更年期世代の「手指の不調」痛み、しびれ、こわばりの原因と対策

更年期になると手指に痛みやこわばりが生じて、ビンの蓋が開けにくい、パソコンが打ちにくいなど、手指のトラブルが続出。これって何……? 治るの……?と不安を抱えているエクラ世代のために、池上整形外科院長の池上亮介先生が不調の現れる部位をご紹介。

 

50代に多い「手指の違和感」8パターン

こんな症状、思い当たりませんか?その痛み、しびれ、こわばり、気のせいではありません。
 

①朝の起き抜け、指が痛くて握れない!

朝の起き抜け、指が痛くて握れない!

②あれ? なんだか関節、腫れてる?

あれ?なんだか関節、腫れてる?

③物をつかもうとしても、いやだ、つかめない!

物をつかもうとしても、いやだ、つかめない!

④指を曲げると、カクカクしちゃう…!

指を曲げると、カクカクしちゃう…!

⑤曲げると痛くて、OKマークができません!

曲げると痛くて、OKマークができません!

⑥ペットボトルも、ビンの蓋も、開けられなーい

ペットボトルも、ビンの蓋も、開けられなーい

⑦この指先のしびれは何!?

この指先のしびれは何!?

⑧指も手首も痛くて、キーボードが打てない!!

指も手首も痛くて、キーボードが打てない!!

指の不調は「この部位」に現れる

教えて下さった方
池上整形外科院長 池上亮介先生

池上整形外科院長 池上亮介先生

医学博士。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本手外科学会認定手外科専門医。著書は『痛み・こわばり・変形を自分で改善!よくわかるへバーデン結節』(ナツメ社)など。

エストロゲンの減少で滑膜(かつまく)が腫れ、炎症が起きやすくなる

更年期になると続発する、これまでになかった手指のトラブル。なぜこんなことが起きる?

「女性ホルモンのエストロゲンには手指の関節や腱のまわりにある滑膜という組織の腫れを抑える働きがあります。しかし、エストロゲンが減少する更年期になると、この働きが低下し、滑膜が腫れて滑膜炎が起きやすくなります。すると靱帯(じんたい)がゆるんで関節がグラつき、軟骨が摩耗するため、手指のトラブルが起きやすくなるのです」(池上亮介先生)

更年期に多い手指のトラブルは原因によって2つのタイプに分けられるとか。「ひとつは手指の関節の軟骨がすり減って関節が変形する“変形性関節症”タイプで、へバーデン結節、ブシャール結節、母指CM関節症などがあります。もうひとつは“腱鞘炎(けんしょうえん)”タイプ。ばね指、ドケルバン病、手根管症候群などがあります。放置すると進行することもあり、生活の質も下がるので早めの対策が肝心です」

痛い、しびれる、なんだかおかしい!更年期世代の「指の不調」は主にここに現れる

更年期に多い手指の病気は、症状が出る部位によって病名を診断することができる。以下の図で、自分の症状がある部位を照らし合わせて、何の病気が疑われるかチェックしてみて。

更年期世代の「指の不調」は主にここに現れる

①指の第1関節が腫れて痛む《へバーデン結節》

②指の第2関節が腫れて痛む《ブシャール結節》


③親指のつけ根に激しい痛み《母指CM関節症》


④親指のつけ根の腱鞘炎《ドケルバン病》

更年期世代の「指の不調」は主にここに現れる2

⑤親指〜薬指の半分がしびれる《手根管症候群

⑥指がばねのように跳ね上がるばね指

「腱鞘炎」による手指の不調

更年期に多い手指のトラブルのひとつが腱鞘炎が原因のもので、代表的なのは以下の3つ。手指の使いすぎも原因になるが、更年期に劇的に増え、妊娠中や産後にも起きやすいので、エストロゲンの変動の影響が大きいとされる。

ばね指

こんな症状が
□指がばねのようにカクンと跳ねる
□親指、中指、薬指などに症状がある
□指の曲げ伸ばしができず痛みがある
□朝起きたときに指が曲がらない

【発生メカニズム】

更年期世代の手指不調は、“腱鞘炎”が原因「ばね指」
指のつけ根の腱鞘(中を腱が通るトンネル状の組織)に炎症が起きて腫れることで腱がトンネルに引っかかり、指の曲げ伸ばしがうまくできず、ばねのように跳ねてしまうのがばね指。悪化すると指が動かなくなることも。
病院では、消炎鎮痛剤の湿布や塗り薬、ステロイド製剤の注射などを処方

【治療法は?】

病院では、消炎鎮痛剤の湿布や塗り薬、ステロイド製剤の注射などを処方。これで治ることが多い。ただし数回注射をしても再発する場合は、腱鞘を切開する手術を行うことも。

そのほかにも……

手根管症候群

こんな症状が
□人さし指、中指に痛みやしびれがある
□親指のつけ根の膨らみがやせる
□物をつまむ動作がしにくい
□明け方に痛みが強くなりやすい

手根管症候群

【発生メカニズム】

手首から手のひらの中央を通る正中神経が手根管というトンネル状の部分に圧迫されて発症。人さし指や中指に痛みやしびれが生じ、進行すると親指や薬指にも症状が出る。親指のつけ根の膨らみがやせることも。

【治療法は?】

消炎鎮痛剤の塗布、サポーターでの固定、ビタミンB12、ステロイド注射などを行う。それでも改善しない場合、横手根靭帯を切開して神経の圧迫を取り除く手術をすることもある。

ドケルバン病

こんな症状が
□手首の親指側に腫れや痛みがある
□親指を広げる動きをすると痛む
□手を握り手首を小指側に曲げると痛む
□親指を酷使し続けると腱鞘が厚くなり、症状がひどくなる

ドケルバン病

【発生メカニズム】

手首の親指側にある腱鞘と、そこを通る腱に炎症が起きた状態。腱鞘の中の腱の動きがスムーズでなくなることで、手首の親指側が痛み、腫れる。親指を広げたり、動かしたりするとこの部分に強い疼痛が走る。

【治療法は?】

装具をつけて固定して安静にしたり、湿布、腱鞘内ステロイド注射などの治療で改善することが多い。改善しないときや再発を繰り返す場合は、腱鞘を切開する手術を行うこともある。

「変形性関節症」による手指の不調

変形性関節症によって起こる不調は、更年期に多い手指のトラブルのひとつ。主に以下の3つの症状がある。エストロゲンの減少に加え、手指の使いすぎも大きな原因に。ただし、軽度であれば自然に治ることもある。

へバーデン結節

こんな症状が
□指の第1関節に腫れや痛みがある
□指の第1関節が曲がって変形する
□第1関節がこわばり動かしにくい
□朝起きたとき、指がこわばり動かしにくい

へバーデン結節

指の第1関節の近くに水ぶくれのような透き通った出っぱりができることもある
指の第1関節の近くに水ぶくれのような透き通った出っぱりができることもある。これをミューカスシスト(粘液嚢腫)と呼ぶ。これはへバーデン結節のサイン。
へバーデン結節は朝起きたときに症状が出やすく、
へバーデン結節は朝起きたときに症状が出やすく、起床時に手がこわばって指がうまく動かせないという症状が起きやすい。

【発生メカニズム】

指の関節の骨の表面にある軟骨が何らかの理由ですり減って骨同士がぶつかり、この刺激で骨が変形したり骨の棘ができたりして結節を作る。この結節が神経を圧迫し、関節を包む関節包の中で炎症が起き、痛みが発生。

【治療法は?】

患部にテーピングをして固定し変形を防いだり、関節内へのステロイド注射、消炎鎮痛剤の外用や内服などで治療。ほとんどの場合、半年〜1年、長くても2年程で痛みは治る。変形がひどく生活に支障をきたす場合は手術で改善可能。

そのほかにも……

ブシャール結節

こんな症状が
□指の第2関節がコブ状に膨らむ
□指の第2関節が曲がって変形する
□第2関節がこわばり動かしにくい
□朝起きたとき、指がこわばり動かしにくい

ブシャール結節

【発生メカニズム】

指の第2関節がコブ状に膨らんで指が曲がって変形する病気。へバーデン結節と発症のメカニズムは同じ。痛みが強い場合と、まったく痛みがない場合がある。関節の変形が進行すると曲がりにくくなる。

【治療法は?】

患部へのテーピング、ステロイド注射、消炎鎮痛剤などで治療。へバーデン結節と同じように自然に治っていくことが多い。改善しない場合は人工関節を入れる手術を行うこともある。

母指CM関節症

こんな症状が
□親指のつけ根に痛みがある
□親指に力が入らず蓋が開けにくくなる
□親指のつけ根が膨らみ手が開きにくい
□進行すると亜脱臼することも


※自分ではずれた関節を戻せる程度の脱臼のこと。

母指CM関節症

【発生メカニズム】

親指の指先から3つ目の手首に近い関節がCM関節。よく使う部位なので関節軟骨がすり減り痛みが生じる。へバーデン結節やブシャール結節と違ってしだいに悪化することも多く、手術が必要になることもあるので注意。

【治療法は?】

消炎鎮痛剤入りのはり薬をはり、CM関節保護用装具や包帯などで動きを制限。改善しない場合は消炎鎮痛剤の内服や関節内注射を行う。亜脱臼を伴う変形がある場合は手術をすることも。

不調を緩和する「7つのセルフケア術」

手指の不調は、セルフケアでも緩和が可能。池上先生のおすすめは以下のような方法。手指に少しでも違和感を覚えた段階からこまめに行っておくと、進行の予防にもつながるので、ぜひ習慣に。

1.関節ほぐし

手指不調のセルフケア 関節ほぐし
「手指の病気は、腫れ、つまりむくみによって腱鞘が狭くなると起こるので循環をよくしてむくみをとることで改善しやすくなります。痛みのある関節を指の背と腹からはさんだり、左右からはさんでよくもみほぐすのがおすすめ」

2.関節プッシュ

手指不調のセルフケア 関節プッシュ
「関節ほぐしと一緒に行うとよいのが関節プッシュ。痛みのある関節を指で優しく上下からはさんでリズミカルに押します。次に左右からはさんで同様に。病院で処方される消炎鎮痛剤の軟膏を塗って行うとより効果的です」

3.手首ぶらぶら

手指の不調セルフケア 手首ぶらぶら
「朝起きたときに症状が出やすいのは寝ていると循環が悪くなってむくみやすくなるからです。起床時に手首をぶらぶらと振ると循環がよくなってむくみが解消し、痛みやこわばりが改善しやすいので取り入れてみましょう」

4.手温浴

手指の不調セルフケア 手温浴
「朝起きたときに手のこわばりや痛みがつらい場合、手温浴をするのもおすすめ。洗面器に42℃程度のお湯を張り、両手をつけて温めます。お湯の中で手のグーパーを繰り返すのもよいです。痛みが緩和しやすくなります」

5.グーパー体操

手指不調のセルフケア グーパー体操
「手指の循環をよくするのにおすすめなのがグーパー体操。腕を前に出し、両手を握ってグーにして5秒キープ。次にゆっくり開いてパーにして5秒キープ。これを10回ほど繰り返します。一日に2〜3セット行いましょう」

6.指開閉運動

手指不調セルフケア 指開閉運動
「手指の病気は、腫れ、つまりむくみによって腱鞘が狭くなると起こるので循環をよくしてむくみをとることで改善しやすくなります。痛みのある関節を指の背と腹からはさんだり、左右からはさんでよくもみほぐすのがおすすめ」

7.ぐるぐるテーピング

手指不調のセルフケア ぐるぐるテーピング
「へバーデン結節やブシャール結節の場合は、テーピングをすることで変形の進行を抑えられます。市販のサージカルテープで症状のある関節の上下3cm前後をつけ根側からぐるぐる巻けばOK。きつく巻くと鬱血(うっけつ)するのでゆるめに、指先を少し残して巻くのがポイントです」

手指に不調が起きた時のQ&A

手指の不調が起きたときの疑問に、池上先生が回答。覚えておくと症状の緩和やQOLの向上につながり、過度に不安を感じることもなくなるのでチェック!

Q.手指の不調を感じたら、受診すべきは何科? 受診するタイミングは?

A.「整形外科を受診しましょう。最近増えている手の外科ならよりよいです(手外科学会HPで検索可。https://www.jssh.or.jp)。受診すれば進行が防げるので少しでも症状があったら早めに受診を」

Q.手指の痛みや腫れを放置するとどうなる?

A.「へバーデン結節やブシャール結節は痛みは自然治癒することが多いですが、変形は残ります。母指CM関節症は進行するので注意。腱鞘炎タイプの病気は一回なると治りにくく、手術が必要となることも多いので早めの受診が賢明です」

Q.更年期が終われば、今の手指の不調は改善するもの?

A.「更年期が終われば痛みは自然に治ることが多いので、過度に不安にならなくても大丈夫です。ただし変形は治らないので、変形の兆候があったら早めに受診して進行を食い止めるのがおすすめです」

Q.更年期の手指の不調は遺伝要素もありますか?

A.「遺伝については証明はされていませんが、変形性関節症タイプのほうは親など血縁者にこの病気の人がいると自分もなることが多いようです。腱鞘炎タイプは遺伝的要因はないといわれています」

Q.リウマチや、脳や神経の病気からくる指の不調と、更年期の指の不調の見分け方は?

A.「リウマチは第1関節の痛みはほぼなく、手首や肘、肩、足首など全身の関節にも症状が出るのが特徴。また、脳の病気の場合は両腕や両脚にしびれなどが出ることが多く、呂律障害や意識がぼんやりするなどの症状も出やすいのが特徴です」

Q.ホルモン治療で手指の不調は改善する?

A.「手指の不調が、手指の酷使でなく、エストロゲンの減少が原因で起こっている場合は、婦人科でホルモン補充療法を受けると改善しやすくなります。エストロゲンと似た効果があるエクオールをサプリメントでとるのも効果的」

Q.手指の不調があるときは、指を動かさないほうがいい?

A.「手指の不調があると動かさないほうがいいと思いがちですが、体操などをして動かすと循環がよくなって症状が改善しやすいので動かすほうがおすすめ。ただし日常生活で手指を酷使するのはNG」

Q.手指の不調があるときも快適に過ごすための、日常生活の工夫は?

A.「手指の不調があるときは手指に負担をかけないことが大切。例えば、蓋を開けるときはオープナーを使うなど下図のように便利な道具をうまく利用して、手指の負担を減らしましょう」

筆記具はグリップが太めのものにする

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料理には菜箸でなくトングを使う

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蓋はオープナーを使えば余計な力がいらない

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毎日の歯磨きは電動歯ブラシで

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