女性にとっての人生の大きな節目、「閉経」。閉経後の人生をより豊かなものにするには、生活習慣の見直しとともに、「心のもち方」も重要だという。そのヒントを、産婦人科医の善方裕美先生にうかがった。
教えてくれた先生
よしかた ひろみ●よしかた産婦人科院長・横浜市立大学産婦人科客員教授。更年期の女性に対し、ホルモン補充療法、漢方薬、生活指導など多方面のアプローチで治療にあたる。著書は『女医が教える閉経の教科書』(秀和システム新社)など。
閉経は“生殖からの解放”。新たなステージの幕開け
アフター更年期を健やかに過ごすために、まず整えたいのが生活習慣。
「10年後、20年後の自分をつくるのは日々の生活習慣です。特に意識したいのは食事、睡眠、運動の3つ。特別なことをする必要はありませんが、できるところから整えていきましょう」
善方先生がすすめる生活習慣の具体的なポイントは食事・睡眠・運動。健康を保つ土台となるものなのでぜひ実践を。ただし、それだけで十分ではなく、もうひとつ重要なのが“心のもち方”だという。読者アンケートでは、「女性でなくなる」「女性らしさが失われる」など、閉経をネガティブにとらえる人も。こうした思い込みは、どうしたら手放していけるだろうか。
「そもそも卵巣の寿命がたかだか50年ほどしかないのは、子孫繁栄のための臓器だからで、閉経はいわば“生殖からの解放”です。妊娠や出産という役目から解放されるだけで、女性でなくなることは生物学的にありえません。生殖機能があること=女性らしさだ、とするなら、女性を“産む道具”だと思っているのと同じことになってしまいます。
価値観が多様化した現代では“女性らしさとは何か?”という問いに対して統一された答えはなく、人それぞれに違うものでしょう。私は“きめ細かでていねい”なことではないかと思います。更年期が“荒れ狂う嵐の海”だとすれば、閉経後は“静かに月光を反射する湖”。女性ホルモンに振りまわされていた時期が終わり、人生のステージをグレードアップできるのですから、閉経は“人間として新しい自由を手に入れた記念日”だと思えばいいのです」
閉経を機にスピードをゆるめ、体を労って歩んでいこう
一方、閉経によって老いや体力の衰えを感じ、不安や悲しさを抱く読者も。
「男性は閉経がないぶん、体力さえ維持できていれば大きな変化を感じにくいですが、女性は閉経という節目で、どうしても老いを意識させられます。ただ、これは裏を返せば、これからの生き方を見つめ直す機会でもあるということ。
自分の体を愛車にたとえるなら、新車のうちは高速道路をスピードを出して飛ばし、できるだけ遠くまで行こうとしますよね。でも、長く乗り続けるためには、だんだん距離を短めにし、悪い道は避け、ていねいにメンテナンスしながら乗るようになっていくもの。今まで自分の体に鞭打って走り続けてきた人も、これからは無理をせず、体を労りながら歩んでいく時期なのです」
トップスピードで走り続けることがよいわけではなく、ギアを替える時期がきたと思えばいいと善方先生は話す。
「スピードを落としたぶん、今までは見えなかった道端の花のような小さなことに気づけるようになる。それも人生の豊かさです。年齢を重ねるごとに体は衰えても、感性や物事を察知する力は、むしろ研ぎ澄まされていく。いろいろな経験を積み重ねてきたからこその深みも出てきますし、好きなものも年齢とともに厳選されていきます。
だからこそ、アフター更年期はおもしろい。自分らしく心地よく生きるために、自分を慈しんでいきましょう。それも大切なセルフケアのひとつです」
取材・原文/和田美穂 イラスト/正田えり子(asterisk-agency) ※エクラ2026年10月号掲載