新作演劇『わたしの書、頁(ページ)を図る』で、訪れる人々を観察し、妄想をふくらませる図書館職員を演じる木村多江さん。今回の出演には、少なからぬ恐怖心も抱いていたという。その理由と、いま取り組んでいることを聞いた。
ジャケット¥99,000/モールド(チノ) イヤリング¥13,200/エテ パームカフ¥46,200/リューク
子供のころからずっと本が好きで、今でも手にとるのは紙の本。たおやかな指先でページをめくる仕草は、きっと絵になるだろう。7月、木村多江さんが主演する新作演劇『わたしの書、頁(ページ)を図る』の舞台は図書館。静謐(せいひつ)な知の殿堂で、訪れる人々を観察し、妄想をふくらませる図書館職員という役どころだ。
「私も、割と妄想たくましいほうです。若かったとき、お金がない中で俳優としての財産を増やしたくてやっていたのが、人間観察。『この人は何をしている人だろう』『なぜこんな洋服の組み合わせを?』と想像しながら、ちょっとだけ後をついていったりして(笑)。
今回の作品で演じる図書館職員の町子は、あるトラウマを抱えた女性で、なるべく人とかかわらず、安心できる場所にいたい人。来館者たちの境遇を勝手に想像して、自分はその人たちに癒しを与えているのだとして、自分の存在意義を維持しているんです」
図書館は、本で築かれた彼女のサンクチュアリ。しかし、そんな日々を揺るがすできごとが――。現実と妄想を行き来する物語のカギになるのが、劇中に織り込まれた歌の場面。それに向け昨年から、木村さんは体の「改造」に取り組んでいる。
「おなかだけでなく、足のつけ根から背中まで胴体いっぱいに空気を入れて、それを声にして送り出す。のどは通り道なだけなので、痛めることがありません。歌うことは体を楽器にすること。まずは、ちゃんと響く楽器づくりから始めようと」
入念な準備には、理由があった。2年前に出演した舞台で思うように声が出せず、失意での幕引きを経験。今回の出演には、少なからぬ恐怖心も抱いていた。
「もう舞台はやめたほうがいいんじゃないか、というくらい落ち込みました。でも、20代のころから、楽な道といばらの道があったら自分はいばらの道のほうを選んで進むのだと心に決めていたので……。
思えば、50代になってから、忍者の役で本格的なアクションに挑戦したことがありました。あのときも本当に怖かったけれど、トレーニングを重ねていくうちに『あれ、もしかして私、動けるのかも?』と。もう50代だし、できるわけがないと、自分で勝手に限界の枠をつくっていただけだったんですよね。今回も、踏み出した以上は走りきるしかない。絶対できる!と、自分を信じてあげたい気持ちです」
いつからでも人は変われる。新たな一歩を踏み出せる。朝晩のストレッチや表情筋のトレーニングといったルーティンが、作品に向き合う心身を支えている。
「小さなことでも、続けていると確実に効果が出るんですよ。以前は、今日の私が一番若いんだ、明日は1日年をとるんだから、と信じ込んでいましたが、今は、昨日より少しだけ若返っているかも?と感じる瞬間もあったりします」
紀伊國屋書店創業100周年記念公演 『わたしの書、頁(ページ)を図る』
気鋭の劇作家・小沢道成が「ロックな木村多江を」と当て書き。「人は滑稽で、愛おしい。そんな作品になると思います」と木村さん。味方良介、光嶌なづな、中井智彦、坂口涼太郎、猫背椿が共演。
7/3〜19、紀伊國屋ホール
問☎0570・00・3337(サンライズプロモーション)
きむら たえ●東京都生まれ。舞台での活動を経て、’96年にドラマデビュー。その後、数々のドラマや映画に出演。最近の出演作にNetflix映画『This is I』、映画『Never After Dark』(6月5日公開)、『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』(6月12日公開)、舞台『台風23号』など。NHK Eテレ『木村多江の、いまさらですが…』ではレギュラー出演し、MCを務める。
photography:Satoshi Kuronuma(aosora) hair& make-up:Ikuko Tsuchiya(FACE-T) styling:Miho Naruko text:Michiko Otani ※エクラ2026年7・8月合併号掲載