※エクラ2026年9月号掲載
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