平城京があったため、茶、豆腐、しょうゆなど、和食のルーツとなる食材や料理法が伝来・発達した日本の食文化発祥の地、奈良。隠れた名店も点在しており、これまでにない口福をもたらしてくれるに違いない。
つるべすし弥助
800年の時を刻む、熟れ鮨発祥の店
日本最古の鮨、鮎の熟れ鮨発祥の店。平安末期にさかのぼる希少な存在
吉野の里に、鮨の原風景。『義経千本桜』で知られる”すし屋”
修験道や桜の名所として知られる奈良・吉野にある、創業800年と伝わる日本最古の鮨の老舗。その存在は文楽・歌舞伎の名作『義経千本桜』三段目「すし屋」の舞台となった「釣瓶鮨(つるべすし)本家」そのもの。ならず者から悲劇の改心をする主役の“いがみの権太”は、七代目のご主人がモデルと伝えられている。
かつては鮎を3日から1週間発酵させる「鮎の熟(な)れ鮨」の名店として知られ、400年ほど前、御所へ献上していた際に用いていた桶が井戸のつるべに似ていたことから「つるべすし」と称されるようになった。現在は誰の口にもなじむ味わいを大切に、焼いて自家製のタレに漬け込んだ鮎を押し鮨にして提供。コースのひと品として楽しめる。「古びることなく今の感覚の味も大事にしながら、建物や庭の価値も生かしていきたい」と話す50代目主人の宅田太郎さん。純木造の建物や山の斜面を利用した庭も貴重で、古き時代にふと迷い込んだような気分に浸れる。
店の歴史が刻まれた部屋の意匠やしつらえも魅力
部屋からは山の斜面を利用した庭園を展望。春には窓一面が新緑に染まる
コースは¥5,500 〜(サービス料別)。鮎とちりめん山椒がのった「焼きあゆ山椒ずし」、「天然鮎の塩焼き」は年間を通して提供。完全予約制
重厚なたたずまいは昭和初期の建物。座敷と広間を備えた3階建ての純日本建築
文楽・歌舞伎『義経千本桜』の「すし屋の段」の舞台モデルとされ、その世界観を今に伝える
店からほど近い下市町阿知賀に現存する「いがみの権太」の墓。文楽・歌舞伎の権太は、札付きの悪党・やんちゃ者だが、実は情に厚いキャラクター。関西では、やんちゃな子供を”ごんた”と呼ぶことも
Data
奈良県吉野郡下市町下市533
TEL.0747・52・0008
11:30~14:00、16:30~20:00
定休日:水曜(祝日の場合は翌日)
撮影/伊藤 信 取材・原文/西村晶子 ※エクラ2026年5月号掲載